プロローグ どうしてこんなことに?
前に書いて、そのままにしていた作品です。
「現時点で生き残っているすべての『魔晶機神』及び、『魔晶機人』の操者たちに告げる! 『絶望の穴』より本命が現れたぞ! 全長五百メートル級を超える大要塞クラスだ! 数百年に一度出るか出ないかの『異邦者』だ! 当然逃げることは許されない。君たち操者は選ばれし選良なのだ! 特権もあるが義務もある! 必ずこれを落としてくれ!」
『『『『『『『『『『『『了解!』』』』』』』』』』』
「(どうしてこうなった? 私は田舎の村でのんびりとスローライフを送る予定だったのに……)」
『グラック卿? 応答は? まさかやられたのか?』
「いえ! 了解しました!」
『君は今回の『大異動』において、一番多くの『異邦者』を落とした功労者だからな。たとえ相手が大要塞クラスであろうと、必ず落とせるはずだと期待しているぞ』
「お任せください!」
『それを聞いて安心したよ』
無情にも、魔法通信機を通じて司令部から下る敵機撃墜命令。
相手は全長五百メートルを超える大要塞クラスの『異邦者』であった。
異邦者とは、この世界のほぼ中心部にある直径十キロほどの巨大な穴『絶望の穴』から定期的に湧き出る異形の生物のことを差す。
動物、植物、虫、魚、爬虫類……その他、巨大な人型だったり、軍艦を模していたりと。
生体と機械が入り混じった、かなり生理的嫌悪感を覚える外見をした生き物……多分生き物だと思う……で、定期的に絶望の穴から湧き出てくるので、これを駆逐する必要があった。
あまりに形態パターンが多すぎるため、異邦者はその大きさでクラスを決められており、これから私が戦うのは、滅多に湧き出てこない大要塞クラス。
全長五百メートル超えの化け物であった。
一見コマ型をした、どこぞのアニメにでも出てきそうな機動要塞のような形をしているが、金属部分の上部を這うように血管のようなものがドクンドクンといっていたり、内臓のようなものが剥き出しになっていて、機械なのか生物なのか判断に悩む存在なのだ。
普段は全長十メートル以下の『兵士』と『小隊長』クラスしか出ないので、私たちが徴兵などされない。
絶望の穴周辺には、この世界にある大半の国家が連合軍を駐屯させ、定期的に湧き出る異邦者を駆除しているからだ。
絶望の穴から湧き出る異邦者への対処に関しては、普段は敵対し、定期的に戦争を起こしている国家同士でも、協力して当たることが常識になっている。
異邦者を放置すればすべてを破壊、殺戮され、魔晶機神や魔晶機人を操縦できない一般人の脅威となってしまうからだ。
稀に生身で魔法を用いて異邦者を倒せる者もいるそうだが、そんな人は滅多にいないので、戦力としては計算できない。
絶望の穴から湧き出た異邦者はすぐに駆逐するという方針の下、連合軍は世俗の争いを忘れて異邦者に対処するというのが決まりになっていた。
そして数年に一度、普段駐屯している連合軍では対処できない数の異邦者が湧き出ることがある。
その現象を『大異動』といい、この時ばかりは各国から大規模な援軍が出された。
その主力を担うのは、選ばれた者のみが操縦できる巨人、魔晶機神と魔晶機人という、甲冑を着た騎士のような外見をした人型兵器であった。
魔晶機神と魔晶機人。
この二つの違いは、その大きさによる。
全高十メートル以下を魔晶機人。
十メートル以上を魔晶機神。
これは、大きな魔晶機神の方が戦闘力が高いからなのだが、稀に全高十メートル以下でも魔晶機神と分類される機体もあった。
魔晶機神と魔晶機人。
特に魔晶機神は、すべての異邦者に対抗できる唯一の戦略兵器である。
