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セーリオ様の祝福  作者: あこ
「セーリオ様」「カムヴィ様」共通の話 (時系列順に並んでいません)
16/23

★ その日、彼は出会う:02

四人が座れそうなベンチに人一人分間を開けて座った二人は自己紹介をした。

リンスは素直に(・・・)名前を明かそうかと悩んだが、その悩みは一瞬で消える。

なぜなら、少年が最初にはっきりと身元を明らかにしたからだ。

「ヘルストレーム伯爵家次男、ルヒト・ヘルストレームと言います」

これである。

少しは濁すとか少し嘘をつくとか、きっと彼はそんな事を考えもしなかったのだろう。

ここでもしリンスが()を知らなければそれでも彼に多少の警戒はしただろう──リンスはこれでも伯爵家の三男であるがしかし、それでも完璧に全ての貴族の家名を覚えてはいなかった──が、彼の家名に覚えがあるのだ。


(ヘルストレーム伯爵家ってあれだ。噂のお姉様(・・・・・)がいるところだよね、たしか)


突然だが、サシャの母であるデボラは本人の預かり知らぬと(・・・・・・・・・・)ころ(・・)で『社交界の白薔薇』と呼ばれている淑女だ。

本人はいたって平凡な夫人だと思っているようだけれど、彼女が持って生まれた色彩はこの国では珍しかった。

また婚約まで地味を装っていた彼女は、今の夫であるシルヴェストルと婚約してから美しい彼女によく似合う服装や装飾品で彩られ、色彩も相まってまさに白薔薇に相応しい。

社交は最低限、しかしその時はさすが侯爵家夫人たる姿で立つ姿に憧れる夫人や令嬢が多いのだが──────

(ヘルストレーム伯爵家の長女が、熱狂的なファン(・・・・・・・)だっていう噂がある)

多くの貴族子息子女が通う学園に、どういうわけかヘルストレーム伯爵家長女は入学しない。いや、正しくは入学しているのだが、なにやら体が弱い(・・・・・・・・)ようで、進学卒業に値する試験を受けそれを持って進学卒業資格を得る事とすると学園側と合意したのだという。

この処置はこれまでも病弱な子供や、訳あって──その訳は決して公開されもしないので、人は勝手に噂するのだが──通えない子供に適用されている。

学園の噂では“病弱”でという事らしいのだが、その一方で「憧れの白薔薇様」と豪語する彼女が王都で|一人なんて事に《ストッパー不在の状態に》なったらどんな暴走をするか想像出来ないと戦々恐々した家族が“訳あっての自宅学習”を選んだのではという噂もちらほら。

彼女と親しい生徒が「学園にこれないって本気で落ち込んでるの。白薔薇様にお会いしたいってよく言っていたのに、領地では難しいじゃない?今度何か送ってあげようと思って」と話していたのをきっかけに尾鰭がつきまくっての後者の噂だったが、実は噂は事実(・・・・)である。

そんな噂を持つ彼女の家の事は、同じ伯爵家のリンスの耳にも入っており、「弟のルヒトさまは入学するみたい」と付け加えて広がる話も耳にしていた。


「俺はリンス・アントネッリ。アントネッリ伯爵家の三男だよ」

「リンスさま」

「……いや、様は別にいらないかな」

「ですが俺は年下ですし、アントネッリ家の方が同じ伯爵家とは言え格上ですし」

「まあ、それがいいなら、それで」

「俺のお婆様が……ぼくのお婆様が、そういう相手にはちゃんと(・・・・)するようにと」

「うん……、俺でいいよ」

随分素直そうな少年にリンスの顔も随分柔らかくなる。

リンスはなんとなく、彼と接しているとブラコンサシャの大切な弟カナメを思い出す。この素直そうなところがそうさせるのかもしれない。

「ええと、それで」

「ルヒトと呼んでください」

「じゃあ、ルヒトは、何を探して迷っていたのかな?護衛はどうしたの?従者もいないようだけれど」

「護衛とも従者ともはぐれました……」

「……そう」

しょんぼりしたルヒトを見てリンスは

「じゃあ、目的地は?そこに行けば護衛や従者がいるかもしれない。案内するよ」

「ありがとうございます」

パッと笑顔になったルヒトに年齢を聞けば、カナメと同じ年である事も知れた。

何でもかんでも素直に答えない方がいいと言った方がいいのか、いやいやこれは他人である自分の役目ではないだろう。とか。

この歳の頃は素直でいられたのだろうか、いやいや性格だろうな。とリンスは自分の事を振り返る。


隣を歩くルヒトは末っ子らしい甘えるのが上手そうな面と、人懐っこい子犬ような雰囲気があるが、どうしてかどこか不憫な目に遭っ(・・・・・・・・・・)ていそうなそういう雰(・・・・・・・・・・)囲気(・・)がプンプンする。

のちに、その理由が『白薔薇様に夢中すぎる(・・・)姉と、黒薔薇様にとっても(・・・・)憧れる兄』に挟まれたある意味(・・・・)唯一の常識人だからである、とリンスは理解するのだが今はなんでだろうと心の中で小さく首を傾げるだけだった。

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