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39、愛の形


 中はフィンと過ごした時と、変わっていない。デスクと椅子、その前に三人掛けソファが対面式に二つのみ。扉から一番遠い奥の位置にケネス、その横がルーク、ケネスの前がフィン、ルークの前が私、皆が座ったのを見届けてゲイルは外に出て行った。


「で、ご用件は?」


 フィンがケネスに切り込む。ケネスは先程より落ち着いて言う。


「シャーロット、君を迎えに来た。」


「えっああ、どうしましょう。えっと。」


 まさかの答えに私が慌てているとフィンが視線を遮るように少し身を乗り出した。


「彼女はシャーロットではありません。」


 フィンがケネスにニッコリと言う。ケネスは少しだけ顔を歪ませたがすぐに切り替えてまた私を見た。そういえばケネスはシャーロットと恋人同士だったんだ。そりゃ迎えにくるか、ヌーンの街に流刑なんて結構センセーショナルだろうし。


「シャーロット一緒に行こう。あの時だって一緒に行こうと言いたかったんだ。君が会ってくれなかったから。」


 あの時というのは本物のシャーロットが留学前にケネスに会わなかった時だな。

 デイビッドの話が全て真実かどうかは分からないけど、ケネスの話に関しては真実なのだろうと考えている。デイビッドがケネスの全てを知ってシャーロットがそんなケネスを選んだ事に加えて、そもそも自分とシャーロットを騙していたケネスを憎み復讐の為にあの処刑を選んだっぽかったし。

 であれば一旦、私はケネスを好きになって利用されたと言う事になる。一旦ね一旦。


「ケネス、ここにいる人達は信用できるし、他言しない人だからハッキリと言わせてもらう。私達は同じ父から生まれた、あの人に復讐する為に私と仲良くしていたのよね?」


 ケネスはバツが悪そうに目を逸らしルークはびっくりした様子で私を見てフィンは優しく手を握ってくれた。


「それは…誰から?」


 ケネスが弱々しく言葉を選びながら言う。


「誰でもいいの、そこは関係ない。本当かどうかを聞いているの。」


 突き放すように言ったつもりだ。私はここではぐらかされたり嘘を聞くつもりはない。気持ちが通じたのかケネスが苦しそうに話し始めた。


「そうだ。幼馴染みという立場を利用して城内や王の情報を得たり留学費用を得る為に君の傍に居続けた。その情報は正しい。」


「分かった。ありがとう、それだけは確かめたかったの。」


 ぱっと顔をあげて縋る様に私を見ている。


「でも、君を愛したのは本気だ。本当に愛していた。」


 一旦、信じよう。


「それも信じるわ。」


「だったら一緒に行こう。僕は君を愛してるんだ君もそうだろう?いつも僕達一緒に居ただろう。」


 嬉しそうに笑顔で言うケネス、申し訳ないけどそれは無理だ。その気持ちには応えられない。


「ごめんなさい、一緒には行けない。私の中にあなたを愛していた記憶は無いの。それに同じ父から生まれたのなら倫理的に良くないと思う。」


 ケネスは私の話を聞きながら一瞬、顔を歪ませたがすぐに切り替えてニコニコしている。


「そんな事、気にする必要はないよ。僕は君を愛しているし君も僕を愛してくれればそれで、戸籍上は関係ないし。流刑だからと考えているなら僕が連れて行くのは違う国だからもう関係ない。」


 さっきは慌てたけどもう慌てないしハッキリと言う。そうじゃないとますます傷付ける事になるし。


「ごめんなさい、私はあなたを愛さない。記憶を失う前は愛していたかもしれないけど、これからもう二度とあなたと一緒になる事はない。」


 きつい言い方をしたかなと反省したがケネス、いや自分の為に強く意思を伝える。自分の為に生きようと決めた、その為にはケネスとは一緒にいられない。

 フィンはまた優しく手を握ってくれる。ずっと手は握りっぱなしで一度も手が離れていないけど応援するみたいに要所、要所でギュッと握ってくれる。


「シャーロット、君は記憶を失ったのだろう。」


 私の言葉にムッとして刺々しく言う。


「ええ、部分的に。」


 記憶については馬車の中で話をすり合わせてある。


「だったらこいつらに良い様に騙されているんじゃないか?ここに居るのは流刑のせいだろう。こんな街のこんな男、君に相応しくない。」


「何を言われても気持ちは変わらないわ。」


「君は僕に従わない愚かで傲慢な女に成り下がったんだね。」


 ケネスが笑顔で怒っているのが分かる。でもこんな事を言われる筋合いはないはずだ。ある意味、あの日に会わなかった事で縁は切れているに等しい。そもそもちゃんと付き合っていたのかさえ怪しいのに。

 私がもう一度、言い返そうと口を開こうとした時にフィンが手をぐっと引いたので素直に黙る事にした。


「黙って聞いとったらなんやそれは。ださい男やな。」


 なんていうか…フィンって絶妙に腹立つ言い方をするよね。わざとなんだろうけど本当に上手。顔もなんか本当に馬鹿にしてるというか下に見てる感じ。これが危ない仕事もしていた男の余裕なんだなぁ。一番年下なのに誰よりも落ち着いて場を掌握している。


