40、譲歩
「フィンありがとう。」
キングの家から出た所でフィンをギュッと抱きしめる。どちらかというと家族愛に近いハグだな。不思議だなぁ怖かった人が安心できる存在になるなんて。彼の行動もそうだけど今、横に居てくれるだけでホッと気が抜けて安心している。短期間しか一緒に過ごしていないのに何故か分かり合えている気がしている。
「こちらこそ分かってくれてありがとう。一瞬離した事を後悔したけど、あのまま引っ張ってもシャロンが痛いだけやと思ったし、実際やられたら分かるけど、引っ張られるんだるいし。」
私の背中をポンポンと優しく叩きよしよしとさすった後、ゆっくりと体を離して歩き始めた。手を繋いで歩いているとどんどんフィンへの気持ちが大きくなる気がする。
「…ありがとう。」
「泣いたのはもう大丈夫?」
「もう平気。でもバタバタしたしちょっとゆっくり休みたい。」
「そっか、じゃあ軽く果物食べて昼寝しよ。」
「ありがとう。」
「いいえーどういたしまして、10分位やから頑張って歩こな。」
「ええ。でも…でもね誤解しないでほしいの。ケネスっていつもはあんな事を言わないの。今日は彼の中でも色々と思うところがあったんだと思う。私とケネスは全てを捨てて二人で一緒にいようって駆け落ちしかけた事があるの。私にその記憶はもうないけど…その…だから難しい事かもしれないけどケネスをあまり嫌わないでほしいの。」
フィンは私の話を聞きながらほんの一瞬だけ物凄く冷えた目で私を見てすぐにサングラスをかけた。フレームがゴールドで真っ黒の丸いレンズのサングラスをかけると一気に絶対に近寄ってはいけない危ない感じが出る。
「シャロンちゃん。」
ちゃん?しかもなんかいつもより低い声だし怒ってるよね?でも私が悪いので反省する。
「はい。」
「なんかさ、過去の事は仕方ないって分かってるけど実際、誰かとそういう関係やったとか聞くとあかんね。」
と話しながら私の肩をぐっと抱き寄せる。歩きにくい。
「こんな事しても俺にドキドキしてないでしょ。なんか腹立つね。俺ばっかりが好きな気がして。」
嫉妬されてる?にしては冷静だ、私に八つ当たりもしないし暴力的な事もない。見た目はこんなに危ない男なのに、ルークは別として私の周りの男性達はどちらかというと攻撃的な人が多い気がする。ケネスも暴言が酷いしデイビッドは言わずもがなって感じ。でもフィンは一番年下なのに一番落ち着いている。
でも結構鈍感だな…気付いてないのかな?そういうことを言われると胸がギュッと締め付けられる。その鈍感さに少しだけ苛立ち大人げなく八つ当たりをする。
「いいじゃない、それで。」
あえてフィンを見ずに言う。
「なんやと?」
あああ…どすのきいた声…怖い…けど、うん。
「私っていい女だからモテちゃうかもしれないけど、他の男じゃ物足りないって私が思う位愛してくれればいいじゃない。そうしたらきっと私はあなたから離れられなくなるわ。」
フィンがサングラスを手で下げて上目遣いのキョトン顔で私を見てすぐにフッとふきだし笑い始めた。
「ふふふ、シャロン、ええやん。ふふ、そんなに顔を真っ赤にして言うなんて可愛いなぁほんまに。」
そしてサングラスを戻し立ち止まったと思ったら抱き上げられてそのままキスをされる。悔しいけどちゃんと伝えよう。
「ねえフィン、あなたが処刑の日に来てくれた時、どれだけ心の中で喜んだか知らないでしょう。それにあなたと家族になった事もこんなに嬉しいのに気付いてる?多分、フィンが思う以上に喜んでいるし嬉しいの、伝えなかった事は反省してる。だけど嫉妬する必要ない位ちゃんと好きよ。」
フィンが抱き上げたまま私を見上げている。サングラスをしているので見ていると思う…だけど。
