5話
「おお葵よ。二度も死んでしまうとは情けない」
「……デジャヴ?」
目を覚ますと、ものすごく最近聞いたことがあるセリフを口にする。
「私も1日に二度もこのセリフを言うことになるとは思わなかったよ」
枕元に座り、小説を読んでいた緋色が本から顔を上げて苦笑いする。
俺だって日に二度も失神するなんて思わなかったよ。緋色の言う通りだ。我ながら情けない。
「どうやってここまで運んだんだ?」
俺が失神した場所から山の入り口まで10分以上はかかる位置だった。そして、入り口からこの家までは300段以上ある石段を登らなければならない。流石に緋色だけで運ぶのは無理だろう。
「ああ。近くに烏がいたから、錫に連絡とってもらって運んでもらったのよ」
この町に居る烏のほとんどが鴉天狗の眷属だってことは聞いたことがある。
だけどこれで合点がいった。力が強い天狗の錫だったら俺を担いで石段を登るなんて楽勝だっただろう。今度お礼言わなきゃな。
それにしても。
「え、ここのカラスってそんなに頭いいの?」
「なに言ってんの。この町のカラスネットワークは今流行りのSNS以上よ?携帯持ってないけど……」
確かに、町で悪霊や雑妖に絡まれていると、どこからともなく鴉天狗の誰かが助けに来てくれることがあったけど、それってこういうことだったのか。
今まで謎だったことに合点がいく。
「それじゃ無事に目を覚ましたことだし夜ご飯作ってね」
緋色が笑いながら夕食の催促をしてくる。
「なんでだよ!俺寝てたんだからたまには緋色が作ってくれてもいいじゃん!」
時刻はすでに20時。結構な時間失神してたようだ。
「いや~葵が作ったご飯の方が美味しいし。それにさっきまで看病してたからいいでしょ?」
確かに道端で失神した上に自宅の布団まで運んで看病してくれたのだから文句は言えない。
幸い明日は臨時休校ということだった。今から飯作って風呂入って寝たところで明日は早起きしないで済むから助かる。
それに、この鬼火山の結界は何人もの悪意ある者を妨げる。今日は悪霊の気に当てられてしまって気分が滅入ったが、明日一日はゆっくり過ごして英気を養うとしよう。
そして明日、緋色か爺さんに頼んで悪霊になった斎藤先輩を成仏させてもらおう。
うん。そうしよう。
「わかったよ。なにが食べたい?」
「オムライス!たまごがとろとろのやつね!」
「はいはい」
あまり手のかからないメニューで内心ほっとする。
たまごと鶏肉は冷蔵庫にあったっけ?
「あ。そういえば葵――」
布団から起き上がり、台所へ向かうため、寝室のドアを開けようとすると緋色が声をかけてくる。
ドアノブを回し、扉を開けると目の前にいるはずのない存在がいた。悪意あるものは入れないという結界があるというのに、目の前には悪霊と化した斎藤先輩が佇んでいた。
「――佳奈先輩憑いてきちゃってます」
俺は再び気絶した。