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セーリオ様の祝福  作者: あこ
「セーリオ様」「カムヴィ様」共通の話 (時系列順に並んでいません)
6/23

★ 溝は深くなるばかり。 :01

誰しも『他人に言われるほど、自分はそんな人間じゃない』と思った事が一度くらいはないだろうか?

心の中に留める人もいれば、「自分はそんな性格じゃないよ」とか「自分はそんな人間じゃないよ」と、声に出して否定した事がある人もいるのではないだろうか?

他人が思う自分を「そうじゃない」と否定した時、言った相手が考え直したり気が付いたりして「たしかに、そうじゃないかも」なんて理解してくれる事もあれば、逆に「絶対そう」なんて強く言われて平行線を辿る事もあるのではないかと思う。

人が思う自分と、自分が思う自分。

ここに時に思ってもいないほどの溝が生まれ、互いに「なんでそう思うんだ」と理解し難い様な事になっている、なんていう場合もあるのではないかと私は思う。

今回は、そんな、自分と他者との間で大きな溝(・・・・)が出来ている人の話をしたい。



ギャロワ侯爵家長男サシャ・ルメルシエには3歳年下のかわいい弟がいる。

名前はカナメ・ルメルシエ。

両親のいいところ取りをしたような愛らしい子供で、将来は美人になるだろうと誰もが言ったかわいい弟。

内面は母親に似て大変普通。そして泣き虫で怖がりだ。

雨と風が強い日、何度カナメはサシャの元を訪れただろう。

「にいさま……こわいよう」

そう言って廊下を走り震えて泣いて部屋に飛び込んでくるカナメを見ていると、3歳以上に年下の弟の様にも感じて、サシャは幼心に

──────絶対に(・・・)、弟を守らねば!

と固く決めたほどである。

何かにつけて──────例えば転んだとか、怖いとか、とにかく色々な事に反応して泣くカナメ。

サシャはこの家の誰よりも早く、カナメに対して心配性になった。

「ぼくがカナメを守ってあげる。お兄ちゃんは、カナメを怖がらせたり泣かせたりした相手がいたら戦ってやっつけてあげる!」

自分だって幼いのに、サシャはカナメに何度も何度も言い聞かせた。

可愛い兄弟愛だと両親は微笑ましく見守っていたが、最古参の執事は

──────このまま成長すると嫌な予感がしますなあ。

とぼんやり思っていたと言う。思っていただけで、この執事も可愛らしい兄弟愛の前に、この思いは一度だって口にした事はなかった。

しかしもし、彼が一度でも口に出してみていたら、この兄弟の未来は変わっていたのだろうか。謎ではあるが、気になるところだ。


サシャがカナメ関係で“転機”を迎えた一つが、カナメが精霊と契約をしたその時である。

あまりに無防備な方法で契約した5歳のカナメを見て、彼は“進化”してしまった。

少しドの強い(・・・・)心配性だったサシャが、弩級(・・)の心配性に進化(・・)したのだ。

これを進化じゃないと言う人もいるかもしれないが、サシャとしては進化であったので、ここではそれを尊重し進化としたい。

ともかく、その日を境に当時8歳だったサシャは早くも(・・・)弟に“弩級の心配性”なお兄ちゃんとなった。

その進化は続く。誰も止めないから続く。

第三者が「あれ?」と思った時には何もかも、手遅れであった。


その手遅れになったと言われるターニングポイントの一つが、カナメ10歳の時である。

カナメに大きな、一生を左右する様な“事件”が起きた。

正直に言って、精霊との契約の結果“天才になる才能”を得たなんて“事件”が瑣末な事になりそうなほどの大きな事件が。

この国の第一王子のマチアス・アルフォンス・デュカス。カナメが言う『アルさま』とカナメが婚約をしたのだ。

この婚約は第二王子のエティエンヌ・ダヴィド・ピエリックが学園を卒業するまでは、決して誰にも言わないと言う契約付きで。


この時のギャロワ侯爵家の騒ぎは今も語種となっている。

なにせ、カナメ本人がこの婚約を「なるほど、解消する前提かあ」なんていう軽い、本当に軽い気持ちで「うん」と言って了承──とは言え、王族からの“打診”なので返事は「うん」しかなかっただろうが──したのだ。

他の誰もがマチアスは本気であると知っているのに、当の本人は「アルさまの都合による期間限定のお付き合い」というゆるーい(・・・・)気持ちだったのだから、ギャロワ侯爵家の誰もがどれほど頭を抱えたか。想像していただけたらありがたい。

その何も理解していない緩(・・・・・・・・・・)()を見て、恐る恐るカナメの父であるギャロワ侯爵家当主シルヴェストルがカナメの気持ちを聞いてみれば、カナメはドヤ顔でこう言った。

──────アルさま、面倒な縁談を避けたくて、まあとりあえず、おれならなんとかなるかなーの気持ちで言ってるんでしょう?だからナイショの婚約なんだろうし、そういう王族訳ありの婚約ってあるみたいだもん。

と。

シルヴェストルは「そんな婚約があるって、そんな間違いどこで聞いたの、この子……」と口調まで崩壊して呟き崩れ落ち、母デボラは無言で気を失った。

唯一正気を保っていたサシャは、気持ちを新たにした。またしても、新たにした。

──────私がこの子を守らねば!如何なる(・・・・)悪意からも、如何なる(・・・・)訳のわからない間違いからも、守らねば!

そう、これが切っ掛けとなりカナメ限定での弩級の心配性(・・・・・・)十三歳のサシャが、カナメに対して過保護(・・・)へと“進化”を遂げたのであった。


当然ながらこれ(・・)を知ったマチアスが静かにカナメの間違いを正し続け──これより少し後の事になるが──最終的にマチアスは“正しく”カナメに“決断”を迫り、カナメの意識としては正式に(・・・)婚約の書類を交わす事になる。

最初の(・・・)婚約の契約では「カナメが本当に望めば、この婚約を解消する」ともなっていたため、『普通の貴族の次男坊生活』をすると言い出すと思っていたシルヴェストルもサシャもカナメの決断に驚き、デボラはまたしても気絶しそのまま二日間寝込んでしまった。


とそうした近未来の話はここまでにして、とにかく“最初の婚約”をした頃に時間を戻そう。

この頃カナメは美少年というに相応しい容姿になっていた。

そして美少年のカナメは、怖がりと泣き虫を隠す術(・・・)も覚えた頃である。

恥ずかしいから覚えたのではなく、彼なりの“進化”だった。

最も、隠すだけで後で家に帰ってからは泣いたり喚いたりはしていたので、サシャからすれば相変わらず泣き虫で怖がりの可愛い弟であったのだが……。

ともかく、何も知らなければ美少年カナメは普通の貴族の次男坊としてみられていた。

余談だが折角なので記しておく。この時十三歳のサシャの容姿は『少し冷たく見える美少年』という評価である。

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