4、教会にて
私は正直、1人でウキウキしていた。朝早く起きてとうもろこしをとってすぐに茹でて土の上に座って食べた。
「本当に最高。めちゃくちゃ美味しい、甘い。」
こんなにゆったりと過ごすのは久しぶりだ。ずっとせわしなく何かに追われるように生きていて息も絶え絶えだった。目を閉じて深く息を吸う、もう一度深呼吸した時、私の体にドサッと重いものが乗ってきてびっくりして目を開けると、
「お姉ちゃん何してるの?」
子供?可愛いピンクのフリルのワンピースを着ていて頭には同じ色のリボンをつけている女の子だ。黒い瞳に黒い髪小さな口で黄色人種っぽい顔に親しみを感じる。5,6歳位だと思うけど私は子供と関わる事がなかったのでよく分からない。
「えっととうもろこしを食べてるの。」
食べたい?って聞いても良いのかな?アレルギー的な。
「食べたい!」
良かった。自分から言ってくれた。
「どうぞ、熱いから気を付けてね。」
「うん、いただきます!」
ハグハグと食べる姿がハムスターみたいで可愛い。私もまた食べ始める。それにしてもどこから入って来たのかな。
「サーシャ!サーシャ!」
少し遠くから叫ぶ声が聞こえる。もしかしてこの子を?
「あ、お母さん!!」
やっぱりこの子の。女の子はとうもろこしを掴んだまま庭の柵をくぐって外に行ってしまった。少し話し声が聞こえる。
「サーシャ!ダメでしょう急にいなくなっちゃ!お母さん心配…て何を食べてるの?」
「とうもろこし!ここのお姉ちゃんがくれた!」
「なんで!ええ!挨拶しないと!」
そして門の方から叫ぶ声が聞こえる。
「すみません!すみません!」
私も門の方へ行くと女の子とそっくりな顔の大人の女性が居る。とても似ている。服は同じピンク色のフリルのワンピースで本当に可愛い。私はものすごくシンプルな白いシャツにレッドブラウンのマーメイドスカートに同じレッドブラウンのローファーなのに。
「おはようございます。」
「おはようございます。すみません!娘が!本当に申し訳ありません。私はこの子の母のアリサです。この子はサーシャ。」
「私はシャロンです。昨日、こちらへ兄のルークと一緒に引っ越してきました。こちらこそ勝手に食べさせてしまってすみません。」
「そんな、きっと娘が欲しがったんでしょう。この子育ち盛りで何でも欲しがって、それに勝手に入ってしまって申し訳ありません。」
「大丈夫です。ただ柵は鉄でできていて鋭い箇所もあってとても危ないので、次からは門から入ってきてくれたらありがたいです。サーシャちゃん次は門から入ってきてくれる?」
「うん、分かった!」
「ありがとう、いい子だね。私はシャロン、お兄ちゃんのルークと一緒に昨日、引っ越してきたばっかりだからお友達がいなくて、お友達になってくれる?」
「うん!じゃあ行こ!」
「行こ?え?」
サーシャちゃんは子供とは思えない強さで私を引っ張り始める。お母さんがまた後ろから、すみませーんと言いながら追いかけてきているけどサーシャちゃんのスピードについてこられないようだ。
「みんな!お友達を連れて来たよ!」
「はあはあやっと止まってくれた。」
サーシャちゃんが止まったので私は息を整える。深呼吸をして周りを見ると、なんだ誰だ!と子供達の声がしてあっという間に10人位の子供達に囲まれた。ここは昨日、挨拶に来た教会だ。
「ねえこの人誰?」
サーシャちゃんの近くに居る女の子がこちらを向いて聞く。肌が黒くアフリカ系の人種のようだ。目がくりくりしていて口も大きくはっきりとした顔立ちで髪がクルクルしていて本当に可愛らしい。他の子も色んな人種の子達がいてサーシャちゃんと同じ位の年齢の子供達だと思う。
「このお姉ちゃん、友達居ないんだって。」
サーシャちゃん、言い方!その通りだけど言い方!酷くない?
