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26、裏側


「ふぁーあ。眠い。」


 ソファで昼寝をしたので体中が痛い。ソファの近くに置いてあった自分の鞄を探り飴を頬張る。桃味だ。


「それにしても意外とこの街は広いのかな、あの喫茶店、門の近くをぶらついていた私は見た事もない店だったしこの家の場所も全く分からない場所だった。門の近くの酒場とかお土産屋さんとか一切無いしここから飛び出してもフィンより早く門まで辿り着けるかな?」


 無理だろうな……。時間潰しにこの部屋を探ろうにもソファとテーブルと檻しかない。今の状況って割と絶望的?


「あーどうやってここから出ようかな。ルーク心配してるかな…。」


 結局、夕方位に若い女性が夕食を持って来てくれて一人で食べてお風呂に案内されそのままの流れで寝室に移動しまた眠りについた。私ここに来てから寝てばっかりだ。


「流石に寝過ぎたね。」


 まだ夜が明けていないのに目が覚めてしまった。隣にはフィンが穏やかな寝息をたてて眠っている。寝室もベッドとランプのみだしなぁ。大事な書類でも抱えて眠れよ。


「フィン、明日の朝ご飯はサンドイッチでお願いします。」


 小さく呟くがフィンから返事はない。する事がないので仕方なくフィンから布団を引っぺがし首元までかけて目を瞑る。


「大人の女が同じベッドで寝てて朝ご飯のメニューの催促するのウケるわ。」


 チラッと見るとフィンが背を向けたまま笑っている。私は天井を見上げながら話す。


「あら起きてたの?じゃあ何故ちょっと泳がした?」


「何をするか待ってたんやん。そしたら朝ご飯のメニューってほんまに笑うわ。」


「ふっそうね。可笑しいかもね。」


「そうや、だって俺の事を殺す位はしてきても変やないからな。」


 またもやの絶句。私が彼を襲う?


「やめてよねそういう事言うの。貴方って本当に大変な暮らしなのね。」


「まあそうやな。気を付けとかんとな。でもシャロンがそんな事をするとはあんまり思ってないけどな。」


「ありがとう。」


「さあもう寝よか。おやすみ。」


 なんだろう、もっと深く入り込んだ方がいいのか悩ましいが私に背中を向け続けているという時点でそれが答えなのだろう。


「ええ、おやすみ。」


 朝食は昨日の女性が持ってきてくれて本当にサンドイッチだった。朝からお風呂に入り普段より濃ゆく化粧をしてまたあのほぼ下着みたいなキャミソールワンピースを着てレースの紐を渡される。仮面の代わりらしくこれを目に巻き付けた後、髪のセットをフィンが綺麗に仕上げてくれた。姿見で確認するといつもの自分とかけ離れているのでフィンの言う通りまあ確かにバレないだろう。

 

「じゃあ待つか。あの男を。」


 フィンは前髪をおろして目を隠している。黒いスーツに深いワインレッドのシルクのシャツ。警備員の時はラフな服で若いお兄ちゃんって感じなのに、今は完全に大人の色気を纏っている。


「ええ。」


「シャロンって名前は知られてる?」


「ええ。」


「じゃあ名前は呼ばんようにするな。」


「お願いします。」


 あの檻の部屋で待機しているとデイビッドさんがとうとう現れた。扉から入ってきたデイビッドさんは勿論制服を着ておらず白いシャツに黒のスラックスでシャツのボタンを第三ボタンまで開けている。いつもはピシッとセットされた髪も無造作に分けられているだけでどこを見ても騎士隊の面影はない。私の方には目もくれずフィンの向かいのソファに座った。


「久しぶりやなぁ。アンタと会うんも。今日はどうしたん?」


「この男を。」


 扉が開いてその人物が連れられてきた。まーた、頭に麻袋系男子か。デイビッドさんが男をドンと押す、どう見てもケネスではない。小さく呻きながら体を丸めている。


「取ってや。どんなんか見たいし。」


 デイビッドさんが乱暴に袋を取ると知らない若い男性だった。


「ふーんどんな事したん?あっ連れてってな。」


 デイビッドさんと話しながら手下っぽい人に手で促して若い男性は立たされて扉の外へ連れていかれた。


「処刑人のくせに犯罪者を逃したんだ。」


 処刑人……犯罪者。


「王都の?」


「ああ、そうだ。」


「処刑ってあの姫以来やってないやろ?」


「だからその姫を逃したんだ張本人だ。」


「えっ。」


 やばい思わず声を出してしまった。と思った瞬間にフィンに口付けられる。そして小声で囁かれた。


「静かにしときな。」


 小さく頷きまた押し黙る。甲冑の…あの助けてくれた彼が捕まった。しかもデイビッドさんは法律に頼らず公にせずここへ連れて来た。


「珍しいなお前の女が声を出すなんて。」


 急に視線が向けられてビクリと体を震わせてしまう。デイビッドさんの刺々しい声が皮膚に刺さる。


「まあ気にせんといてか、まだ途中やから。ていうかその姫って前に言うてた女やろ?生きてたんか?」


「ああ、生きていた。」


「王子に手を貸すくらい殺したかったのに残念やなぁ。」


 は?王子?は?


