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27、怒りを飼っている



「おい開けろ!ここにいる事は分かっている!」


 誰かが叫びながら玄関の扉を乱暴に叩いている。まだ夜は明けきっていない。早朝に誰だ。玄関の扉を開けるとそこに居たのは制服姿のデイビッドだった。


「デイビッドさんどうされました?」


 あの時のように険しい顔をしたデイビッドさんが立っている。後ろには犯罪者を乗せる外から鍵がかかるタイプの馬車。これは完全に。


「ここにシャーロット様がいる事は分かっている。今すぐに連れて来い。さもなければお前も彼女と同じ道を辿る事になる。」


「デイビッドさん。どうして?あの時のあの言葉は嘘だったんですか?約束してくれた筈なのにどうして?」


 その時、デイビッドさんが軽薄そうに…いや楽しそうに笑った。


「お前のような下男と約束などするものか。」


「お前。」


 今、はっきりと分かった。お嬢様を陥れたのはコイツだ。コイツがあのハンカチを、お嬢様に罪をなすりつける為に。このデイビッドという男こそが王子側についた裏切者。

 絶対に許さない。こいつのせいでお嬢様は…。自分の体が怒りで震えているのが分かる。


「退け!おいシャーロット!出てこい!」


 ドンと乱暴に押されて体が玄関の扉に当たる。その横をすり抜けて入っていった。お嬢様がここに居なくて本当に良かったと心から安堵した。

 デイビッドは部屋の中の物を壊しながらお嬢様を探している。わざと音をたてて物を壊しているようだ。いもしないお嬢様を精神的に追い込もうとしているのだろう。


「出て来い!」


 デイビッドの怒号が響く中、色々と考えてはいるが今度こそお嬢様を助けられないかもしれない。手の内を話してしまった以上、仮死の薬はもう二度と使えない。甲冑の彼もきっとこいつの手に掛かって命はないだろう。処刑によってお嬢様の死を偽装しないといつまでも追ってこられるだろう、だがその為には処刑人の助けがなければどうにもならない。

 それにしても今更、どうしてまたお嬢様を王都へ連れて行こうとしているのだろう?それに早朝に一人で来たという事は誰にも知られずに行おうとしているという事。実際、他の騎士隊の者を一人も連れてきていない。

 それにしてもまずい事になった。今日こそ迎えに行こうと考えていたのに俺がヌーンの街に行けばデイビッドをお嬢様の所まで案内する事になる。


「おいルーク、彼女は何処だ。」


 苛つきながらデイビッドが玄関に戻ってきた。全ての部屋を調べたようだ。この屋敷には地下や屋根裏はなく隠し部屋なんてものも無い、人が隠れられるような場所も少ないからお嬢様はいない事がすぐに分かったのだろう。


「おい!何とか言え!」


 押し黙る俺に、苛つきながら怒鳴る。ここで答えを間違えればお嬢様の命はない。どうしたものか。とにかく何か答えなければ。


「お嬢様は……。」


「なんだ!貴様も処刑されたいのか?」


「…お嬢様はケネス様が王都へ行ったという噂を聞いて。」


「なんだと?王都へ?」


「ええ。」


 デイビッドがフンと鼻で笑い俺を見た。


「嘘だな。だったらどうしてお前がここに居るんだ?あの心配症でお嬢様の為なら何でもできるお前が何故?一人で行かせる筈がない。嘘を吐くならもっとましな嘘を吐くんだったな。」


「そうは言っても私からこれ以上お伝えする事はありません。私は留守番を言い渡されこの屋敷を守っています。疑うのであれば好きなだけ家中を荒らし私を拷問にかけてください。」


 じっと俺を見つめた後、呆れたようにため息を吐いて馬車まで戻り屋敷から離れる間際、悪者の様な捨て台詞を言い捨てた。


「今日のところは帰るが匿ったりしたら分かってるな。」


「はい。」


「まあお前が彼女を差し出すとは考え難いがな。」


 デイビッドは返事など聞く必要がないとばかりに馬車を走らせて行った。彼の背中が見えなくなってから屋敷に戻り厳重に鍵をかけた。


「俺にできる事は時間を稼ぐ事。とにかくあの街にいる事がバレないようにしないと。」


 あいつが壊していった物を片付けながら次の手を考え始めた。




「さあまずはなんとなく分かってるけど全部喋ってもらおうか。とりあえずそっちの彼から。」


 フィンが銃口を動かしオーウェンに話すように促す。オーウェンは私にすみませんと謝った後、私の知らない話を話し始めた。

 私のハンカチという決定的な証拠が出た時点で親しい仲に裏切り者が居ると分かり私は絶望し誰にも頼らないと決めた事。口には出さなかったけど私はデイビッドさんこそが裏切り者だと気が付いていた様子だったと執事から聞いていた事。執事と二人だけで実行した事。そして数日前にデイビッドが王都に現れてここに連れて来られた事。


「以上です。これが私の知り得る全て。」


「よし分かった。とりあえずまあ疲れたやろ。君は一旦休み。おーい連れて行って!優しくな!」


 二人の男が部屋に入ってきてオーウェンを抱えている。傷を治したとはいえ疲れていたらしく足元がおぼつかない様子でそれでも私を心配そうに見ながら部屋から出て行った。


「じゃあ次はお姫様、あなたの番ですよ。」


 少しふざけながら私にニッコリと言う。


「私が教えられる事なんて何も無い。記憶がないもの。」


「姫様、ルークは元気ですか?もう随分と顔を見てないわ。」


「ル、ルーク?」


「ルークは元気か?って聞いてんねん。」


 怖い。笑っているのに怒りというか殺意を感じる。私に対してかルークかそれとも二人とも?


「ルークは元気よ。」


「ふっまだ生きてるんやな。そうか。」


 今までフィンが怖かったけど殺されると本気では思わなかった。でも今は違う完全に完璧にフィンに殺されるかもしれない。喫茶店の近くで襲われた時以上に感情が見えない。


「どうしてそんなに怒っているの?」


 震えながら聞くとあのニッコリで答える。


「あらぁすごい。よく分かったね、他の女で分かった奴なんて一人もいーひんで。」


 フィンは笑顔で私に銃口を向けている。やはり私も恨みの対象だ。だから私の事を知っていて泳がし最終的に自分の手元に置いたのか。


「あなた恨まれる様な事をしたのなら謝るわ。本当にごめんなさい。」


 私は立ち深く頭を下げた。そのままの状態でいるとフィンに頭を掴まれて顔を上げられる。


「何に謝っているのか分かってない奴の謝罪はいらん。」


「ごめんなさい、処刑の時に仮死状態になったせいで記憶がないの。」


「記憶があったとしてもきっと分からんよ。シャロン直接何かされたわけとちゃうし。」


「もしよければ聞かせて欲しい。」


「……まあそうやな。姫様にはその権利はあるな。」


 そう言ってフィンは私に隣に座るように促し私も素直に従った。



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