加えてその戦闘力の高さで国を守り、または他国を威圧、時には制圧する手段でもあった。
実際紛争を抱えている国同士が、お互いに魔晶機神と魔晶機人を戦場に繰り出して戦うことなどそう珍しくもないのだから。
絶望の穴から湧き出る異邦者に共同で当たるというスタンスは崩さないが、長年紛争を続けている国はいくつも存在する。
そのため各国は、魔晶機神と魔晶機人を操縦できる操者を優遇した。
魔晶機神と魔晶機人を動かせる操者であるが、その条件として魔力が一定以上ある者というものがある。
魔力は血筋が大きく影響するそうで、操者の九割が貴族階級及び、以前は貴族であった者だ。
さらに、大きくて強い魔晶機神ともなると、操者はほぼ百パーセントが大貴族及び、王族の血筋となる。
まれに中級、下級貴族から魔晶機神を動かせる者が出ると、必ず大貴族が取り込もうとするくらい珍しい存在だと聞いた。
この世界で、魔晶機神を動かせる者は千名以下程度と聞く。
魔晶機人はその十倍ほど。
絶望の穴に連合軍を派遣しているのは全部で十ヵ国で、唯一連合軍を送らず鎖国をしている『アーベルト連合王国』を除くと、一つの国に魔晶機神の操者が百機前後、魔晶機人の操者が一千機前後という計算になるのか。
実際には、国によってかなり差があるそうだが。
ちなみに、魔晶機神と魔晶機人の機体はその倍くらいあるそうだ。
ただ動かせる操者の方が少なく、魔晶機人なら操者の才能があればどの機体でも動かせるが、魔晶機神だとこの機体は動かせても、他の機体は動かせないというケースが大半であった。
そのため、動かせずに余っている機体がとても多かったのだ。
とはいえ、ここ数百年で稼働できる魔晶機神と魔晶機人は半減していると聞く。
魔晶機神と魔晶機人は古に滅んだ超文明のオーパーツで、今でもたまに遺跡から出土することもあった。
だがそれ以上に戦争や異邦者との戦いで破壊され、稼働機数を減らし続けているのだ。
せめて戦争で壊すのをやめればいいのであろうが、異邦者という脅威があるにもかかわらず、人間とは争わずにいられない生き物なのであろう。
さすがに魔晶機神を国境紛争に出してくるバカな国はないが、魔晶機人だと地方の貴族やその一族なら動かせて、しかも保有しているものだから、よく出陣して壊されてしまう。
今の技術力でもある程度は修理できるが、魔晶機神と魔晶機人を動かす『魔導炉』を壊されてしまうとどうにもならない。
『魔導炉』を壊された魔晶機人は、哀れ他の機体の部品取り用か、廃棄処分となってしまうのだ。
当然異邦者との戦いでも損害が出るので、このままだとあと数百年でこの世界は異邦者に占拠されてしまうかもしれない。
それに危機感を覚えている人はいるのであろうが、なにか解決策が出たという話も聞かず、こんな言い方はよくないかもしれないけど、ならば私は自分が平穏無事に人生を送れればいいのだ。
冷たい言い方で悪いと思うけど、なぜ私がそういう考えに至ったのかといえば、それは私には前世の記憶があるからであろう。
「(私は地方の零細郷士の跡取りとして、領地でプチリッチにノンビリと過ごすはずだったんだ! こんな巨大な化け物と戦うはずじゃあ! そもそも私は魔晶機人の操者なんだぞ! 大要塞クラスなんて魔晶機神に任せれば!)」
「エルオール・グラック卿、この戦いが終われば、君にも昇爵の可能性があるやもしれぬ。軍に士官として推薦されるかもしれない。頑張ってくれたまえ」
「(嫌だぁーーー! 私はもう、職業軍人扱いで前線になんて出たくないんだぁーーー!)」
サクラメント王国の零細郷士グラック家の嫡男エルオールとしてノンビリと生きていく予定だったのに、どうしてこうなったんだ?
私はただ、己の人生を呪わずにはいられなかった。