35、序章
屋敷に着き三人で中に入りメイドさんとシェフのおじさんの二人に退職金を渡して別れを告げる。さらっと別れてしまったが生きているだけで嬉しいと二人から泣かれて私も嬉しくて泣けてしまった。会いに行きますと言ってくれたけど犯罪者の身内という事でとばっちりくらったら申し訳ないからやめてと言うとまた泣いてくれてルークが止めるまで三人でおいおいと泣いた。
二人を見送った後、話し合う為に私の部屋に戻ってきた。屋敷の中の家具は殆ど売り払われていて屋敷も売ってあり明日には退去しなくてはいけない契約を結んでいるらしい。ルークが奔走して金策をしてくれたおかげであの村で引きこもって生きていける様になっていたのに私が外に出たせいで…。
「ごめんなさい。私のせいで。」
自分の口から出た言葉は二人に聞こえるか分からない位弱々しい声だったのに私の傍に居たフィンはすぐに反応してくれた。
「シャロン大丈夫。大丈夫よ。一緒になんとかしよ。どう考えたってルークの誰とも関わり合わない、は現実的ではないから。」
またギュッと抱きしめられる。フィンは多分、年下なのに頼りになるなぁ。というかどうしてなんでもかんでもお見通しなのかな。
「フィン。ありがとう。」
ここまでバレてしまうと隠す事もバカバカしい。
「おい、俺は何にも納得していないぞ!なんだ俺の計画をいきなり否定して!それにお前クラウンの息子のフィンだよな?お嬢様とどういう関係だ!」
「あーなんかルークってこんな面倒くさい男やっけ?」
私を後ろから抱きしめながら馬鹿にするみたいにルークを指差している。私はフィンの腕を一瞬抱きしめてルークに話す。
「ふふ、ルークごめんなさい。ちゃんと説明しても信じてもらえるか不安だけどでも話してみるわね。」
「ええ、お願いします。」
ルークは私の言葉に少し落ち着きこちらに向き直った。
「今日の処刑を免れる為のあなたの作戦は成功する、けどヘルトの村に幼馴染みのデイビッドが騎士隊の隊長として駐在してて最初は庇ってくれるんだけど結局、私はデイビッドに捕まって処刑される。私はその未来から来た。」
誰よりも早く口を開いたのはフィンだった。
「はっ?あいつ俺だけでは飽き足らずシャロンまで?絶対に許さへん。」
あ、あの時のフィンと一緒、急に周りが暗くなった。怖い、こんな事ある?私を抱き寄せる手は優しいけど見上げるニッコリ恐ろしくて仕方がない。
「まあまあ。フィンは処刑という道を変えに来てくれたんでしょ、ルークどう信じられる?」
私はフィンの腕をよしよし、どうどうとさする。本当に大型の肉食獣みたいだな。フィンは私の腕を掴んでもっとさする様に動かす。可愛い。
「私には何がなんだか。」
ルークはやっぱり混乱した様子で私とフィンを交互に見ている。
「一番大事な事を付け足すと俺とこのお嬢様は結婚してる。」
「結婚?!結婚だと?てめえお嬢様をチョコレート漬けにしたのか!」
「してないしこの人、チョコレート苦手らしいけど。」
「うん。チョコレートは一つも食べてない。後、好きになった理由は多分、二人共よく分かっていないと思う。」
「なんですって。」
ルークが驚きながら怒っている。あんなに穏やかな人だったのに。それにしても。
「一番大事な事?」
もっと色々あるのでは?
「それ以上言ったら嫉妬で狂うで。ちなみに俺はデイビッドに殺されて最後はルークの腕の中で死んでる。」
「フィン。」
フィンの最期をデイビッドから聞かなかったけど。そっか、フィンはひとりじゃなかったんだ。良かった。ルークが傍にいたんだ、本当に良かった。
「じゃあ俺はお嬢様もフィンも助けられずのうのうと生きているのか。」
さっきまで混乱していたのにフィンを助けられなかったと分かると急に自分を責めるなんて。やっぱりフィンの事、大切に思っていたのね良かった。
「そんな言い方しなくても。ルークはいつも私を心配してくれて、なのに私が言う事をきかなかったからいけないの。だからあなたは悪くない。」
私がルークに謝ったその瞬間、フィンが私を指差して言う。指差すな!
「それはそう。このお嬢は本当に言う事をきかへん。」
「ちょっと!」
私の怒った顔が面白いのかニコニコしながら右手でほっぺたをムギュッとして私の唇がヒヨコみたいになったところにキスをかましてくる。ルークはフィンとのイチャイチャに反応しなくなってきた。
「フィン、俺はこれからどうすればいいんだ?」
ルークもこの状況でよく真面目に話せるなぁ。
「このお嬢様は俺がもらう。誰に何を言われても絶対に一緒に連れていく。それが王との約束やからっていうのもあるけど、今回は幸せになるって決めたから。それに俺に記憶を残したのは神様が彼女を助ける為に俺を選んだんやと思ってる。だから俺は彼女の守護天使として彼女を護る。その為なら何でもやる。」
あ、怖い。フィンから目を逸らす。何でもとか…こういう考え方はずっと怖い。
「シャロンは怖がり過ぎな。」
フィンの方に向かされてまたヒヨコにされてキスをされる。ちょっと私に軽く触れ過ぎじゃない?
