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第百二話 フィーレ子爵救出

「お館様、すでに半数の機体がやられました!」


「まだ半数が残っていたのか……。我がフィーレ子爵家の操者たちは、私が思っていた以上に凄腕揃いだったのだな」


「交代で洞窟の入口を守るだけで、防衛側が圧倒的に有利な点を考えなければ、うちは精鋭揃いでしょう」


「事実というのは、なんとつまらないことか!」




 突如、我がフィーレ子爵領を多数の異邦者が襲ってきた。

 最初は無法者だと思ったのだが、どうも見た目がおかしい。

 金属の塊と剥き出しの筋肉と血管が交じり合ったような不気味な見た目をしており、続々と姿を現したその数は尋常ではなかった。

 絶望の穴に従軍したことがある家臣が異邦者であると確認したので、異邦者であろう。

 そんなことがわかったところで、我々が絶望的な状況に置かれたのは事実に違いはなかったのだが。

 奴らは家屋を破壊して人を襲い始めたので、私は急ぎ家族や領民たちに避難を命じた。

 屋敷の近くには洞窟があり、ここに多くの領民たちが命からがら逃げ込んできたが、その数は決して多くない。

 全員が殺されたとは思わないが、私は人間を食らう異邦者をその目で見てしまった。

 洞窟に逃げ込めなかった者の生存は絶望的だろう。

 洞窟の前に、フィーレ子爵家が所持する大半の魔晶機人と、私の操縦する魔晶機神を配置して守り始めるが援軍は期待できないため、私たちを含めて全員が、死を先延ばしにすることしかできないだろう。

 なぜなら、援軍に来るべきサクラメント王国軍の主力は、間違いなく攻め込んだリーアス王国領内で足止め……いや、我々と同じように異邦者たちの大群に襲われ、壊滅している可能性すらあった。


「一番弱い兵士クラスとはいえ、数が多すぎる!」


 なんとか乗り慣れない魔晶機神を動かし、大剣を振るって異邦者たちを倒していくが、なかなか数が減らない。

 一族や家臣たちの操る魔晶機人も次々と撃破されてしまい、全員が死んでいないはずだが、下手に機体から脱出すれば異邦者に食い殺される。

 援軍が来なければ、生き残ることは困難だろう。

 もはや脱出手段もなく、あとは一体でも多くの異邦者を道連れにし、貴族としての名を残すのみ。

 そう覚悟を決め、大剣を握り直した直後、目前に迫った多数の異邦者たちが上と下に斬り裂かれ、地面に落下した。

 さらに、リズミカルな暴音と共に糸が切れた凧のように地上へと落下し、大量の血を噴き出しながらそのまま動かなくなってしまった。


「魔法か?」


 いや、魔法では一度にこれだけの数の異邦者を落とすことはできない。

 魔晶機人に乗れない魔力量しか持たない魔法使いでは、数体の兵士クラスを倒すのが精一杯だ。

 魔力が多ければ、魔晶機人に乗った方が安全に効率よく魔物や異邦者を倒せるのだから。


「フィーレ子爵、無事ですか?」


「その魔晶機神は……エルオール殿か?」


「はい」


 助かった……。

 だが、今のエルオール殿はゾフ王国の貴族だ。

 彼がここにいるということは、サクラメント王国が外敵に対する防衛力を喪失している証拠であろう。


「(だから、無謀な外征などしなければよかったのだ! サクラメント王国は、すでにボロボロでないか! サクラメント王国南方の守りの要であるフィーレ子爵としては無念だが……)」


 元はといえば、陛下がリーアス王国に攻め入ったのが原因だ。

 絶望の穴から膨大な数の異邦者たちが飛び出し、世界中に飛び去る前に連合軍を全滅させた件は予想できなくても仕方がない。

 だが、世界を敵に回すかもしれない無謀な出兵をした挙げ句、国内の防衛力が不足して異邦者たちに蹂躙されては世話がないのだから。


「(なにより、フィーレ子爵領は甚大な被害を受けてしまった……)」


 洞窟に逃げ込めた領民たち以外に、どれだけの数が生き残っているか……。

 結界が通用しない異邦者たちが多数世界中に放たれた。

 サクラメント王国のみならず、世界中が混乱しているはずだ。


「(領民たちのこともある。我々には強い主君が必要なのだ)」


 フィーレ子爵家はこれまで主君を変えたことなどなかったが、この状況に至っては仕方がない。


「エルオール殿、ひとつ頼みたいことがある」


「なんでしょうか?」


「領民たちをゾフ王国に避難させてくれないか」


「お館様!」


 私のその言葉の意味に気がついた家臣がそれを止めようとするが、もう他に手がないのも事実であった。

 すでに領都は異邦者によって破壊され、さらに異邦者には結界が通用しない。

 人的被害も多く、復興に膨大な時間がかかることは確実で、さらに再び異邦者に襲われないという条件も必要なのだ。


「このままボロボロになったフィーレ子爵領に領民や家臣たちが残っても、また異邦者たちに襲撃されるだけだ。エルオール殿がここにいるということは、ゾフ王国は異邦者の侵入を防ぎきれている証拠だろう。我々操者や男性はともかく、子供と女性は安全な場所に避難させなければならない」