「そうだあんな女死ねば良かったのに。」


 えっ。デイビッドさん?なんだって?


「自分結構すごいこと言うな。一応幼馴染やろ。」


「ふっどうでもいいだろ。」


「ていうか今日はめちゃくちゃ喋るやん。どうしてん。」


「お前と関わりだしてもう5年位になるな。」


「ああ、そうやな。」


「そろそろ手を切ろうと思っているんだ。」


「おん、ええよ。こっちは去るもの追わずやから。」


 だったら私も帰らせてくれよな。


「お前はそうでもこっちはそうではない。」


 デイビッドさんは素早く剣に手をかけフィンに斬りかかった。フィンはギリギリで避けたが素早い二振り目が脇腹をかすったようで血まみれの手で脇腹を抑えているが、抑えている手からはドクドクと血が溢れだしている。これは…かすったではすんでおらずしっかり傷は深いようだ。あんな軽い一撃だったのに。


「王付きの…騎士様がいきなり……なんて卑怯やな。」


 呆れたように笑いながらフィンがデイビッドさんを見ている。私はフィンに近寄ろうとするがフィンに手で制止される。


「男と男の勝負に…割り込んだらあかんよ。」


「そうだ傷付けられたくなかったらじっとしてろ。これで終わりだ。」


 デイビッドさんが素早く動き今度は短剣で腹を刺した。これは致命傷だ。このままフィンは死ぬだろう。


「おい、女、お前だってこいつが憎いだろ捨てておけ、そして全て忘れろ。」


 私をじっと見据えて言い扉から返り血を浴びた姿のまま出て行った。


「フィン大丈夫?」


「大丈夫…では…ない…かな。」


「そう…よね。」


「これで…分かった?怖い人…はたく…さん居るって。」


「…ちょっと待ってて。痛いの痛い飛んでいけ!!」


 サーシャちゃんの時と同様に光が溢れて傷口は完全に塞がり傷が治る。


「嘘やろ。ヤバ。」


 フィンがむくりと起き上がり傷があった所を触っている。


「フィンさっきの若い男性と話をさせて。時間がないのお願い。」


「ええよ。おいさっきの連れて来い。」


 扉の外まで聞こえるように叫ぶと何事もなかったみたいに手下っぽい人達がまた彼を連れて戻ってきた。デイビッドさんが血塗れで出て行っただろうにボスが怪我をしてもお構いなしか。


「うう。ぐっ。」


「痛いの痛いの飛んでいけ。」


 若い男性にも同じようにして傷を治す。


「な、何が起こったんだ……。」


「今、説明してる暇はないの。ねえ貴方、王都で捕まったの?」


「えっ、ええ、そうです。急にデイビッド隊長が罪人を連れて来られて。」


「罪人?」


「ええ。」


「それってまさか。」


「多分ケネス様かと…。王子が熱心に探されていたので。」


「なんですって。」


「あの……そのお声はシャーロット様ですか?」


 恐る恐る口にしたようで用心深く伺っている。バレてしまっては仕方がない。


「そう。」


 と言いレースを取る。


「良かった。無事だったのですね。」


「え、ええ。」


 少し気まずい気持ちでフィンを見るといつものニッコリで私を見ていた。


「知ってた。」


「う、うそぉ。また泳がしてたの?」


「自分な、意外と面割れてるからな。気いつけぇやぁ。」


「う、うわ。」


「シャーロット様、あの処刑について最後の最後まで分からなかった事があります。あの婚約者の毒入りワインの近くに落ちていた毒瓶の口を拭ったとされているシャーロット様のハンカチそれこそが決定的な証拠でした。今やっと分かりました犯人がデイビッド隊長だったという事。理由は分かりませんが。」


「デイビッドさん。」


「シャーロット様、今はとにかくお逃げください。デイビッド隊長は次はシャーロット様を捕まえるおつもりです。」


「私は、王都へ行く。ケネスを助けないと。」


「そ、そんなの無茶です。やめてください。」


「それでもケネスを助けないと。」


「なら一緒に行きます。」


「何故そこまでしてくれるの?」


「その…学園会で一緒だったオーウェンです。記憶がないから信じ難いとは思いますが。旅行にも一緒に行きました。」


「旅行?研修旅行の事?」


「ええ、海にも入りましたしハイキングにも一緒に行きました。貴方の執事も一緒に。」


「そう、行ったのね。研修旅行に行けてたんだ。」


「とにかくここを出ましょう。」


「ええ、ケネスに謝らないと。」


「あーお二人さん。何か勘違いしてるみたいやけど。自分らの命は俺の手の中って事忘れん方がええで。」


 ニッコリで言う。フィンの銃口はしっかりと私に向いていた。


「終わった。」


「シャーロット様!」


「動くなよ二人共な。」

 

 私とオーウェンは手を上げて降伏した。

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