28、クラウンとキング
「聞いたんやろう。あのアホから俺がクラウンやって。二人になった時に。」
「……い、いやっあの。」
これを知るとまずいと言われている手前、返事をしてもいいのだろうか?
「ふふふ、聞いてたから、嘘つくなよ。ドタマぶち抜かれたいんか?」
また銃。でもさっきとは違う今回はちゃんと殺されるかもしれない。フィンからしっかりと殺意を感じる。
「ごめんなさい。知ってます。」
「よし。じゃあお利口なお姫様に問題です。この街のトップである役職がクラウンっておかしいと思わへん?」
「そう?なのかな?」
それはちょっと分かんない。
「じゃあシャロンのお父さんの役職は?国のトップやろ?」
「王様?キング?」
「そう、クラウンは王様の上に乗っかっているだけのお飾り。なんの実用性もないし使い道は黙ってそこにいるだけ。なんかあった時に身代わりとして死ぬ運命にある。」
「えっと?」
「昔は居たんよキングの家系も。昔はキングがこの街を治めてた。格好良くて尊敬できる人やった。その息子もええ奴で周りを大事にする奴やった。」
「……。」
「まただんまりか。段々と俺の言いたい事分からんか?」
きっと睨まれて私が少し前に辿り着いた答えを口に出す。
「ルークがキングの家系?」
「そう、やっぱり賢いなぁお姫様。」
ギュッと肩を抱き寄せられる。力加減がいつもより強い。
「ごめんなさい、ルークとの出会いの記憶がないからやっぱり分からない。ルークからは私に拾われたと聞いているけど。」
ドンと肩を押されてソファの背に押し付けられる。
「違うよな!お前が連れて行ったんやから!」
「えっ?ど、どういう事?」
抑えられている肩が痛い。
「宮中に信頼できる奴が一人も居ない、だからルークをあいつの優しさに付け込んだんやろ。」
「分からないけどそうなのかもしれない。ごめんなさい。」
「あの日、王都の連中はチョコレートでしかヌーンを知らなかったから街自体がこんなに酷いとは思っていなかった。だから一週間滞在すると言っていたのに数時間後には引きあげると言い出した。それでも詫びにと王都の連中が置いていった大量の金品のおかげで俺の親父とルークの親父のキングは上機嫌で酒を飲んでいた。」
「その日にルークが?」
「何も言わずに俺を置いていった。俺達は家族同然やったのに!」
フィンがガタンと体制を崩したかと思った途端、私の首を両手で締め始めた。
「あ゛あ、くっ。」
息苦しい、視野が狭くなっていく。
「お前がルークを!俺からルークを奪った!」
私の最期かもしれない。私は真っ直ぐにフィンを見据える。これがルークの恐れていた事、私が軽んじたせいでこうなった。
「フィ……ン。」
「俺はあの日に決めたシャーロット姫を殺すって!俺からルークを奪ったお前を!」
「ごめ…ん…なさい。」
私はそのまま目を閉じて身を任せる。その瞬間、首が開放されてゆっくりと視界が戻ってくるとフィンが泣いていた。
「…できる訳ない…シャロンの事…好き…やのに。」
「ゴホ…ゴホッ…フィン?」
「いつの間にか…こんなに…好きに…。」
ドサッとソファに座り頭を抱えながら泣いている。
「だってめちゃくちゃええ奴やもん。なんであの親子助けられるん?関わろうとできるん?それに門番にも女将にも。自分が一番辛い状況やろうに。なんで人に優しくできるん?それに俺にも。」
「フィン?大丈夫?」
「逆やん!俺を怖がって怒るべきやのに。なんで俺の為に泣いてくれるん?」
「フィン。」
「アホやなぁ。ほんまにアホ。俺の事なんか放っといて逃げたら良かったのに。あんな力、人前で使って。」
「そうなのかな。でも生きててほしいの。」
「…シャロン、頼むからここにいて欲しい。」
顔をあげて私を見つめている。もう殺意は感じない。
「それは…。」
「こんなに人を好きになったのは初めてや。お願いやから。俺を好きになって。」
優しくキスをされる。いつものふざけたキスじゃなくてなんかいつもよりちゃんとしている。
「…フィン。」
「お願い。お願いします。」
フィンは私を抱きしめながら呪文の様に言葉を繰り返している。私、どうすればいいの?ルークできれば早めに助けに来て。
「エマ!あんまり外に行っちゃだめよ!ここに居てね!」
「うん!ママ!」
「ネアさん体調はどうですか?」
数日前に教会に来た親子はすっかり落ち着き表情も明るくなってきた。来た時は動揺し恐れ怯え話を聞くどころではなかった。アンネさんに来てもらい風呂に入れ食事をさせてやっと落ち着いたかと思えば小さな物音にも反応し泣き出すという可哀想な状態だった。アンネさんと二人でどうにか看病を続けてネアさんの体の傷は良くなっていった。
「あっ神父様、お陰様で良くなっています。本当に心から感謝しています。エマもお友達がたくさんできてあんなに笑っているのは初めてです。」
穏やかに微笑む彼女はここへ来た時と別人のようだ。
「そうですか、本当に良かったです。ひとつだけ質問をしてもいいですか?」
「神父様はずっと何も聞かずにここに居させてくださっています。ひとつと言わず何でもお答えします。」
「シャロンさんは無事ですか?」
「そ、それは……難しいかもしれません。私のせいで。」
「そうですか、でも自身を責める必要はありません。シャロンさんが望んだ事ならそれは彼女の愛なのです。だから彼女の愛を受け取りなさい。」
「はい、ありがとうございます。」
彼女は涙を流しながら膝をついて祈っている。シャロンさんどうか無事で。