「ありがとう。」
フィンのありがとうは深く優しい声だった。良かったちゃんと伝わったのかも。
その後やっとおろしてくれてギュッと抱きしめてキスをされた。フィンってキス魔なのかな?まあとにかく本当の事を言い合えたのは良かった。どちらともなく自然に手を繋いで帰った。
「僕はここに住む。」
次の日、またお昼頃にゲイルが来てキングの家に呼ばれ着いた途端にケネスが堂々と宣言した。私もフィンも絶句する中、ルークとケネスは淡々と話を進めている。
「おい、俺が出て行ったからってなんでこいつと手を組むねん。」
「一番は法律だ。このヌーンの街の全てを作り変えるなら法律は必要だ。それにフィンが手伝ってくれないのなら他の片腕が要る。ゲイルは信用しているし頼りにしているがその分負担も大きい。ゲイルだけに頼りきりでは彼がもたない。」
ルークが説明をしているがフィンは段々と怒り始めている。隣にいてそれを肌で感じている。
「まさかそんな奴と手を組むなんて。信じられへん。昨日、シャロンが散々言われた事忘れたんか?昨日の今日やろうが!」
「まだ決めたわけじゃない。勝手に決めるなら二人を呼ぶ必要はない。最終的にお嬢様に決めてもらおうと思ったんだ。ここで働くならどうしても顔を合わせる事もあります。お嬢様にはそういうことを含めて決めてもらいたいんです。」
「なんやと…そんなんシャロンは何も言えへんに決まってるやろ!」
「ちょっとフィン落ち着いて。」
珍しく声を荒げて怒っているフィンをなだめる。それにしてもどうしたものか。そりゃ私としてはルークを支えてほしいけどフィン的には複雑なのかな?
「シャロン、すまない。本当に申し訳ない。昨日の事は悪かった、心から反省している。」
ケネスがこちらに来て頭を下げた。若干、棒読みなのは気になるが、謝ってくれたしルークはケネスを認めている。それなら私から言う事は無い。
「私はルークが決めたのならそれを尊重する。」
「お嬢様…すみません。ではケネスにはここに居てもらいます。」
「皆、これからよろしく。」
ルークがケネスと呼びケネスもそれに反応しなかった。もしかしたらこの二人あの後ずっと話し合っていたのかしら?
「ゲイルじゃあケネスに部屋と適当にこの街を教えてやってほしい。」
「ああ、じゃあついて来い。」
「ちょお、待ちーな。アンタ貴族なんやろ?街に居るってそんな簡単に許されんのか?」
フィンが冷静に言う。確かに領土にいる者たちはどうするのだろうか?
「僕は貴族ではあるけれど領土も何もないんだ財産も殆ど底をついている。父が居なくなって母も亡くなって、その時に知った父が居なくなった時から当家は王からの援助で生きていたんだ。だから貴族なんて名ばかりなんだよ。」
「うーんなんか……。まあええわ。ほんじゃ帰ろうかシャロン。」
何かを言いかけてフィンは話すのをやめてしまった。
「ええ。」
フィンはあまり納得していない様子だが、一旦ケネス許したようだ。
「明日、また来て欲しい。これからについて話し合うから。勿論お嬢様も来てくださいね。」
物凄い威圧感。ルークも中々の圧だ。
「分かった。だけどここに戻る事はないで。」
「とにかく来てくれ。お嬢様もお願い致します。」
「ええ。」
「じゃあ今日はもう解散です。」
ああと言いケネスとゲイルが先に出て行くので私達もその後に続いて扉の方へ歩き出す。
「じゃあ今日は帰るわね。ルークあまり無理しないようにね。」
「ええ、お嬢様もお気を付けてお帰りください。」
ルークが扉を開けたままおさえてくれているので横を通り部屋から出た。その後チラッと振り返ると少し名残惜しそうに私達を見ていた。そういえばルークは昨日からずっと眼鏡をかけていない。