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32、最上の幸せ


「あーあーシャロン行っちゃったなぁ。やっぱり離さんかったら良かった。ええカッコせんかったら良かった。だってなんかごねたら信じてないみたいやん。だから!」


 部屋に戻ってくると一緒に眠っていたベッドにひとりで寝るのかと気が付き寂しくなったが酒を一杯、一気飲みして眠り、朝になって戻って来ていない事が分かるとまた寂しい気持ちが俺を満たした。シャロンとさっきまで一緒に引っ付いて寝てたのに。さっきまでイチャイチャしてたのに!


「でもあの顔、ほんまに俺を好きになってくれたんやなぁ。」


 シャロンに愛される事なんて諦めてたのにほんまに愛してくれるなんて未だに信じられへん。何度もキスして何度も言葉にして認めあった。シャロンからも何度もキスしてくれてちゃんと言葉もくれた。認めたくないけど確かに愛してるって。一言余計やけど俺を愛してるって認めたから良しとしよう。それにその後もずっと俺に引っ付いて離れなかったし。可愛かったなぁ。

 ルークが居なくなった後、ルークの両親がすぐに死んで俺の両親も俺が16歳で死んでから3年ずっとひとりでこの街をクラウンとしてまとめてきた。皆、いつかキングの子供のルークが帰ってくるからって俺の言う事をいやいやきいてて。俺はひとりで…でも今は違うシャロンが家族になってくれた。依存でも脅しでもなく自分の意思で。


「嬉しいなぁ。さあ届を出しに行こう。」


 ほんまに俺、人生で一番幸せや。こんなに幸せでいいんかな、愛されてるってこういう感覚なんやなぁ。シャロンが帰ってきたら絶対に今の俺以上に幸せにしたろ。しゃあないからシャロンは時々街を出ても許したるか。


「あーはよ帰ってきたらええなぁ。」


 どうしてだかシャロンは戻ってくると心から信じている。一ミリの疑念もなく盲目的に信じている。




「すみません!ルークさん!」


 またこんな早朝に誰だ。


「はい、今開けますよ。って神父様どうされました?」


 酷く慌てた様子の神父様がオロオロとしている。


「落ち着いて聞いてください。デイビッドさんにシャロンさんの居場所を知られました。」


「なんですって!どうして!」


「今朝、ネアさんがデイビッドさんと話してその後、急いだ様子のデイビッドさんが馬で走って行くのを見たそうです。」


「なんて事だ。どうすれば…。と、とにかく俺もヌーンに行きます。」


「そう言うと思って馬を借りてきました。コースさんが快く同じ馬を。」


「ありがとうございます。すぐに支度して出発します。」


「ええ。お気を付けて、無事を祈っています。」





「おい、嘘だろ。街の奴等から話を聞いてまさかと疑っていたのにお前。」


 婚姻届を出して部屋に戻るとそこにはあの騎士がいた。婚姻届を出したらもらえる誓約書を折りたたみ胸ポケットにしまう。


「どうしたん騎士様、勝手に入ってきたらあかんやん。」


「ああ、そうか。どうして気が付かなかったんだろう。あの時の隣の女はシャロンか。だから命が助かったんだな。」


「あはーばれちゃったか。それで何しに来たのよ?」


 騎士様はシャロンのあの力を知ってるんやなぁ。


「シャロンは何処だ?」


「知らんよ。知ってても教えへんけど。」


「じゃあ言いたくなるまで待つとするか。」


「あのさ奥さんの名前気軽に呼ばんといてくれる?もう俺の奥さんやから。」


「なんだと?お前チョコレートで?」


「違うし、これ見ろよほら婚姻届出してきたっていう書類。羨ましいやろ?シャロンが愛してる男は俺やねんで。何度も愛してるって言ってくれた。」


「まさか、信じられない。」


 騎士様が剣を抜いて俺に向かってくる。シャロンの為にできるだけ時間を稼がなあかん。もう二度と会えへんなぁ。




「ヌーンの街の情報ならフィンに聞くのが一番だろう。俺を許してくれるとは思えないが今はなりふりかまってられない。」


 キングの家、俺の住んでいた家。ここには親父に殴られていた記憶しか残っていない。だが昔と比べて誰もいないな。昔は手下っぽい男達が山ほどいたのに。すんなりと階段をあがり、親父が私室として使っていた部屋に入るとそこには血まみれの若い男とその男にとどめ刺そうとしているデイビッドが居た。


「何をしてる!やめろ!」


 思わず叫ぶとデイビッドは左手で剣をしまいニヤリと笑う。右腕を撃たれているのかダランとなっている。よく見ると腹も撃たれているな、俺の視線に気が付くと撃たれた右腕をおさえながらデイビッドが言う。


「ルーク、やはり貴様も…シャロンがここにいると知っていたな。」


「お前、何をしているんだ?」


「ルーク……全然……変わって……ないやん……。」


 倒れている若い男が俺を見て言う。


「まさかフィンか?」


 俺の叫びにやっと部屋から武装した男達が出てきた。デイビッドがその中の一人の男に声をかけた。


「オーウェン、シャロンが今、何処に居るか分かるか?」


「ええ、王都に向かっています。ケネスを助けに行きました。」


「でかした。じゃあ消える事にしよう。」


 デイビッドとオーウェンという見知らぬ男は窓から飛び出していった。手下っぽい男達が二人を追いかける。


「オーウェン……裏切り者……かい。」


 すぐにフィンに近寄り斬られている腹を止血するが既に出血量は凄まじい。デイビッドはフィンを長くいたぶったようだ。


「フィン!フィン!大丈夫か?すぐに医者を。」


 扉の所に居た男が外に飛び出して行く。


「ルーク…俺は…一度死んでるねん。シャロン…が力で…。でもそのお陰で…俺は初めて…幸せ…を感じた。」


「フィン。」


「俺さ…シャロンと…結婚した。ずっと…俺と…一緒にいて…くれるって。シャロン…が俺を…愛してる…って。生きてて…今までで一番…幸せやった。」


 フィンが涙を流しながら笑顔で俺に話す。血に濡れた手をしっかりと握るが力が入らないのか握り返してこない。


「な、なら生きて、お嬢様を迎えに。」


「勝手に…居なくなった事…ルーク…許すよ。シャロン…が許す…事…教えてくれた。」


 目の焦点が合わなくなってきた。あの小さなフィンが弟の様に可愛がっていたフィンが。


「しっかりしろ!」


「俺が…幸せに…何度も…傷付けて…でも…これから…どうして…やっと…俺を…愛して…くれたのに……なんで。」


 フィンは文章にならない言葉を泣きながら並べている。


「フィン!死ぬな!」


「それは…無理かな…でも…いつ死んでもいいと…思ってたのに。今は…死にたくない。シャロンと……幸せに暮らして……俺は……。あーあシャ…ロンの腕の…中で死にたか…ったなぁ。」


「フィン!フィン!」


 ゆすっても声をかけてもフィンは二度と起きなかった。



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