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48、運命の悪戯


「なんか外うるさない?」


 オーウェンが来てから三日後の事だった。外がいつもよりやけに騒がしい。


「えぇ?そう?」


 私とフィンは耳を澄ませて玄関の方へ移動する。


「おい!このくそガキが!」


 男の人の怒鳴り声と女性と子供のすすり泣く声。それに加えてたくさんの人のざわざわとした音。


「すみません。すみません。」


 女性の声が響き渡る。


「すみませんではすまねえぞ!」


 さっきとは違う男性の怒鳴る声。やっぱり人がたくさん居るみたい。


「何事?」


「さあ?でもめちゃくちゃたくさんの人が喋ってない?」


「ええ。」


 多分、家の前で何か事件が起こっている。仕方なく外に出ると結構な人だかりができている。


「えっ物凄く人が居る。」


「せやな。それにあの中心に珍しく馬もおるわ。」


「馬?私の身長では見えない。」


「そっか。あれなんやろ?ちょっと見てくるわ近所迷惑この上ないし。」


「私も行く。はぐれたら嫌だし。」


「可愛い。離れたくないんやったらそう言えば良いのに。」


「はいはい。」


「ちょおすみません。すみません。」


 フィンが人をかき分けていくのを腕を掴んで後ろから着いていくとそこにはやはり泣き続けている若い女性と8歳位の男の子と少し興奮して3人がかりで抑えられている馬とその横に倒れる男性。


「えっあれ……。」


 怒号が響き渡る中でかき消される私の声。その後のフィンの声は私の耳に鮮明に入ってきた。


「デイビッド。」


 私とフィンは顔を合わせた。フィンは血の気が引いた顔をしている。多分、私も同じ顔をしているのだろう。


「おい、どうするんだ?馬に乗っているということは外の奴だろ。いっそ外に捨てるか?」


「滅多なことを言うな。キングにバレたらどうする?」


「だってこの状況どうするんだ?この街にろくな医者は居ないぞ。」


 人々が口々に言い争っている。


「そうなの?」


 フィンに向かって聞く。


「うん、店の女の子達をみてもらうのも毎回、外から医者を呼んでたし、シャロンの出産も外から呼ぶつもり。」


「そうなの。」


「というか薬を出す医者しか居ないな。でもこいつはこのまま死んでくれた方が俺は良いけど。」


 私達が話している間も街の人達は外に捨てて馬は解体すると言い出している。


「フィン。それは良くない気がする。」


「俺はあいつに殺されてる。」


「私も。」


「そもそもこのガキが悪いんだろう。親のお前がどうにかしろよ!!」


 と矛先がまた泣き続けている親子に戻る。私は隣に居たお土産屋の女将さんに話を聞く。


「何があったんですか?」


「馬に乗ったあの男性がここに止まったの。住宅街で何かを探すみたいに。それであの子が馬なんて初めて見るものだから止まってる馬に触ろうとして馬は急に子供が現れて手を出されてびっくりしたのか後ろにのけ反ってあの男の人を落としてしまったのよ。それで落馬した時に後ろ足で頭を蹴られてしまったみたい。私も聞いた話だけどね。気付いたら倒れていたわけ。」


「そうなんですね。だからあの親子が責められて。」


「ええ。この辺りは特に観光客に頼って生活しているからこういう事件は生活を揺るがすのよ。この辺りだけは安全っていう信頼のもと来ている人が大勢いるから。街の奥とはまた違う世界なの。」


「そうなんですね。」


「おい、お前らどうやって責任を取るんだよ!聞いてるのか!」


「すみません、すみません。」


 母親は地面に頭をこすりつけて謝り、男の子は母親にしがみつきながら顔をぐしゃぐしゃにして泣き続けている。


「フィン、あの人生きている思う?」


「うーん。近くに行かな分からんかな。」


「そうよね。でも今出て行けば目立つわよね。」


「せやな。ただ血は出てないから気を失ってるだけな気がしなくもないけど。」


「ええ。」


 そこから一人の男の人が叫んだ。


「おっ俺は知らなかったし、何も見ていない。悪いのはあのガキだけだ!」


 そう叫んで走り消えてしまった。その後、蜘蛛の子を散らす様に我先にと人が消えていく。ものの数分で人は居なくなりこの場所には私達とあの親子とすっかり落ち着いた馬とデイビッドだけになった。