「ねえ、私ってそんなに顔に出る?」
ムスッとしたままフィンに言う。
「ルークはどうする?俺に聞くんじゃなくて自分で考えて。」
あれ、無視?と思っていたらフィンがニコニコしている。ニッコリじゃなくて嬉しそうにしてるからまあいいか。
「俺は、お嬢様が居る場所が俺の居る場所だから。」
「じゃあ決まりやな。三人仲良く地獄行き!」
私は慌ててルークに話す。私がヌーンに行くのをあんなに必死に止めてそれでも一緒に来なかったのに。
「ルーク、本当にいいの?あなたヌーンを出たかったんでしょう?」
「私が出たかったのはあの家です。父の暴力が支配していたあの家。私はあの家が大嫌いだった。」
悔しそうに拳を握りしめて言う。そんな事があってシャーロットと一緒に王都へ行ったのか。
「今は俺が住んでる。3年前から俺がクラウンとして仕切ってる。ルークの両親も俺の両親も全員、亡くなったし。」
「そうか。だが両親の事よりもフィンは良いのか?逃げ出した俺を許してくれるのか?」
「俺が死んだ時に許してる。」
「そうか。じゃあ世話になるな。」
「そうと決まれば荷物をまとめてってもう馬車に積んであるから俺の馬車に移動させるだけやんなルーク?」
「ああ、だがヌーンに行くならヘルトの屋敷を売りに出さなくちゃいけない。」
「あ、それさ一応置いとく事ってできる?もしもの為にさ。」
「分かった。」
「じゃあ出発進行!」
フィンが私の手を引いて歩き始めたので慌てて私も足を動かす。ドレスなのでとても歩きにくい。馬車に乗り込むとフィンは私の隣を陣取りルークは呆れた様に私の前に座った。
「ねえそういえばフィンって何歳?」
「えー何歳がいいん?」
「何歳がいい?は特に考えた事がなかったけど、年下だと思ってる。」
「えー子供っぽい?」
「だって俺の女になれって言われて何を要求されるのかと思いきや軽いキスだけだったし、それに言動も幼いじゃない?」
「それはさぁー無理やりとか萎えるし。言動はいつも笑ってるからやろ?」
そして耳元で、誰の為に子供っぽくしてると思ってんねん、大人っぽいとこ見せてもええけど?と囁かれた。
ああ、怖い。ちょっとふざけたら何倍にも返ってくるからふざけられない。
「ちょっと言ったらすぐに仕返ししてくるから怖い。」
「だっておちょくったら可愛いんやもん。なんなん、ちょっと言ったら顔を赤くしたり青くしたり。好きな子いじめる奴ってアホやと思ってたけどちょっと分かるわ。」
「フィン!お姫様だぞ!いい加減にしろ!」
「残念でしたぁもう違いますぅ。」
腹立つ。
「腹立つ奴だな。フィンはもっと可愛い感じだったのに。」
ルークがボソッと酷い事を言った。
「まあ、ほんまは避妊が面倒くさいだけやけどな。」
とフィンがニッコリで言ったのでさっと壁に寄りフィンを避ける。うわぁ引く、本当にこういう事言っちゃう人って居るんだ。女の子を傷付けるって分かんないのかな?結婚やめよ。
「シャロンなんか勘違いしてるようやけど。だから俺は女の子とそういう事した事がないよ。」
「そっち?」
「そっち?ってなに!ほんまにおもろい。まあ誠実!とか言ってくれへんの?笑うわ。」
本当に爆笑してる。誠実?……なのか?そうかな?ちょっと私が子供過ぎてああ…うん…ちょっと…分からない。
「ああ…うん…そうだね…ありがとう。」
「お嬢様、私が口を出すべきではないかもしれませんが一時の感情で結婚なんてするからこうなるのですよ。」
「はい。」
フィンがまた強引に私の顎を掴んで自分の方に顔を向けさせて言う。長い前髪の間から少し細めた切れ長の一重の奥に焦げ茶の瞳が見える。
「でも俺を好きなんやろ?」
「はい。」
口が勝手に!顔が良いからか?声が良いからか?負けてしまう!
「お嬢様!」
「さあヌーンに着くのは多分、今日いや明日になってる頃やろうからゆっくりお互いの事を知り合おうなシャロン。」
「シャーロット様だ!」
「どっちでもいいから揉めないで。」
ヌーンに着くまで二人は車中も休憩中もずっとこの調子だった。