36、交差
「お父様!処刑の話どういう事ですか!」
ノックもせずに部屋を開ける。お茶をしているようだ。
「息子とはいえ勝手に入ってくるとは礼儀知らずめ。」
「シャーロットは私の婚約者を殺そうとしたのですよ!それなのにどうして!チョコレートごときで!」
父様から返ってきたのは予想だにしない言葉だった。
「おい、あまり私を舐めるなよ。お前達がシャーロットを嵌めた事は分かっているぞ。」
「な……。」
びっくりして返事ができない私を鼻で笑い続ける。今の今までずっと見捨てていたのに急になんだっていうんだ。
「気付いていないと思っていたのか?生まれた時から間抜けな奴だ。優秀なシャーロットを妬んでこんな事をしたのだろう。口には出さないがお前が嵌めた事など王城に居る奴ら全員が分かっている。何も知らないのはお前と成金の婚約者だけだ。」
「…父様…では何故?何故、処刑を決めたのですか?」
「決めたのは私ではなくお前だろう。急に何を言い出すのだ?恨みを買うのはお前だ。はっはっ。」
恨み?そういえば最近、王城で鋭い視線を感じたり食事の味がしなかったりお茶を持ってくるように言っても中々来ないし。じゃなくて!
「そうではなくて止めなかった事です。どうして今まで口を出さなかったのですか?」
「シャーロットは一人でどうにかできただろうが、何もしなかった。だったらそれがあいつの選ぶ結末なのだろうと。」
「そうですか。」
「とにかくシャーロットは流刑になった。処刑は取りやめだ。王家とは絶縁する書類を置いていったしもう気が済んだだろう。お前達馬鹿二人も騒ぐのはよせ。騒げば騒ぐ程間抜けに見える。」
「……失礼します。」
父様、やっぱりシャーロットを。でももう居ない。王位継承権は私の物だ。
「シャーロットが流刑だと?しかもヌーンに?行かなくては!」
「どうしたケネスそんなに慌てて。」
「ジェイムス王!お暇をいただけますか?私の幼馴染みが処刑を免れて流刑になるのです。」
「あいわかった。すぐに準備をいたせ。」
「感謝しますジェイムス王。」
王の許しを得てすぐにヌーンを目指した。
「シャーロットは処刑を免れた?」
「はっ!たった今王都から使いの者が来て昨日の処刑は王家と絶縁しヌーンに流刑へ変更になったそうです。そしてヌーンの外で見かけても特に連行せずに放っておけとのことです。これは王がお決めになったようです。」
「そうか。下がっていいぞ。」
「はっ!失礼します!」
部下が扉を閉めて足音が遠ざかってから深いため息をついた。
「シャーロット、俺が裏切った事がわかったから絶望して処刑を受け入れる気になったんだろう。それなのにどうして?」
それにしてもヌーンか。あの男が居る街。あいつにはそろそろ消えてもらわなくてはいけない。
「どうしたものか。」
シャーロットまた会いに行くよ。それまで待っててくれ。
「さあ着いたな。行こうかシャロン。」
「さっきから気になっていたんだがシャロンというのはお嬢様の偽名か?」
「偽名というか。シャーロットは処刑されたから新しい人間が必要だったのそれで。」
「分かりました。では今回もシャロンで宜しいのですね?」
「え、ええ。」
「かしこまりました。」
「ていうかルークが畏まった話し方してるのほんまにウケる。」
「それもそうね、もうお嬢様じゃないし。普通で良いわよ。」
「…分かった。」
不機嫌そうにルークが言う。というか私がほぼ監禁されていたキングの家の周りに人が集まっている。なんだ?
「本当にルークが帰ってきたぞー!」
「キングの子孫だ!」
「凄い!生きていたのか!」
「フィンでかしたー!」
「キングが帰ってきたぞ!」
そしてあっという間にルークがたくさんの人達に囲まれてしまった。
「フィン?何事なの?」
「キングのお帰りやで、皆に知らせた方がいいと思って。」
ニッコリ……。ああ。
「あなた本当にルークを許したの?」
「ええやん。俺、金は貯めたし仕事はルークに任せて俺らはラブラブしよ。」
ニッコリしてる。
「ルークを許したの?」
「俺は世界一愛しい奥さんと一緒に居たいだけ。」
「フィン。」
「ええやん!俺が一人でどんなけ我慢したか。それが身に沁みて分かったら手伝うつもり。」
「フィンお願いルークに意地悪しないで。」
「うわぁ、俺嫉妬に狂うかも。ルークの名前でそんな表情するなんて。」
いつものニッコリでふざけて言う。
「ちょっとフィン、真面目に言ってるの。」
「シャロンは俺のこの顔が全部嘘に見えるんかもしれんけど。嘘じゃない時もあるよ。」
「怖。」
「怖いじゃなくてギャップ萌え素敵ー!でしょ。」
あ、怖。
「とにかく俺はシャロンと一緒に居たいの。さあ行こ!」
グイグイ手を引かれて馬車に押し込まれキングの家にルークを残して馬車が走り出した。