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31、動き


 王都、貴族専用牢屋


「ケネスもう少し待っておれ、明日の会議でそちを救い出そう。」


「はい、私の仕える王はジェイムス王ただお一人です。」


「うむ、だが随分と長く休暇を取っていた理由を聞かねばならぬな。」


「それは、また必ずお話します。それよりもこの国をどうするおつもりですか?」


「案ずるな支配下におくが全てを滅ぼそうとは思っておらぬ。それに我が手をくださずともこの国はもう滅びかけていた。絹だけで他国と渡り合おうという考えそのものが甘いのだ。」


「私も同じ意見です。ですから留学しこの国を建て直そうとしていたのに。」


「ふっそちの口から建て直すという言葉は一度たりとも出た事がなかったが。まあ良いもう少し辛抱してくれ。」


「はい。」




 同時刻 ヌーンの街

 

「ねえフィン私、ケネスを助けに行かないと。」


 気持ちを伝え合い少しイチャイチャとしていたがそろそろ行動しなくては。


「せっかく、両想いになったのに信じられへん!しかも他の男!」


 元恋人だと知ったら余計に怒るかな。黙っておこう。


「必ず帰ってくるから絶対に。誓うわ。何をかけてもいい。」


「じゃあ帰ってきたら結婚しよう。」


「えっ。随分と急な話ね。」


 結婚に拘るな。


「めちゃくちゃ嫌そうやん。絶対に街から出さへん。」


 ふりだしに戻ってしまった。


「結婚に拘るのはどうして?」


「俺にはもう家族がいないから。」


 悲しい理由だった。


「分かった。届的なものってこの街にあるの?」


「婚姻届がある。」


「じゃあ書いてから行くよ。」


「うわぁ家族か、嬉しいなぁ。」


 ゴソゴソと机の引き出しを探ったかと思うとフィンの名前は記入済みの届を渡される。この前、引き出しには何もなかったのに。フィンから万年筆を受け取り名前を書く。


「はい、これで大丈夫?」


「うん、朝になったら出しに行くわ。」


「お願い。じゃあ私は一旦出てもいい?」


「うん、夜やし丁度いいわ。行こか。」


 大きな鍵を持って誰もいない深夜の街を歩く。ルークには悪いけどヘルトの村には寄らずに王都へ行こう。道も反対方向だし半日以上かかるし。歩きながらフィンに王都までの道を教えてもらっているとあの門まで来た。随分と久しぶりな気がする。


「じゃあフィンまたね。終わったらすぐに帰ってくるから。」


「うん、ほんまにすぐに帰ってきてな。」


 フィンが持ってくれていた食料や水、お金が入った袋を受け取る。王都まで歩いて行くと2日はかかるようだ。ヌーンの街は逃げる手段を減らす為に馬がいないらしい。また怖い話を聞いてしまった。


「出発する前にもう一度だけその。」


 私がじっと顔を見つめるとニコニコしてキスをしてくれた。


「シャロンからしてほしいて言ってくれて嬉しいなぁ。行かせたくないわ。」


「本当にごめん。行くね。」


 ギュッとフィンを抱きしめる。名残惜しいが自分で決めた事なのでぱっと離れて歩き出す。


「うん、俺も門開けたのバレたらヤバイし戻るわ。」


「じゃあまたね。」


「うん、ほんまに気を付けてな。」


 さっぱりとした別れで少し寂しい気もするがとにかく王都へ歩き始めた。




 気が付くと夜が明けていた。最近、疲れているせいか隊長室で眠ってしまったようだった。窓から朝日が差し込みその眩しさで目が覚めた。カーテンを閉めようと窓に近付くと教会から見慣れない女が出てくるのが見えた。一瞬シャーロットに見えたが背格好も違う別人だ。手詰まりだし話を聞いてみるか。


「おはようございます。」


 挨拶をしただけなのにビクリと体を震わせてあたふたと教会を見て俺を見てを繰り返している。井戸で水を汲む為に出てきたらしいな。


「おはようございます。」


 もう一度努めて穏やかに挨拶をすると声を震わせながら挨拶が返ってきた。


「おはようございます。えっとあなたは?」


 まずお前が名乗れよという気持ちを抑えて笑顔で答える。


「騎士隊の隊長をしていますデイビッドです。」


 騎士という言葉に分かりやすく安堵して女も名乗った。


「ネアと言います。一週間程前から教会でお世話になっています。」


「そうでしたか。初めてお見かけする方だったので声をかけました。先程は驚かせてすみません。」


 神父が隠していたか。


「いえいえこちらこそ、誤解してしまって。」


「誤解?」


「ええ、ある方に出歩かずに隠れていた方がいいと。」


 やはり何かあるな。普通の戦火から逃げてきた人間ではない。


「誰かに追われているのですか?」


「いえいえ騎士様の手を煩わせるわけには行きません。それにもうその心配もありません。街を出てここまで来れば。」


「私達、騎士隊は村人の安全の為におります。この教会にいるならあなたは既に護る対象です。」


「ありがとうございます。でも私にその資格はありません。私はある女性に地獄の底から助けられました。だから今度は私が助ける側にならないと。なので神父様の元で学んでいます。」


 ある女性…地獄…追われている…。確かにこの女は若いのに苦労した事が見てとれる。化粧で隠しているが顔に痣があって手足に包帯。


「あなたのその傷、あなたの村の騎士隊は何をしていたんだ。」


「私がいた場所に騎士隊は居ませんでした。」


 決まりだなこの女はヌーンから来た。


「そうですか。」


 なら謎が残る、街の奴等は外に一生出られない筈、確かに地獄の底だ。だがこの女はここにいる。街から出るのをある女性に助けてもらったという事か。


「ママー!」


「エマ、おはよう。さあ顔を洗いましょう。」


「うん。」


 子供か、若そうなのに大きな子供だな。教会に来ている子供と同じ位の年齢だろう。顔を洗ってエプロンで拭っている。


「あっそうだ!神父様がちょっと来てって。」


「そう分かったわ。水を汲まないといけないからそこで待っててね。騎士様、話の途中ですみません。」


「いえ、大丈夫ですよ。」


「はーい。」


 子供が水を汲もうとし始めたので手伝いながら話をする。


「エマっていうんだ、素敵な名前だね。」


「ありがとう。ママがつけてくれたの。」


「そう、パパは?」


「パパって?」


「パパはお父さん。男親。」


「男の子って事?分かんない。私はママだけだよ。」


 なんだ変な子供だな。水を汲み終えてバケツを置く。


「そうなんだ。どこから来たの?」


「分かんない、ずっと隠れてたから。」


「じゃあママと一緒にどうやって街を出たの?門におじさんがいなかった?」


「ママが紙とお金を渡してシャロンですって。」


「なんだって!シャロンですってママが言ったの?」


「うん。そうだよ。」


「ありがとう。じゃあまたね。」


 俺は感情を抑えて笑顔で別れを告げる。


「バイバイ!」


 子供を無視して隊長室に戻りすぐに準備をする。シャロンはヌーンの街だ。そして出られずにいる。やっと見つかった。


「すぐに迎えに行くよ。お姫様。」

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