「なんだと。」


 ケネスはフィンの挑発にまんまとのせられて怒りをあらわにしている。


「だってそうやろ?放ったらかしにしとったくせに急に来て今更、愛してるとか。しかも他を下げる事で自分が優位に立とうとしたやろ、それが絶妙にださい。」


 フィンって完全に危険な男なのにこういう所の考えが共感できるから好きになったのかも。ケネスの先程の発言は本当によろしくないし好ましくない。

 それにしてもケネスってこんな人だっけ?この前の時は恋人は居なかったからかな?それとも全てがバレているから?特に暴言が酷い。村では仲良く子供たちを見ていたのに。


「それは…。」


「俺の愛しい奥様をこれ以上傷付けたらしばくで。」


 でた、またフィンの周りが暗くなっている気がする。さっきまで明るくヘラヘラしてたのに。


「「奥様?」」


 ルークとケネスが同時に呟く。そっかまだ言ってなかったな。フィンが嬉しそうに役所で貰った誓約書を見せている。少しだけ闇が晴れた。二人は口をポカーンと開けて絶句している。固まっている二人を無視してフィンが誓約書を大切そうに折りたたんでシャツの胸ポケットにしまった。


「嘘だろ。」


「お嬢様が…結婚…。」


フィンが二人の言葉を聞いてニヤリと満足そうに笑う。


「そういう事やから、もう手出しはできひんよ。」


「僕は心が痛いよ。君を置いていった事への復讐なら完璧だ。僕を深く強く傷付けている。周りに流され言われるままにこんな下賤な男の奴隷になるなんて。」


 ケネスが私を見た。血の気がなく死人のような顔色で、その顔から何も感情を読み取れなかった。その表情に私はゾッとしてフィンの手を握った。


「お前なあ!えっシャロンなんで泣いてるん?!」


 フィンが叫んで二人もこちらをバッと見た。頬を涙が伝うのが分かる。でもこれは私の涙じゃない、これは…シャーロットの涙だな。ケネスから感じる私に対する怒りと悪意に反応したんだろう。

 でもここにシャーロットは多分居ないからシャーロットの記憶が残る体の涙。ややこしいけど私は知らない脳に残る記憶が涙を流してるんだと思う。


「ごめんな、俺はシャロンが一番好きよ。誰が原因で泣いてるん?俺?それともずっと馬鹿みたいに黙ってるルーク?それともやっぱりこのど阿呆?原因の奴どつき回すから泣きやんで!」


 フィンがギュッとしながら背中をさすってくれる。それでも涙が止まらないのはシャーロットがケネスを愛していた深さによるものだろう。シャーロットは体の芯からケネスを愛しているというのにケネスときたらちょっと突き放された途端、こんなに罵倒するなんて本当にシャーロットが愛した男なのか?


「フィン、私もう帰りたい。」


 私は涙を流しながらただ静かに伝えた。


「うん!うん!そうしよう!そうしような!」


 フィンが他の誰にも断らず、そのまま外に出て行こうとした時、突然ケネスが立ち上がりフィンが掴んでいない方の私の左腕をぐっと掴んだ。フィンに引っ張られていたので体がぐんっとなり私の体が二方向から引っ張られる状況に陥り、それにすぐ気が付き先に手を離したのはフィンだった。

 なんかこんな話があったような…。フィンは私が痛い思いをするのが可哀想で手を離してくれたんだろう。私はケネスの体にドンと当たり抱きしめられそうになったが、絶対に嫌ですぐに飛び出した。ケネスはまだ私の腕を掴んでいる、この状況が飲み込めなくて涙は引っ込んだ。


「ほらな、すぐに手を離した。こうやってすぐに君を諦める男だよ。シャーロットやっぱり僕と行こう。」


 フィンは悲しそうに私を見た。初めて見せる表情だ。こんな顔もできるんだこの人は。願望でもいいフィンが離してくれたのは私が傷付かない為だ。そうに決まっている!


「フィンは私が痛い思いをしないように先に離してくれた。どちらと一緒にいるかなんて明白よ。離して!」


 私がいきなり叫ぶと思わなかったのかケネスがびっくりして手を離してくれた。その隙にフィンに逃げ込んだ。フィンはホッとした様な安心した顔で私を抱きしめてくれた。


「シャロン。帰ろう。」


「うん。」


 今度はすぐに扉から外に出られた。




「ケネス様、殴りたいし言いたい事はたくさんありますが全てを我慢して一つだけお伝えしても宜しいですか?」


「……ああ。」


「もう二度とお嬢様の前に現れないでください。」


「それは、それだけは。」


「お嬢様の説明通り手を離した弟の勝ちです。分かりますよね?」


「クソが。」


 がくんと力なくケネスがソファに座る。ケネスはお嬢様に相応しくない。今日、それが明らかになった。


「今日はこちらにお泊めします。明朝には出て行ってください。」


「騙していた事か、それとも留学して、置いていった事を怒っているのか?僕には分からない。僕の発言が明らかに不愉快で聞くに耐えないものだったと分かっている。彼女の心がもう二度と戻って来ない事も。でもああでもしないと、彼女を失った辛さと悲しみと痛みに耐えきれなかった。心変わりした彼女を責めないと自分を保てなかった。」


「お嬢様が何故、弟を愛しているか明確には分かりません。でもお嬢様が選んだ道です。その道に土足で踏み入る事は許されない。」


「ああ、そうかもな。もう全て終わりだ。僕の道はなくなった。」


 俺にはかける言葉が見つからなかった。


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