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6、味方


「おはよう。よく眠れたようだな。」


「あ、おはようございます。」


窓の外は昨日の雨が嘘のように綺麗に晴れている。デイビッドさんは寝癖もなくもうきちっとしている。偉いなぁ。夕食のあとは特に会話もなくデイビッドさんが火をしっかり消してくれて、それぞれが毛布を被って眠ってしまった。寝ずの番をすると言うのは断固拒否してやめてもらった。


「オレンジを切るよ。顔を洗うといい。」


そして優しい顔だなぁ。昨日知り合いだと推測してからはこの表情にも納得だが。関わらずに徹底的に避けるという考えは正解だと思っている。事実、彼は私にシャーロットなのだろうという確認をしないし。


「はい、ありがとうございます。」


私はゆっくり起き上がり毛布を折りたたみ片付け、水道で顔を洗う。山の水だからか冷たい。

飯盒に水を入れてまた昨日と同じように少ない茶葉を入れる。暖炉の所にかけようとするとデイビッドさんがそっと私から奪い取り火にかけてくれた。これぐらいできるのに。


「さあどうぞ。」


デイビッドさんがオレンジを剥いてお皿にのせて出してくれる。


「いただきます。私が持ってきたパンも焼きます?チーズを乗せて。」


「それでもいいが、早くおりなくていいのか?」


「あ、そうでした。お兄ちゃんが心配してるだろうなぁ。おりましょう。」


「ああ、じゃあここを片付けて下山しよう。」


大急ぎでオレンジを食べて薄い紅茶を流し込んだ。デイビッドさんの軽いリュックを私が持って重い私のリュックをデイビッドさんが持ってくれた。


「じゃあおりよう。足元に気を付けるように。」


「はい。」


昨日は道だった所に川ができている。未だに数センチ程の浅さを保って川になっているのが恐ろしい。私とデイビッドさんはゆっくり山を下りた。村中が水浸しで水たまりがたくさんできていて恐ろしかったし早くルークに会いたかった。片付けをしている人や玄関先を掃除をしている人の前を通り過ぎて家まで駆け足で帰る。王都に比べて夏の割に過ごしやすい地域なんだと思っていたが走るとなると、さすがに軽く汗をかいている。


「走らなくてもいいだろう。君がこけて怪我でもしたら俺は自分を一生責める事になる。」


なるな、なるな、めんどくさい!でも本当になったら面倒なので走るのをやめて早歩きに変更する。やっと屋敷に着いたので入るなり大声で叫ぶ。


「お兄ちゃん!お兄ちゃーーん!」


「信じられない…あの彼女がこんな大声で………。」


隠す気ないなこいつ。聞こえてるぞ。


「お嬢……シャロン!」


ギリギリでデイビッドさんの姿が見えたルークがお嬢様と叫ばずに済んだのは良かったけど、どいつもこいつも私の命がかかっている事忘れてる?


「良かった、お兄ちゃん!ごめんね心配かけたよね。言い付け守らずにごめんなさい。」


私ルークに抱きつきそのまま話し続けているのだけどルークは固まったまま何も言葉を発さない。


「お兄ちゃん?どうしたの?」


私が顔を覗き込んでやっとハッとして私を引き剥がし私の耳元で小さく話す。


「お嬢様、この人は?俺の知ってる人にそっくりなんですけど。」


「私は知らない。忘れたの?」


「すみません、そうでしたね。じゃあ俺も何も分からない感じで行きます。」


「ええ、そうして。」


「コホン」


あまりにも目の前でヒソヒソと話されるのが気まずいのかデイビッド咳払いをした。


「あ、すみません。お兄ちゃんこちら私を助けに来てくれた騎士隊の隊長さんのデイビッドさんです。」


「妹の事を助けてくださって本当にありがとうございます。本当に本当にありがとうございます。」


「シャロン、君は部屋に戻って休んだ方がいい。あんな簡素な山小屋で一晩明かしたんだからな。」


「えっと……。」


ルークの方を見ると優しく頷いたのでこれは私にいて欲しくないのかと察知して部屋に戻った。



「妹の事、何度お礼を言っても足りません。」


「それが俺の仕事だ。気にしなくていい。ここには2人で?」


「はい、1ヶ月程前から。」


「そうか、俺は…いや騎士隊はこの村を護る為にいるんだ。君も勿論護る対象なのだから…その…緊張しなくていい。王都に戻るつもりは無い。ルーク俺は味方だ。」


「……はい。」


「彼女は…その…少し変わったな。」


「…薬で…なんとか処刑を…偽装してその副作用で記憶を失ってしまったんです。」


「なんだと!そんな…。でもそうか…それで俺を見ても全く反応が無かったのか。」


「デイビッドさん、私達は生きたいだけです。ひっそりとここで生きていきたいだけなんです。お嬢様は誰も傷付けていません。」


「分かっている。彼女が誰かを傷付ける人じゃない事は俺が1番分かっているよ。」


「そうですよね、幼馴染のデイビッドさんが…でも王都には味方が1人も居なくて、必死に逃げて来たんです。」


「すまない、俺がもっと身分が高ければもう少しどうにかできたかもしれないのに。ここまで1人でよく頑張ったな俺も協力するよ。」


「ありがとうございます。」


「それにしてもあいつは戻らなかったのか?あいつなら姫様を絶対にどんな事をしてでも助けると思っていたんだが。俺みたいに王の権力に負けてしっぽを巻いて逃げ出す奴じゃないだろう。」


「異国に留学中で戻ってくるのに手続きやらなんやらで1ヶ月かかると言っていました。」


「そうか…それで…。」


「ええ。」


「とにかく何かあったら頼ってくれ。俺は教会の隣の騎士隊の宿舎に大体いる。」


「はい、ではお気を付けて。」


「ああ、また。」




同時刻 王都



「なんだって?君は狂ったのか?妹だろう。」


「ふんっ!王の後継者にとんでもない口の聞き方だな。俺の愛しい婚約者に毒を盛ったんだぞ。処刑に決まっているだろう。」


「君は…そうか…そこまでして王に。」


「王の事と処刑は関係ないだろうお前こそ馬鹿か?ああ?リーサが命を落とさなくて本当に良かったよ。」


「そうか。今、僕が留学して法律や文化を学んでいるのはこの国の発展の為なのに。この国に彼女、あの優しい彼女が居ないなんて。国を去る前に彼女の処刑場を見てから行こう。」


「何を1人でブツブツ言っているんだ?」


「王子、もう二度とお目にかかる事はありません。これにてさようなら。」


「お前!何を言ってるんだ!幾ら優秀とはいえその口の聞き方!それに留学は国から金を出してやっただろ!」


「さようなら。永遠に。」


「あっおいっ!待て!」


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