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47、スパイの戯言


「シャロンあんまり動き回ったり重い物もったらあかんよ。体も冷やしたらあかんし。」


 ユエが帰った後、フィンが私の傍から離れないと思ったらこんな事を言い出した。


「えっどうして?」


 私はヒソヒソ声で返す。


「だって俺の子供がいるんやから。」


 嘘偽りなく曇りなき眼でフィンが言う。


「えっ?どうして分かるの?」


「だって昨日の事覚えてないん?俺ら最後までしたやろ。俺の店ではさせない事まで。」


「えっ。」


「えっ。」


「えっ。」


 ちょっとどうしよう。真面目に言ってるんだよね彼はだってキスしたらできると同じくらいのレベルの話じゃないかしら。いや確かにそういう行為があったから絶対的に間違いではないけど。それをしたら必ずできるって思ってるって事よね。

 キョトンとした顔で私を見ている。私はかける言葉が見つからなくて少し黙っていると少しムスッとした表情に変わり私から視線を逸らす。


「なんなんシャロン嫌やったん?」


 慌ててすぐに答える。


「嫌じゃないよ。」


「じゃあなんなん。」


「あの…なんでもないよ。」

 

「じゃあちゃんと言うこと聞いてよ。」


 私を諭す様に言う。本当に?本当に言ってる?


「うん、分かったよ。」


 駄目だこんなに純粋な人なのか本当に?ふざけてない?だってこんなに顔が良くてスタイルも良くて街のリーダーみたいなのやって…って元ボスか?まあそれでなんでもお見通しでスマートで絶対にモテる人なのに?えっ?


「じゃあ紅茶いれてくるわ。」


「あ、ありがとう。」


 甲斐甲斐しく世話をしてくれる。なんというか…なんて伝えれば良いんだろう。よし考えるのをやめよう。この事については聞いてくるまで言及しないと決めた。



 それから数週間ユエは訪ねて来なくなった。心配になって外に出ようとしたら勘違いしたままのフィンに大事な体やのにと言われて外に出ることを許されないし。ゲイルが訪ねてきても風邪とかうつったらあかんから家の中に入るなと言い放つ始末。

 その間もヌーンの街は変わり続けた。チョコレート工場はチョコレート作る全工程を物凄く細かく分ける事で働く人達が作り方を部分的にしか知らないようにし始めた。誰か一人が製造方法を売ってもその後も何人も買収しなくてはならないから流出しないだろうということらしい。

 フィンは、そもそも全行程を知ってる奴なんて俺位しかいーひんけどな。って言ってたけど。

 後、今でいう警察の様な人達が街のそこら中に立つようになった。簡単に訓練もしてマニュアルも作って治安を良くしようと取り組みらしい。

 フィンが絶対安静を私に強いていたので穏やかに過ごしていた。


「ルーク色々頑張っているのね。」


「せやなそうじゃないと連れてきた意味ないし。」


「ええ。ってやっぱり私じゃなくてルーク目当てだったのね!」


「違うよ、シャロンだけに決まってるでしょ。」


「外まで聞こえていますよ。」


 私達はふざけるのをやめて耳をすませる。もしかしてオーウェン?玄関の方から声が聞こえる。


「信用していただけませんか?」


 フィンと顔を合わせて口だけを動かして話す。


 どうする?

 ダメ。

 スパイされない?

 殺す。

 ちょっと。

 

「もしもし。もう顔も分かっていますし玄関を開けていただけませんか?」


「ちょっと早く出てきなさいよ。」


 ユエ?

 なんでや?

 でもあの声。

 せやな。

 フィン。

 隠れて。

 嫌よ。

 シャロン。

 離れない。


 とフィンの腕にしがみついた。本当にぎゅっと力強く。


「仕方ないな。」


 フィンは観念して玄関に行くと見せかけては私をそのまま抱えて階段下の収納に私を押し込んだ。


「嘘でしょう、ここ中から開かないの?!」


「シャロン頼むから静かにしてて。」


収納の扉の前から小さく聞こえる。多分外に聞こえない様にだと思うけどなんだかニヤついている気がして腹立たしい。

 足音が遠のき玄関を開ける音がする。


「やっと会ってくれましたね。クラウン。」


「大きな声で言うな、ど阿呆。」


 あ、低い声怖い。


「ああすみません。」


「で、なんの用や?」


「はい、多分近い内にデイビッドさんが現れます。」


「デイビッド……。」


「はい、それだけです。ただ何もしてこないとは思います。さすがに王の決定なので。」


「で、なんでその女と一緒におるねん。」


 女って口が悪い!けど名前を言わないようにしたのかな?それでも彼女って呼びなよ!


「ああ、彼女はえっと。」


 随分言い淀んでいる。数十秒の沈黙。


「ああーその。」


 今度はユエの声で言い淀んでいる。


「しばくぞ。」


 フィンって本当に怖い。


「待って!やめて彼を離して!」


 ユエの慌てた声。ああ、どうしてこんな場所に閉じ込められているの!


