はじまり
はじまりです。
ある夜のことだった。
いつものように私は帰り路を歩いていた。
…そのはずだったんだ。
知らない誰かの声。
誰かが泣いている顔。
濡れたアスファルトの蒸された匂い。
口に広がる鉄と酸の味。
命が消えていく感覚。
そういうものがあったはずだったのに、
目を開くと私は空に浮かんでいた。
ここはどこ…?と私は首をかしげる。
夢でも見ているのだろうか、月が異様に大きく感じる。
足を踏み出そうとして愕然とした。
街の明かりが異様に遠い。
あと体が軽い。
―そっか、死んじゃったのか。
そんな感想が頭をよぎる。
酷く現実味のない話だが、どうやら私は死んで空に浮いているらしい。
どうりでお腹も空いていないし、体も疲れが残っていないわけだ。
冷えた頭で街の方に近づくよう願いながら一歩ずつ歩を進めた。
ぐんぐん街が近づいていく。
程なくして街に降り立って気が付いた。
何かがおかしい。
私の知っている街じゃない。
焦って転びそうになりながらも街を走り回った。
公園、住宅街、学校、病院…。
気が付くと商店街らしき場所のアーケードの前に立っていた。
―ここなら何か分かるかもしれない。
随分と高いところにあるアーケードはかなり手入れされているのか今でもはっきり文字が読み取れた。
「千寿街」
なんとか商店街という書き方でないのが少し気になったが、一歩ずつ前に進んでいく。
だいぶ夜も更けてきたのだろうか。
ついている明かりはまばらで、中を覗いても中の様子をうかがい知れることができない。
流石にじろじろ中を見るのは失礼かと道へ戻ると前から誰かが歩いてくるのが見えた。
大きくも小さくもない身長。
祭り帰りなのだろうか、黒色の着物に紺の羽織。
女性物に見える黒の下駄。
茶色の髪にやや白い肌。
その人は私の目の前まで来ると少し微笑んで口を開いた。
「見慣れない子だね。どこから来たんだい?」
急に話しかけられたことに戸惑いながらも口を開いて問いに答えようとした。
「うん、迷ったんだね。それにどうやらこの街に観光に来たというわけでもなさそうだ」
―え?どうしてわかるんです?
驚いて口について出したはずだった。
その前にその人の言葉が遮った。
「私はこの街のことならなんで知っているのさ。それはそうと君-」
なんでだろう、聞きたくない。
この先は嫌な予感がする。
「どうしてそんな魂になってしまったんだい?」
小説家になろうに投稿するのは初めてです。これから少しずつ話を深めてまいりたいと思いますので読んでいただければと思います。よろしくお願いいたします。