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村営ホテル支配人

午後の4時半。黒縁メガネをかけた村営ホテルの支配人が、従業員食堂に急いでいる。


「今日は休憩遅くなっちゃったな。大好きな羊羹を食べて、熱いお茶を飲んで、ちょっとゆっくりしてから、早く仕事に戻らなくちゃ」


なんて考えて歩いてたら、従業員用食堂の廊下の窓から、中に人がいるのが見える。


「あれ?」


支配人は混乱した。村営ホテルは山の中にあるので、宿泊客以外の人はめったに訪れない。つまり、見知らぬ人がホテルの中にいるということは、ほとんどない。


「キミ、キミ、キミは誰?」


中では、アズサがきょとんと座っている。


「え?アズサです。東京からアルバイトに来た、、、」


支配人がアズサを凝視して黒縁メガネを触りながら食堂に入ってくる。


「アレ?アレ?アズサくんのことはタカシくんに頼んだんだけど、、、」


アズサが苦笑した。


「えぇ。ここに連れてきてくれただけど、「ここでちょっと待ってて」と言い残して出ていってから、はや一時間、、、」


主任がブツブツ言いながらアズサの向かいに座る。


「ボク、主任。よろしくね。あのね、着いて早々なんだけどね、タカシ君には気をつけてね。あの人、できないから。いや、できるんだけど、なんてゆーかな、ヌけてるから」


アズサが、よくわからない顔でうなづく。主任が黒メガネに手をかける。


「英語はできるんだけどね、フランス語も出来るけど、、、」


アズサがビックリする。


「えぇっ!さっき日本語もできたから、三カ国語も!?」


当時、二カ国語話せる人も少なかったけど、三カ国語話せる人はもっと少なかった。英国で生活していたアズサでさえ会ったことないくらい少なかった。主任が苦笑する。


「うん、そうなんだけど、なんかなー。彼がキミの上司ってことになるんだけど、色々気をつけてね。ホテルのためにも。最初からへんなお願いして悪いけど」



同じ頃、タカシは洗濯室に突っ立って、ボンヤリ外を見ていた。



上高地にすっかり夜が来る。

村営ホテルに、ポツポツ灯りがともっている。


村営ホテルのフロント前の小さな電話室で、アズサが電話をしている。当時、携帯電話なんてものはないから、固定電話ね。


「無事です、無事です、すごい道のりだったけど、上高地は美しいよぉ。お父さまもお母さまもこの夏一度来ればいいのに。

じゃ、あんまり電話してると高くなるから、うん、うん、いや、そうだけど、払うのはお父さまだけど、ま、ま、また来週ね。はい、はい、はーい」


アズサが電話室を出て、フロントに立っている主任のところに行く。


「670円でした」


主任が紙に値段を書き入れて、アズサに見せる。アズサがその紙にサインをする。主任が気の毒そうな顔。


「大変だねぇ。毎日電話するの?」


アズサ、作り笑顔。


「いえ、週一回。これがバイトする条件なんで」


「そーかー。そーだよねー。心配だよねぇ。可愛い一人娘がこんな山の中にねー」


アズサが愛想笑いで答える。

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