「彼は私の…恋人なの!」


「恋人?」


 恋人?


「ああ、ユエさん言ってしまって良かったのですか?」


「この状況では仕方ないでしょう。この人は抵抗もなく人を殺めるわよ。」


「人聞き悪いなぁ。」


「ユエさん……とにかくそういう事なので。ですがクラウンに心配されなくても彼女を傷付ける事はしません。」


「別に本人が嫌がってないんやったら好きにしたらええやん。傷付けられるのが好きな奴もおるし。」


「えっとそんな趣味はありません。ではそろそろお暇しましょうか。」


「ええ。まだ訓……。」


「くん?」


「嫌だなぁユエさん。デートですよね?」


「ええ。」


「それではこの家の何処かにいるシャーロット様にもよろしくお伝えください。」


「出ていけ。」


「はは、分かりました。では失礼致します。」


 そして足音と玄関の扉の音。帰ったのかしら?


「お待たせ。」


 フィンが突然、扉を開けたので明順応で眩しくて目を閉じる。


「ああ、ごめん。大丈夫?いきなり過ぎたな。」


「大丈夫、それでユエが一緒に居たの?どうしてなの?」


「分からん。でも無理矢理一緒に居させてるって感じではなかったかな、誤魔化すために一生懸命嘘をつこうとしてたし。」


「ふむ、じゃあ本当に恋人に?」


「それはどうやろ?」


「まあそうよね。だって会いに来てくれなくなって数週間で?その間に?」


「あり得ない話ではないけどな、俺らは会って2日で結婚したし。」


「それまでに期間があったでしょう。私達には。」


「あは、せやね。」


「ねえちょっとさっきからどうしたの?」


「何よ?」


 フィンが階段下の収納の扉を開けてくれた時からあのニッコリに戻ってしまった。あの二人が来るまで穏やかな表情だったのに。


「フィンちょっとおいで。」


 私は腕をひろげてフィンを見上げる。フィンはニッコリから真顔に戻って私を見ている。私はこの真顔の方がまだ安心する。


「俺は子供じゃないよ。」


「フィン。おいで私が抱きしめたいのお願い。」


 私のお願いという言葉にふうと一息ついて私の腕の中に入ってきた。


「はあ、シャロンのお願いは無視できひん。」


「ふふふ、好きよフィン。」


「それが怖いねん。あの騎士に何かされたらと思うと。子供産まれるのに。」


 子供……。


「そうね、だからこそ私達は強くならないといけないわ。親になるのなら強くならないと。」


「俺はなれない。」


「フィン、大丈夫よ。私が居るでしょう。」


「シャロンお願いやから俺より先に死なんといて。」


「うーん、そうね。できたらね。」


「絶対。」


「そんなのどうやって?人の生き死にはどうにもできないわよ。」


「はあ、口約束でも分かったって言ってくれたら可愛いのに。」


「あら、ごめんなさい可愛くなくて。」


「ううーん可愛い。」


 フィンはニッコリじゃなくて全ての筋肉が緩んだ顔をしている。


「よしよし。」


「俺、本当はここから逃げ出したい。勿論、シャロンと一緒に。」


「よしよし。」


「うわぁーくそがー。」


フィンはそれから一日中こんな調子だった。




「ねえユエさん本当に良かったのですか?今からでも否定しに行きます?」


「え?何を?」


「恋人だという事です。」


「良いですよ別に。」


「でも。」


「もしかして貴方が否定したいのでは?私みたいな職業の女は敬遠されるもの。」


「ああ、それは違います。率直に言います、ユエさんってクラウンが好きですよね。だからです。」


「な、なんですって!」


「見ていたらすぐに分かります。胸ぐらを掴まれた時、クラウンを守りたくて引き離したのでしょう。」


「な、は、え。」


「多分、クラウンも貴方の気持ちに気付いています。だから貴方にわざと冷たくしている。」


「そう、ね。」


「……貴方には本当の事を教えてあげます。私はシャーロット様を愛しています。もしかしたらクラウンはそれに気が付いて会わせてくれないのかもしれません。あの人は本当に聡い人ですね。冗談だと思ってくれると思ったのにちゃんと私の本心を見抜いていた。」


「シャーロット。シャロンね。」


「今はそう名乗っていますね。私はあの人を心からお慕いしております。」


「分かる気がする。私も好きよ。優しくて愛情深くて温かい。」


「ええ、私もとてもよくしていただきました。初めてお会いしたときに既にそのように感じました。」


「だったら私達は同じ境遇なのね。」


「ええ、これから貴方にどんなに嘘をついたとしてもシャーロット様を愛している事だけは嘘ではありません。」


「分かりました。」


「では行きましょうか。貴方の故郷へ。」


「ええ。」


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