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2話 手紙の主(後編)

 やがて翌朝になり、レイズ様の姉――ヴィヴァスさんを迎え入れる日がきた。


 レイズ様は既に起きているが、まだ布団の中に包まっている。お姉さんが来るのがそんなに嫌なのだろうか、昨日からテンションが低い。

 僕は少しため息を吐いて。


「……はぁ。レイズ様、そろそろご準備なされてはいかがですか?」


 と、レイズ様にお姉さんを迎える準備をするよう促す。

 しかし。


「……いやだぁ。ぜったいにいやだぁ」


 レイズ様はまるで子どものように拒んだ。いや、まぁ、レイズ様はまだ13歳だから子どもではあるんだけど。

 僕は布団に近づき、ゆさゆさとレイズ様を揺さぶる。


「なんでそんなに嫌なんですかー。お姉さんが悲しみますよー」


「うるさぁい、グロアはヴィヴァ姉のことをなんにも分かってないよぉ」


「そりゃあ会ったことなんてありませんもーん」


「んあぁ、今日のグロアなんかむかつくぅ」


 そんな言い争いをする僕らは、まるで、冬の朝に布団から出てこない子どもと、その布団を剥がそうとする母親みたいな構図になった。


 このままでは(らち)()かない。そう思った僕は、もう諦めようとした――その時だった。


「コンッコンッ」


 誰かが小屋の扉を叩く音が聞こえた。というより、自分でコンコン言ってる声が聞こえた。

 変わった人が来たなと思いつつ、僕は扉の方へ近づき、扉を開けて声の主を確認しようとした。


「はい。どちら様でしょうか?」


 扉を開けるとそこには――。


「やっほーレイズ! 会いたかっ、た……よ?」


 金髪の若い女性が、拍子抜けしたような顔をして立っていた。その左手には、何やら四角い箱のような物を抱えている。

 驚きのあまり、僕と女性のいる空間だけは時間が止まってしまっているようだった。


 程なくして、この人がヴィヴァスさんかと推測した僕は、それを尋ねようとした。ところが。


「お前誰なんだ! なんで男が小屋にいるんだ! まさか、レイズに手を出したりしていないだろうな!? そうだとしたら魔法で呪い殺してやるからな!!」


 その女性は僕を睨みつけたかと思うと、早口で言いたいことを捲し立てた。


「いや、そんなことしませんよ。なんなんですかいきなり」


「私はレイズの姉のヴィヴァスだ! お前は何者なんだ!」


「僕はレイズ様の弟子です。そしてレイズ様は僕の師匠ですよ。とりあえず落ち着いてください」


「嘘つけ! レイズより明らかに年上っぽいお前が弟子な訳ないだろ!」


 確かに、側から見ればそうかもしれないが、僕とレイズ様が師弟関係なのは紛れもない事実だ。それなのに、見た目だけで判断した挙句、嘘つき呼ばわりとは納得がいかず僕は感情を昂らせた。


「嘘ではありません! 本当ですよ!」


「小癪な! そんな嘘で私を騙そうったってそうは……!」


 と、僕と女性の言い争いがヒートアップしていた時だった。


「……ヴィヴァ姉もグロアもうるさい。お互い初対面でなに言い争ってるの」


 レイズ様が僕の後ろからやってきて、僕らを少し見上げるように――されど(さげす)むようにジトっと見つめていた。


「も、申し訳ありませんレイズ様。つい感情的になってしまいました……」


「……はぁ。分かったならいいよ。次からは気をつけてねグロア」


「はい」


「それよりも……」


 そう言いかけたレイズ様は、僕の前に出てヴィヴァスさんを睨んだ。


「ヴィヴァ姉、相手の話はちゃんと聞くこと。時には疑うことも必要だけど、すぐに嘘だって決めつけるのはよくないよ」


「……ごめん」


「謝る先は私じゃないよ」


「……そうだね」


 そうレイズ様に(さと)されたヴィヴァスさんは、僕の方に向き直り、その言葉を口にした。


「グロア君だっけ……その、さっきはいきなり喧嘩腰になって……嘘だと決めつけてごめんなさい」


「もういいですよ。それに、僕の方こそ感情的になってしまい申し訳ないです」


 僕らは互いに頭を下げた。本当に、初対面の相手に何をしていたんだろう。ましてや、レイズ様のお姉さんだというのに。

 やがて、僕らが反省する様子を見ていたレイズ様が、再び口を開いた。


「……はい、これでおしまい。二人とも入って」


 そう言うと、レイズ様はスッと僕の横を通って小屋に戻った。


「……ハハッ、まさか妹に諭される日がくるなんてね……レイズは成長したんだな」


 ヴィヴァスさんはポツリとそう呟くと、顔を上げて僕を見つめた。


「グロア君、さっきは悪かった。これから10日ほどはココに住むつもりだから、その……こんな私だがよろしくな」


 その言葉に僕は。


「はい、元よりそのつもりで準備していましたので、ご安心ください。こちらこそ未熟者ですが、よろしくお願いします」


 そう応えた。そうして、僕はヴィヴァスさんを小屋に迎え入れた。


 ――それにしても、レイズ様は普段は面倒臭がりだけど、こういう時はしっかりしているな……。僕も弟子として師匠を見習わないといけないな。


 心の中でそんな反省をしながら、僕は偉大な魔女が棲む小屋の扉をそっと閉めるのであった。



★―★―★



 突然だが、僕はレイズ様がなぜあれだけお姉さんを嫌がるのが分かった気がした。その理由は目の前の状況にある。

 というのも、僕の目の前に広がっていたのは――。


「あぁほんと、レイズはいつも可愛いなぁ!」


「あーもう! ヴィヴァ姉しつこい! くっついてこないでっ!!」


「ねぇ、ほっぺにキスしていい!?」


「よくないからぁ!!」


 ベッドの上でレイズ様とヴィヴァスさんが仲良く(?)戯れている光景だった。

 そう……ヴィヴァスさんは〈超〉が付くほどのシスコンだったのだ。


「グロアー! 見てないで助けてよぉ!!」


 小屋中にレイズ様の声が響く。僕はその光景を見て。


「……てぇてぇ」

と、呟くのだった。


「いやあぁぁぁ!!」

お読みいただきありがとうございました。

超シスコンのヴィヴァスさんと、嫌がるレイズ様、そしてそんな二人を「てぇてぇ」と見守るグロア。

今後はさらに愉快な日常が待っていそうですね。

それでは次回もまたよろしくお願いします(→ω←)

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