 サクラメント王国貴族である私が、領民と家臣たちを預けることの意味。

 それは、フィーレ子爵家がゾフ王国の貴族になるということだ。


「フィーレ子爵、あのぅ……。それはあくまて一時的なお話ですよね?」


「いや、残念ながらフィーレ子爵領の復旧には時間がかかるし、サクラメント王国の支援は期待できないだろう。なにより、リーアス王国に出兵したサクラメント王国軍が、現地で異邦者たちによって壊滅している危険もあるのだ。そんな悠長なことを言っている場合じゃない。ファーレ子爵家は、ゾフ王国のき……」


「フィーレ子爵、それはその!」


「どうかしたのか? エルオール殿」


 フィーレ子爵家がゾフ王国に所属するというのに、エルオール殿はどうしてそんなに顔を青くさせているのだ?

 大きな手柄だろうに。


「リンダ、エルオール殿はどうかしたのか?」


「父上、それがですね……。リリー様とグレゴリー王子が、私たちに同行しておりまして……」


「リリー様とグレゴリー様が、ここにいる?」


「フィーレ子爵、バカな父のせいで災難であったの。残念ながら、今のサクラメント王国も、未来のサクラメント王国も、フィーレ子爵領を手助けする余裕がないかもしれぬ。今回、ゾフ王国の助けを借りて王都への帰還とグレゴリー兄の新王即位を目指しておるが、サクラメント王国の財政状況を考えると、南部は重荷となってしまうであろう。ゾフ王国に譲渡することも考えねばならぬから、遠慮せずにゾフ王国に頼ってくれ」


「ええと……」


 どうして、私がゾフ王国に所属を変える……裏切ると宣言した場に、リリー様が?


「そうだな。今回の事件で、サクラメント王国は南部を抱える余裕はなくなるはずだ。そういえば、リンダ殿はゾフ王の側室になるのだし、他国より嫁ぐ姫には貴族がつけられる。フィーレ子爵がゾフ王国になることを許可しよう。悲しいかな、今の我々にフィーレ子爵領の領民たちを保護する力はないのでな」


「グレゴリー様……」


 どうしてこんなにタイミングが悪い時に、このお二方が私の目の前に?


「(なんか、クラクラしてきた……)あのぅ、私は……」


「状況が状況だけに仕方がない。もし父が率いていた軍勢が壊滅していた場合、南部に手を貸す余裕がなくなるのじゃから」


「半分……いや、せめて三分の一だけでも逃げ帰ってきてくれ」


「グレゴリー兄、楽観論は禁物じゃぞ」


「というわけで、サクラメント王国はフィーレ子爵の不忠を気にしている暇などないのだ。なにより、リンダがゾフ王の側室になるからな。おかしな話でもあるまい」


「あのぅ……。さっきから、リンダがゾフ王の側室になるという話が出ていますが、リンダはエルオール殿の正妻になるのですよ」


 ゾフ王が、リンダを側室として望んだというのか?

 そんな話は初耳だが、いくらゾフ王が望んでも、そう簡単に受け入れるわけにいかない。

 私は、エルオール殿を見込んでリンダを嫁がせるのだから。


「フィーレ子爵に説明するのを忘れておった。フィーレ子爵、実はゾフ王の正体はエルオール、グラック男爵でな」


「はい?」


 エルオール殿が、私の婿殿がゾフ王?

 一瞬、私の頭の中が真っ白になった。


「それは冗談などではなく?」


「こんな時に、冗談を言っている場合ではないのでな。詳しい説明はあとじゃが、エルオールはゾフ王であり、彼の正妻はゾフ王国最高執政官であるアリスなのじゃ。リンダは、側室ということになるが、そこは我慢してくれ」


「……えっ?」


 異邦者の大群からどうにか生き残ったと思ったら、私を救ってくれたエルオール殿がゾフ王だったなんて……。

 頭の中がこんがらがりそうだが、今は生き残った領民と家臣たちを後方に避難させるのが最優先だ。

 幸いというか、リリー様とグレゴリー様の許可も貰ったからな。

 心臓が止まるかと思ったが、リンダはいい人の妻になれたのだと思い、今からはゾフ王国貴族として生きていこう。

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― 新着の感想 ―
まぁ作者は神だから読者のツッコミは無視ですよ。 ね、フィネス!
エル「またスローライフが遠のいた・・・」 もう無理だろいやずっと前から無理だったとは思うが
フィール? フィーレ? ファーレ? 他にもありそうです。
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