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2話 手紙の主(前編)

 ある日の朝。僕はいつものように小屋の前をホウキで掃除していた。昨日の風雨から一転、今日は清々しい程に晴れている。思わず心も晴れやかになって、僕はフンフフンと鼻歌を奏でていた。


 そんな時、遠くの方から一羽の鳥が飛んで来るのが見えた。僕は自然と手を止め、その鳥を眺める。


 ――昨日は風雨で飛べなかったから、今は自由に飛んでいるのでしょうか。きっと僕と同じ気分なのかもしれないですね。


 なんて、らしからぬメルヘンチックな想像をして、再び手を動かし始めた――その時だった。


 さっきの鳥が突然急降下し始め、僕を目掛けて飛んで来たのだ!


「え、えっ!? なんで急に!?」


 突然の事態に慌てふためく。

 けれど、鳥はそんなことお構いなしに突っ込んで来る。


 ――ヤバいっ、ぶつかる……!

 僕は咄嗟にホウキの下の部分を上向きにして顔を隠し、両目を瞑った……。

 しかし。


 ――ん? あ、あれ?

 ぶつかる感覚が一向に来ない。疑問に思った僕は恐る恐る目を開けて、ホウキを退かした。

 すると目の前……いや、僕の足下で。


「ほろっほー」


 一羽のハトが僕を見つめていた。一瞬、伝書鳩だろうかと思ったが、すぐにその考えは否定された。

 何故なら、突然ハトから謎の光が発せられたかと思うと、その姿がみるみる内に変化したからだ。やがてその発光体は、一枚の手紙になってしまった。


「ま、魔法……」


 僕の口から出たのはそんな驚きの言葉だった。

 単純にあるモノを別の姿に変える魔法は、少しコツを掴めば多くの人が使える魔法だ。しかし、それを動かす上に長距離を移動させるとなると、中々の技術と魔力が必要になる。

 それに、並大抵の魔法使いなら自分でそんなことはせず、それこそ伝書鳩を利用するはずだ。


 ――この手紙の主はきっと優れた魔法使いなのでしょう。


 僕はその手紙を拾い上げて裏返し、差出人と宛名を確認した。そこに書かれていたのは。


『from ヴィヴァス』

『to レイズ』


 どうやらヴィヴァスと名乗る人物からレイズ様に宛てた手紙らしい。『ヴィヴァス』という名前は聞いたことが無いが、レイズ様のお知り合いだろうか。

 とりあえず僕はレイズ様に手紙を渡すべく、一旦掃除を終えて小屋に戻った。




「レイズ様。レイズ様宛のお手紙が届きましたよ」


 僕が声をかけると、ベッドでごろんと寝転がって読書をしていたレイズ様は、本を閉じてむくっと起き上がった。


「……誰から」


「ヴィヴァスと名乗る人からのようです。お知り合いですか?」


 僕がその名を口にすると、レイズ様は少し顔を歪ませた。


「……今、誰からって言ったの」


「え? ですからヴィヴァスと言う方ですが……」


「……そう。手紙、読んで」


「私が開けて良いのですか?」


「……いいよ」


 そう言われ、僕はレイズ様の代わりに手紙を開封した。

 手紙に綴られた文字は、軽やかながらも美しかった。


「それではお読みしますね。『親愛なる妹レイズへ。体調の方は大丈夫かな。私の方は元気に過ごしているよ。元気が有り余り過ぎて、この前魔法学園の友達と浮遊魔法で空を飛んで競争をしていたら、友達よりも速くゴールに着き過ぎて一時間ぐらい暇したんだよね! 我ながら速すぎたなと思ったよ。まぁ前置きはこのくらいにして本題に入るけど、明日からウチの学園が入学試験の期間に入って、生徒は一週間休暇になるんだよね。それで、久しぶりに小屋に帰ろうと思うからよろしくね。会えるのを楽しみにしてるよ、レイズ! ヴィヴァスより』……」


「…………」


 意外だった。レイズ様にお姉さんがいるなんて。しかも、そのお姉さんが明日帰ってくるなんて。


 とりあえずレイズ様のお姉さんなら、ヴィヴァス様とお呼びした方がよいのだろうか?

 なんてことを考えていた、その時だった。


「あぁもう! なんでヴィヴァ(ねえ)帰ってくるのー!」


 しばらく黙っていたはずのレイズ様が突然叫んだ。

 普段物静かなレイズ様が叫ぶのは珍しい。っていうかレイズ様、お姉さんのこと〈ヴィヴァ姉〉呼びなんだ。めっちゃ妹っぽい。

 と、そんなことより、僕は気になったこと尋ねる。


「どうしたんですかレイズ様? お姉さんと何かあったんですか?」


 そう口にした直後、僕は弟子の身分でありながら師匠の家庭事情に首を突っ込むのは良くなかったと、自身の発言を悔やんだ。


「……失礼しました。レイズ様の家庭事情に土足で踏み入るような真似をしてしまい」


 僕の言葉にレイズ様は少し沈黙した後、ため息を吐いて。


「……いいよ、気にしないで。……まぁ、その辺は明日分かると思うから」


 そう言うと、レイズ様は再びベッドに転がり、壁の方を向いてしまった。


 僕はレイズ様の言葉が気になったが、とりあえずヴィヴァスお姉さんを迎え入れられるようにと、準備を始めるのだった。

お読みいただきありがとうございました。

突然、魔法がかかった手紙を送ってきた、レイズ様の姉ヴィヴァス。一体どんな人なのでしょうか?

そして、レイズ様が露骨に姉を嫌がる理由とは……?

それでは次回もまたよろしくお願いします(→ω←)

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