「へえー大人なのにね!」
「えっと、シャロンです。みんなよろしくね。」
「うん、お姉ちゃん。こっちで遊ぼ。」
「じゃなくてこっちでお絵描きしようよ。」
「駄目よ。おままごとするんだから。」
女の子に引っ張られている。どうしたものか。
「おやおや、貴方は昨日挨拶に来てくださった。シャロンさんですね。」
神父さんがそっと女の子を抱き上げてくれて私は解放された。
「おはようございます。サーシャちゃんが連れてきてくれて。」
噂のサーシャちゃんは外で友達と走り回っている。
「そうですか。もうお友達ができたのですね。」
そっと女の子を下ろして眼鏡をあげる。白髪混じりの髪を少し抑えながら話す。朝、あの場所に寝癖があったのかもしれない。
「サーシャちゃんのおかげです。」
「そうですか。もうみんなに好かれていますね。」
子供達が私の周りを走るのでそれを見て言っているのだろう。
「見知らぬ人が珍しいのでしょうか?」
「ふむ。」
少しだけ何かを考えた神父さんが笑顔に戻って言う。
「ここで一緒に子供達にいろんな事を教えませんか?」
ここで?
「あ、あのシスターになるのはちょっと。せめて兄と相談してから。」
「ふふっそうではありませんよ。先生として一緒に子供達を見てもらえませんか?という意味です。今年は喜ばしい事に子供が多くて、子供達を見守りながら食事やお菓子を作ったり寝かしつけたりというのが1人では難しくて。出来れば朝の10時から子供達が昼寝をする13時まで。もちろんお給金は出します。月、水、金でお願いします。」
「3時間だけですか。分かりました!させていただきます。」
「良かった、では明後日からお願いしますね。じゃあ王都から来ている騎士のデイビッドさんをご紹介しますね。お隣さんなのでたまに教会にみえるのです。ここは平和な地域なのですが隣国と近いのでもし戦争にでもなったら狙われ易いので騎士の方が常駐してらっしゃるんですよ。」
「騎士。王都。」
一気に体温が上がる。いやでも下がっているのか?冷や汗が凄い。絶体絶命では?ルーク!この土地は王都と関係ないとか言いながらものすごく身近に居たじゃないか。まずいぞ。神父さんの後をついては行くが本当に挨拶しても大丈夫かな?でもここで逃げれば絶対に怪しまれる。騎士と会いたくないって現代風に言えば警察の方に会いたくないって位、不自然だもの。会うしかない。
「さあシャロンさんこちらが騎士のデイビッドさんです。」
「おはようございます。」
とりあえず頭を下げる。怖くて頭を上げられない。
「ああ、俺は位が高い訳じゃない。顔を上げろ。」
「はい。」
おそるおそる顔をあげると背が高い、さっきまで神父さんの顔があった位置に胸がある。神父さんは私と同じ位で160cm位だからこの人は180cmはあるな。
「デイビッドだ。よろしく。」
黒い制服で肩から白いリボンを下げており胸元には幾つか星や何かしらの勲章のバッジが付いていて腰には細身の剣を帯刀している。肩まではつかないが長めの白髪で目が鋭く瞳は緑色で鼻筋が通っていて口は大きめ、どことなく狼を思わせる男の人だ。肌は少し焼けている訓練の賜物だろうしっかりとした体格でいわゆる細マッチョという体型だ。
「シャロンです。よろしくお願いします。」
私がここまで観察できて落ち着いて挨拶ができたのは彼の表情がさして変わらなかったからだ。彼は私が顔を上げ私を見た時、全く表情が変わらなかった。
「俺はこの村に駐在している騎士隊の隊長をしている。教会の隣に騎士隊の宿舎があるので他の隊員とも顔を合わせる事もあるだろう。」
「そうなんですね。私昨日、兄のルークと一緒に引っ越してまいりました。兄共々よろしくお願いします。」
「そうか。その…この村は平和だが何か困った事があればここに来るといい。大袈裟だが俺たちはこの村を護る為にやってきたのだ。村を護るという事は村にいる人を護るという事。もう君も俺たちが護るべき人だ。」
この人はきっと嘘がなく本心から言っているのだろう。それか私と知り合いで全てを知っており護ってくれようとしているのかと勘違いしてしまう程優しい表情だった。まあそれは気のせいだと思うけど。
「ありがとうございます。」
でも私はこの人に頼る事はないと思う。やはり王都というワードは引っかかる。それに私は処刑された身、本当は罪がないとはいえ罪人に違いない。この人たちとは対極にいる気がする。私は笑顔でお礼をいい騎士隊の宿舎を後にした。