 未だに意識のないデイビッドに近付くと、穏やかに呼吸をしているし服が汚れているだけで血もなく擦り傷位で怪我もない。いやおでこにたんこぶがある。


「やっぱり貴方の言うとおり気絶しているだけみたいね。」


「せやね。さあどうする?息の根を止める?」


「ちょっと。良くない。」


「すみません、私達はどうすれば?もう街では生きられないのでしょうか?」


「大丈夫やろ。一旦、キングに説明しておいで。」


「でもこの方はずっとここに?」


「うん。」


「いいえ一旦家へ連れて行きましょう。」


「シャロンほんまに阿呆なんか?」


「私もそう思うけど。でも人としてこのままにしておけない。だからキングにここの家で看病していると伝えて。」


「分かりました。すぐに行きます。」


「ええ。」


 女性はすくっと立ち上がり子供を抱えて走り去って行った。


「さあフィン足を持って。お願い。」


「お願いって言えば断られへん思って。」


 ソファにタオルケットをしいてデイビッドを寝かせる。馬はフィンが裏に繋いでいる。

 とりあえず砂だらけのシャツを脱がせてフィンのシャツを着せる。顔も砂だらけなので濡れたタオルで拭いていく。


「シャロンってほんまに阿呆やなぁ。」


「そうね、私も同じ気持ち。ちょっとズボンを着替えさせてあげて。私は氷を買ってくる。すぐそこだから。」


「へーへー。勢い余って殺すかも。」


「ちょっと。でもさっきの男の人が逃げるという選択を取ってくれて良かった。もし殺して捨てようだったら私一人の力ではあの群衆を止められなかった。」


「俺はそっちの方が良かった。」


「フィン?!」


「ぺっ。」


 フィンがデイビッドに唾を吐くふりをしたのを横目で見届けた後、私は家から2分歩いた所にある氷屋さんでサッカーボール程の氷を買って家に戻る。

 フィンはちゃんとズボン履き替えさせている。


「ありがとう。フィン。」


「いいえ、どういたしまして。ぺっ。」


 またやってる。キッチンに持って行きアイスピックで氷を砕いて革袋に水と砕いた氷を入れる。氷嚢ができたのでリビングルームに戻るとズボンは完璧な状態になっていた。デイビッドの頭に氷嚢を置いて顔を見る。やっぱりどこからどう見てもあのデイビッドだ。


「フィンありがとう。」


「捨てといたら良かったのに。」


「もう、それにしても起きないわね。」


「まじで意識がないかもな。これは願望じゃなくて実際に。ちょっと叩くで。」


 フィンが何度も肩を叩いて耳元で声をかけている。


「これはほんまにやばいんかも。」


「嘘でしょうやっぱり遅かったかしら?」


「というよりほんまに打ち所が悪かったんやろな。今から医者に診せてもどうやろ?」


 と言いつつまたデイビッドの肩を叩いて耳元で声をかけている。これはまずいかも。人が寄ってくるまで時間あっただろうし私達は結構な時間が経ってから外に出た。


「本当にまずいわね。」


「うん、やっぱり頭はやばいな。」


 瞼をあげて瞳を見ても動かない。光を感じていない。だったら一度やってみるしかない。


「痛いの痛いの飛んでいけ。」


 頭に手を置いて力の限り叫ぶ。フィンは呆れて私を見ている。手のひらからぱあっと光って腫れが引いていく。


「シャロン本当に阿呆やな。」


「分かってる。」


「う、うう。頭が。」


 起きた!

 私は慌ててフィンの所まで移動する。フィンは私を後ろから抱き締めている。その時玄関を叩く音がして入るぞという力強い声と共にルークとケネスが入ってくる。


「揃ったな。」


 やけに落ち着いたフィンの声が私の耳に残る。


「お嬢様なんにでも首を突っ込みますね。」


 ルークの呆れた声。


「それでその馬に蹴られた哀れな男は何処かな?」


 落ち着いたケネスの声。


「ここは?」


 ゆっくりと起き上がるデイビッド。そして私達を見回して目をぱちくりとさせながらきょろきょろしている。


「俺が幻を見ているんですよねお嬢様。」


 ルークが私に言う。ケネスはルークより落ち着いている。


「えっとこれは非常に良くない状況なのでは。」


 私は後ろに居る二人より前のデイビッドが何も言わずに辺りを見回し続けているのが気になって仕方がない。


「なんだか様子がおかしいわね。」


 私の声が耳に入ったのかどうかは分からないけどようやくこちらを真っ直ぐに見た。


「えっとここは何処ですか?思い出そうとしても何も思い出せなくて。」


「思い出せない?」


「ええ。ここが何処で、貴方たちが誰なのか、そもそも自分が誰なのかさえも分かりません。」


 デイビッドは不安そうに私達を見ている。私とフィンはどうすれば良いの分からずに顔を見合わせた。


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