独木 眞白の話―帰り道の来訪者―
彼らが出会ったものとは?
彼らの後ろから足音が1つ。
独木に連れられて歩いているうちに日はほとんど傾き、面影の家まで残り数十メートルといった距離に差し掛かった時、その音が聞こえた。
ぺたり、ぺたり。
まるで靴を履いていないかのようなその足音は、閑静な住宅街に響いた。
いや、周囲を警戒していたからこそ気づけた、と言うべきか。
「…面影ちゃん、走るよ」
独木はそう呟くように告げると、面影の返答を待たずに走り出した。
足音の主もそれに倣ってついて行く。
ぺた、ぺたたたたた。
「…独木さん、後ろ」
「振り返るな!絶対に振り返っちゃいけない!」
走るのが得意ではないのだろう、面影は息が上がり、少しずつ手を引かれるままに足を機械的に動かすだけになった。
面影にとって数分が経った気がした頃、自身の家の玄関に辿り着く、と同時に彼女は手を離された。
「早く!家の中に!」
その声に従い、やや震える手で玄関の鍵を開け、彼女は滑り込んだ。
横目で確認した独木は、いつの間にやら聞こえなくなった音の方角を見ないようにしながら、後ろの人に道を譲るかのように道の端に寄り、ある言葉を口にした。
「お先にどうぞ」
言葉が通じたのだろうか。
再び足音がし、独木の近くを通り過ぎる瞬間、鈴が転がるような可愛らしい声が聞こえた。
「覚えててくれてありがとう」
声と共に気配が消え、独木達はいつもの夕刻を取り戻したのである。
奇妙な出来事があってから2時間後。
独木は面影に事が片付いたことを告げ、居候先に帰ってきていた。
「…また、珍しい人外にあったものだね…」
夕飯の白身魚を箸で器用に崩しながら、永遠が口を開いた。
「…俺もびっくり。あの人外は消えてしまったと思っていたのに…」
「…眞白、あの人外―共歩きといったか。彼女は…」
言いかけた言葉に思わず面影は箸を止める。
箸置きにきちんと揃えて置くと口を開いた。
「…俺がまだ小さい時の話だよ。その時はこの力のことをやたら祀り上げてくるヤツばっかで、…息苦しかった。ウチの庭で隠れていたら今日みたいに後ろをずーっとついてきたんだ。」
「…眞白。」
「いいよ、話すよ。そんであんまりにもついてくるもんだから思わず振り返ったんだ。…そこには誰もいなかった。なぁんだ、気のせいかって思っていたら、耳元で「振り返っちゃだめだよ、お先にどうぞってしなきゃ」って声がして、気が付いたらウチの縁側で横になってた。それから庭で隠れているとたまにぺたぺたって足音がするから、いっつもお先にどうぞってしてたら、毎回、ちょっと喋ってくれたんだ」
「…今日会ったその人外は、その時とは違ったんだな?」
永遠がかけた言葉に独木は小さく頷いた。
「…今日はもう寝ろ。布団の用意はあるから」
どこか重い雰囲気を残したまま独木は食事を終え、食事処を出て行った。
「いつもと違う人外達か…」
同じく食事を終えた永遠は二階の自身の部屋で月を見上げていた。
上限の月が空に昇っている。
永遠は着物の袖に手を入れると一枚の紙を取り出し、ふっと息を吹きかけた。
紙はたちまち鶴の形をして、開け放たれた窓から飛んで行った。
「どうか、あの方に伝えておくれ。この町の異変を…」
独木編、これにて終了です。次々回辺りで新たなキャラの話をしていこうかと思いますのでよろしくお願いいたします。