掃除婦ナオミ
アズサが従業員食堂に入っていくと、小太りな娘がマンジュウを並べて食べている。アズサに好意に満ちた笑顔を向ける。
「あ、あなたアズサさんでしょ?あたしナオミ。お掃除担当しているの」
同世代の二人は、たちまち意気投合して、二人でマンジュウを食べ始める。アズサがマンジュウを食べたがら食堂を見回す。
「なんか人少ないね。アルバイトって、あたし達だけ?」
「うん。今はね。まだシーズン始まってないから。これからドンドン増えてくるらしいけど。ねー、タカシさん?」
ナオミが3つほど向こうの机に座っているタカシに声をかけた。タカシは色んなものをボロボロと落としながら、マンジュウを食べることに苦闘しており、ナオミに声をかけられてビックリしている。
「えっ!なに!?」
「アルバイトもお客さんも、これから増えるんでしょ?」
よく見ると、タカシの口の回りが白い。
「うん。来週あたりから8月末まで、すごーく増えるよ」
タカシが口の回りを白くしながら微笑して、マンジュウとの格闘を再開する。ナオミが小声でアズサに話しかける。
「あの人、タカシさん、去年の夏から冬通しているの。冬は上高地閉じちゃうからさ、冬通してアルバイトしてくれる人ってなかなかいないの。だからあの人がアルバイトの一番上なんだけど、なんか、いつもボーッとしてるのよねー」
アズサがうなづく。
「主任にも言われた。気をつけてねって」
タカシはマンジュウを食べるために苦闘している。