第9話 ジェミロンの過去
中間宿を出て、モネンへと再び歩き始めた。
そして、道中の休憩の時だ。
「なあ、二人ともちょっといいか」
と、ジェミロンが話しかけた。
二人は顔を合わせて、頷いた。
「……さっきの事、気になっただろ。どうしても話したくてさ」
「そんなそんな、無理して言わなくてもよろしくてよ?」
ベネがそう言った。
ナナミも全くその通りだと思った。
「いんや、これは言わなきゃ先へ進めないと思ったんだ。話半分でもいいから、さ」
更にジェミロンが言う。
「ど、どうしましょう」
小声でナナミがベネに言う。
「そうね。後ろめたい気持ちを整理したいと感じますし、ここは普通に聞いてあげるのが、私達のお役目だと思いますわ」
と、ベネが返す。
「それじゃあ、話してくれるかな」
ナナミが言うと、ジェミロンは頷いた。
▪▪▪
『龍』に家族を失われるまでは、実のところ仲の良い奴らと悪さをしていた事があったんだ。
中でも、さっきの食堂に居た一人はドレンと言って特に絡んでいてな。
家族を失った後も、何回か会っていたんだ。
それから、僕はジャン爺に『龍退治』を教えて貰うことになったんだけど、一つだけ約束をしてくれと言われた。
『お前は家族の分まで、生きると言ったな。それなら悪さから足を洗えない奴には、教える価値は見出だせない』ってな。
それから猛省して今に至るんだが、アイツはまだ悪さをしでかしている。
―――それを正そうと、説教まがいな事をしているんだ。
▪▪▪
「そうだったんだ」
ナナミが言う。
「……ある意味、僕はジャン爺に救われたんだ」
やや俯き加減で、ジェミロンが言う。
ベネは、ジェミロンの肩を叩く。
「若いうちに、更生しようとする心意気はとても良いことですわ。貴方の想いが、彼に伝わると良いですね」
「ベネさんの言う通りだよ。『退治』の仕事も格好良かったし、自分が想う道を進めば良いんじゃないかな」
ナナミもそう加える。
「あ、ありがとうございます」
ジェミロンは笑顔になった。
これで少しは心残りは無くなったのかな。
「よーっし、旅唯一の男の身。御二人を護れるように頑張ります!」
そうジェミロンが言った。
▫▫▫
その頃、寄った中間宿の近くでは。
「なァ、ドレン」
ネオが、ドレンに話しかける。
「……んだよ、ネオ」
「お前さ、あいつの事嫌っているんか」
ドレンはネオを睨む。
「嫌っているように見えるか」
「そりゃあ、嫌って見えるさ。だとしたら、あそこから立ち去ろうとしねえだろ」
ドレンは早歩きになる。
それにネオはついていく。
「なあ、お前に何があったんだよ。教えたっていいじゃねえかよ」
ネオは服を掴むが、それをドレンは振りほどく。
「すまねぇ、ちょっと独りにさせてくれや」
そう言い残し、ドレンはそのまま歩いていった。
▪▪▪
「ねえ、ジェミロン」
再び歩き始めた頃、ナナミが話しかける。
「なんだ、ナナミ」
「……アンミさんの事、どう思っているのかなって」
そうナナミが言うと、ジェミロンは頬を赤らめた。
「なな、なんだよ。急に」
その反応にナナミは笑ってしまった。
「もしかして、慕っていたりするの?」
「そんな事無い、と言っても嘘になるからな……それは事実さ。仕事を覚える早さは格段に追いつけない」
やっぱり、とナナミは思った。
「ジャン爺さんもアンミさんも、ジェミロンの気持ちを聞いたら、喜ぶんじゃない?」
「……そうだと、いいな」
―――モネンまで、もう少し。