独木 眞白の話―あの子との邂逅―
今回は独木 眞白のお話。
百目柿高等学校。
千寿崎町の東の方にその高校はある。
今は下校時間らしく、部活のない生徒がぞろぞろと高校から出てきていた。
その校門近くの桜の木の下に奇妙な人物が腕を組み、もたれかかっていた。
10代~20代くらいの若者だろうか。
白いシャツに袴のようなズボンを履き、肩にはくるぶしまで届きそうな深紅の羽織をかけている。
他の町ならば、高校近くで佇んでいれば不審人物として通報されそうな見た目ではあるのだが、生徒達は意にも介さず通り過ぎるばかりであった。
その人物の近くを1人の女生徒が通りかかり、話しかけた。
「独木さん、お待たせしました」
面影紗々羅という名の少女はいつも通りの暗い表情で独木と呼ばれた人物に話しかける。
気が付いたのだろうか。
白金の頭がゆらりと揺れ少女に向き直ると鋭い歯をにやりと見せて手を差し出した。
「ほんじゃあ、今日も行きましょうか。お嬢さん?」
無言のまま2人の若者が手をつないで歩いていく。
言葉を聞けば、青春だとか、人によっては憎悪に近い感情を表す人もいるであろう光景だが、この2人にとっては手をつなぐという行為は別の意味で大切なものであった。
手をつなぐことによって独木は対象を守ることができるのだ。
面影はつい数日前に輪廻堂の主から聞いた話を思い出していた。
「邪な怪異を寄せ付けない、ですか」
「そう、眞白はそういう特性を持っている」
輪廻堂の主、永遠はそう言うと隣に座った人物を指し示した。
「独木眞白。彼…彼でいいか。彼はこの輪廻堂の居候でね。基本的に雑務を手伝っているのだが、君のようにとある怪異に狙われたものが出ると、護衛を担当する者だ」
「護衛…」
面影が余りにも荒唐無稽な話だという顔をしたのを察したのか、独木眞白と呼ばれた彼は、にかりと、鋭い歯を見せて口を開いた。
「まぁ、護衛なんて言うと仰々しいからさ~。護衛の、なんてつけずに気軽に眞白って呼んでよ。その方が俺も楽だしさ~」
「…失礼なので、独木さんで」
すげなく断られた独木は、ちぇっと口を少しとがらせるとやや不服そうな顔をしてそっぽを向こうとしたが、永遠が怪訝な顔をしたのを見るとしぶしぶといった風に面影に向き直った。
「…すまないね、こんなやつで。態度は見てもらった通りだが、これでも家の者の中では守るという一点においては右に出る者は居なくてね」
「はぁ…」
「重ね重ねすまないが、彼の特性を最大限に生かすために君には無理を言わなければならない…」
本当に申し訳ないと思っているのか、永遠の耳は左右に垂れていた。
「多感な君の年齢となると気恥ずかしいことなんだが…、手をつないでやってくれないか」
余りに唐突な提案で時間が止まったかのような錯覚さえ覚える。
固まっていた時間を動かしたのは面影だった。
「…そんなことでいいんですか」
「え?あ、あぁ」
他の依頼者が嫌がっていたのだろうか、一度は断られると思ったのだろうか、あっさりと提案が受け入れられたことに永遠はやや高めの声を出した。
「…そうですか」
「永遠サン、説明が足りてないよ~?まぁ、俺から言うかぁ」
「…頼めるか、眞白」
「はいよ。俺はね、さっき永遠サンが言ってた通り、昔から悪~い怪異をひきつけないんだ。それどころか弱いヤツなら戦闘不能になっちゃってるくらい。祟り神クラスなら寄せ付けないんじゃないかな~?…んで、その力を最大限に生かすために手をつないでもらってるってわけ。どういう仕組みか俺にもわかんないんだけどさ~?手をつないでもらうとなんでかつないでもらった子にも力が一時的に移るみたいでさ?いっつもそうしてもらってるってワケ」
ふわふわとした言い方だったが、実力は折り紙付き、と言ったところだろうか。
「はぁ、ではお願いします」
こうして面影は独木と出会い、下校の時、夕刻に出かけねばならない時に独木と手をつないで歩いている。
今日はまた非日常に出会うとも知らないで。
彼らが出会ったものはまた、次回にて。