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49、嘘か本当か


「ここは何処ですか?私は?」


 ずっと困っているデイビッド。正直、この場に居る全員が困っている。やはり頭に違和感があるのかずっと頭を抱えている。


「あーえっとここはヌーンの街で。貴方は馬に蹴られて頭を打って家の前に倒れてて俺の愛しい奥様が看病して今。」


 物凄く色々省いた気がするけどまあ正しい。


「そうなのですか。ありがとうございます。」


 デイビッドが私に礼を言う。


「あ、いえいえどういたしまして。夫も手伝ってくれたので。」


「それで本当に何も覚えていないのか?」


 ルークがわざとなのか威圧的に言う。ケネスは口を挟むつもりがないのかずっと黙っている。


「ええ、何一つ思い出せません。」


 デイビッドはまた頭を抱えてフィンがかけた赤いブランケットを見ている。


「発見者によると荷物は持っておらず財布だけが転がっていたそうだ。」


 とルークがデイビッドに財布をさし出した。デイビッドは財布を受け取ると中身を確認し始めたがお金が出てくるだけで他には何もないようだ。


「これを持ってきたのは子供だ。何か盗られたりとかいう可能性は低いと思う。」


「そうですか。」


「何か自分の身元が分かる物はあるか?」


「いいえ。」 


 悲しそうに俯くデイビッド。貴方が誰なのかここに居る全員が分かっているけど言い出せない。


「まあでも馬に乗ってる位やしお金持ちちゃう?」


 フィンがなんだか適当に言う。私が肘でフィンの脇腹を軽く小突くとフィンが深くため息をつく。


「夫とお茶をいれてきますので少し待っててくださいね。」


「ええ。」


 デイビッド不安そうに頷いて窓の外を見ている。私はルークによろしくと口パクし彼が頷いてくれたので。フィンを連れてキッチンに移動する。


「ちょっとフィン、貴方ね。」


 隣の部屋なので一応こそこそと言い争う。


「なんや、俺も何をどこまで言っていいのか分からへんねん。」


「そうだけど、適当過ぎて逆に何かを隠してるみたいじゃない。」


「そんなん。だってあの男がほんまに記憶をなくしたかも分からへんのに。嘘かもしれんど。」


「えっそんな可能性があるの?」


「そりゃそうやろ。」


「えっ……。」


「まあでもこんなに勢揃いして顔色一つ変わらへんのは流石にほんまに記憶がないんやと思うけど。」


「私達どうすればいいの?」


「だからほっとこって言ったのに。それかいっそ全部教えて帰らすか?」


「どうすればいいのか分からない、ごめん。」


「これやから世間知らずのお嬢は。」


 文句を言いながらフィンがお茶をいれている。


「ごめん。」


「とにかく捨てよ。」


「それは可哀想じゃない?」


「シャロン。」


「はい。」


「とにかくお茶を持って行くよ。」


 いつの間にか紅茶を6杯分淹れ終えている。フィンは本当になんでもできる人だなぁ。関心してフィンを見上げる。フィンがお盆を持ったまま私にキスをする。


「可愛い顔せんといて!」


「どうして怒られる?」


「やっと戻ってきたか。今彼に俺達の関係性を教えていた所だ。」


 ルークが私とフィンに呆れたように話す。確かにお茶を淹れるだけで結構待たせてしまった。


「えっとルークさんとシャロンさんが兄妹で妹さんの旦那さんとルークさんと一緒に仕事をしている方だと聞きました。」


「ええ、そうです。さあお茶をどうぞ、夫の淹れた紅茶は美味しいので。」


「ありがとうございます。」


 デイビッドに最初に渡し全員に配る。何故だか気まずい。


「それでこの後はどうされるおつもりですか?」


 デイビッドに聞いてみる。記憶がないのに酷かもしれないが。


「それが私にもどうすればいいのか。」


 デイビッドは力なくうなだれている。やっぱりそうですよね。

 私はちらっとフィンを見る。フィンは私の視線に気が付いて首を横に振る。やっぱりフィンは私の心が見えている。私が話そうとするとフィンが私の口を手でおさえた。私はそのままフィンを見上げる。


「シャロン、キングに任せて。」


 耳元で囁かれたので大人しく黙る。フィンがルークにウィンクするとルークがデイビッドに近付き話し始めた。


「己を形成する物は経験だ。過去の記憶が消えてもここから生きてまた新しく経験積んでいけば、また自ずと自分を形成し新しい自分になる。きっとこの苦難も乗り越えられるだろう。」


 その言葉。ルークもしかして前回の記憶があるのかな。どうして隠しているのかは分からないけど。まあいいや隠したいなら探らない。


「ルークさん。」


 デイビッドが真っ直ぐにルークを見つめる。


「だから思い出すまでうちで働けばいい。君さえよければ。」

 

 ルーク。


「私には何処にも行き場がありません。お言葉に甘えて少しの間そうさせてもらいます。よろしくお願いします。」


「ああ、体は動くか?馬を裏に繋いであるらしいから馬に乗ることができればいいんだが。」


「多分、立てると思うのですが。」


 デイビッドがゆっくりと立ち上がる。良かったなんと歩けそうだ。


「大丈夫そうだな。では行こうか。メンター。」


 メンター?ケネスのことかな?特に誰も言及しないので黙っておく。


「ではお気をつけて。」


 フィンと3人を見送った。それからルークとケネスとデイビッドの生活は順調そうだった。

 1週間経った後、風の噂ではデイビッドが警備をする人達の訓練をする職に就き料理の才能に目覚めて楽しく一緒に暮らしているらしいと。

 でも私はルークがデイビッドを連れて行く時に私の耳元で小さく言った。


「もしも何かあればこちらで速やかに対処します。」


 が忘れられない。


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