23、人探し
目が覚め時計を見ると5時だったのでお風呂に入ろうと準備をする。しっかりと部屋を施錠して浴場へ。脱衣場は鏡台もあり綺麗に掃除が行き届いている。一番乗りのようで風呂場にも誰もいない。お湯を桶に取り固形の石鹸で一気に全身を洗い湯船につかる。
「あああああ。とけそう。」
ゆっくりとお風呂を楽しんで着替えて部屋に戻る。今日も荷物の内容は一緒でお金も下着の中へ入れる。今日の服はがらっと変えて清楚にワンピース、襟が付いていて胸の下にベルトもついているしちょっとは素敵に見えるだろう。うっすら化粧をして髪をハーフアップにセットした。
朝食の時間になったのでバッグをもち首から書類を下げて部屋の鍵をしっかりとかけて食堂へ。
「アンタいつもそうしていたら良いのに。」
アリカさんが朝食を机に準備してくれた時に威勢よく言う。これって褒めてるのか?
「ありがとうございます。」
「素敵だよ。」
「良かったです。」
「首から書類を下げてなきゃね。」
「ああ、ははは。」
朝食をいただいて街に入る。
「今日も書類を下げてるな。」
「はい、あります。」
「よし、じゃあ失くさずに戻ってこいよ。」
「はい、行ってきます。」
ガタンと後ろで門が閉められる。ああ、気が重いが話を聞いてまわろう。
とりあえず一旦昨日の酒場へ、良かった同じ男性がいる。
「いらっしゃいませ。ああ、昨日の。」
即バレるとは思わなかったがまあいいか。
「はい、お酒ではなくオレンジジュースをいただけますか?」
「ええ、お待ちください。」
ジュースを出された時にケネスの写真を見せた。
「この人見た事あります?」
「ああーいいえ。」
嘘はついていないな。じゃあデイビッドさんの写真を見せる。
「こっちの人はどうですか?」
「ああ、この人は……いいえ。」
嘘だな、デイビッドさんは見た事があるのか……。まあ村から近いし…いやでも。うーん。
「ありがとうございます。」
オレンジジュースを受け取り飲んでいると男性は震える手でチョコを二つ食べ深呼吸をしている。これは出た方がいいな。
「ありがとうございます。お金を置いておきます。」
「まだいいじゃありませんか。もう少し居てください。」
昨日はこんな事を言わなかったのに。私は笑顔で彼のお願いに返事をする。
「いえ、もう出ます。さようなら。」
彼から一瞬怒りが見えたがすぐに抑えて笑顔に戻った。
「そうですか、ありがとうございました。」
よし逃げよう。扉から出る時に彼が裏にいる誰かに慌てて話をしに行くのが見えた。怪しまれないように歩き土産物屋さんにさっきと同じように写真を見せる。どっちも知らないという言葉に嘘はない。ではその横のチョコレート屋さんにそこの店の人も知らないらしいが、そこでこの街で一番人がいるのはチョコレートの工場だからそこの守衛に見てもらえば良いんじゃないかと言われたので素直にノコノコやってきた。
工場の前には守衛さんが二人いて一人は50代位の男性恰幅がよく大柄で声が深い。もう一人は20代位の男性で帽子を被っている黒髪アジア系痩せ型で脚が長くニコーっとしていて目が垂れている。
「お姉さんどうしたの?」
若い男性の方が話しかけてきた。
「すみません、人を探していまして。」
さっきのを考慮してケネスの写真だけを見せる。
「知らないな。ゲイルは?」
「いや、俺も知らん。」
おじさんの方は髭を触りながら首を横にふる。
「そうですか、ありがとうございました。失礼します。」
「いいえーじゃあねー。」
ここも駄目か。仕方なく歩いていると一層暗い路地に入っていた。街の地図は持っているので自分がどこにいるかも分かるしと呑気に歩いていたら男の怒号が近くから聞こえてきた。
「お前!甘くしてりゃつけあがりやがって。」
「やめて…ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい。」
ドスッという音と女性の泣く声。でもこの声はネア?パッと声の方へ向くと男と目があった。
「おい!見せもんじゃねーぞ!消えろ!」
うるさい男がネアを蹴り上げて壁に押し付けた。ネアは息も絶え絶えに言う。
「貴方…は昨…日の。」
「えっとネアよね?」
「こいつと知り合いか?こいつ逃げようとしやがったんだ。お前が唆したのか!ああ!」
「違う!でも飴をもらって頭の中がスッキリして人生立て直そうって思ったんだ。」
「飴…。」
「ええ、だからもうこの仕事辞めようって。」
「そんなすぐに辞められる訳がないだろ!」
ネアの髪を乱暴に掴み壁に突き飛ばす。こいつ。
「ねーむれーねむれー明日のあさまーで。ねむれーねーむれーくそ馬鹿野郎。」
よっしゃこのバカ眠ったぞ。
「ネア、貴方はこの街を出たいの?」
「ええ、街を出て人生をやり直したいけど誰も頼れる人がいない。それに街の外に出るには許しを得てとんでもない金額を払わないといけない。今まで一人も許された人を見たことがないしそんなお金もない……。」
泣きながら話すネア。
「そう。」
やめなさい、貴方が彼女の為にそこまでする必要がある?
「ママ?」
壁の裏から教会の子供達と同じ位の年齢の女の子が現れた。服もボロボロで靴も穴があいている。
「ああ、エマ危ないからお家から出ちゃ駄目だって言ったじゃないの。怪我はない?」
「うん、でもママ血が出てるよ。」
ネアは口の端を手で拭う。
「ママは大丈夫。貴方がいればへっちゃらよ。」
娘をギュッと抱きしめる手が震えている。ぐーぬぬ。
「ネア、これを。」
私は旅人の書類をネアの首にかける。バックの中から財布を出してお金を全て渡す。
「これは。」
「門番に私がシャロン、これを返して街を出る。と言って書類とお金を渡して見逃してもらって。こっちのお金は神父さんに。」
「こ、こんな大金…それに神父さんって?」
下着からお金を半分出してネアに宿の鍵と一緒に渡す。彼女に暗示をかけるように耳元で呟く。
「街を出てすぐの宿の205号室に入り娘さんと一緒に着替えて荷物を全て持って誰にも見られないように鍵を返しチェックアウトする。そのまま太陽が昇る方向に歩き続ける。寝ずに歩き続けるとヘルトの村に着くそこの教会に優しい神父さんがいるからその人にシャロンの友人です助けてくださいと言いなさい。覚えた?」
今は昼前だし宿の麻袋には着替えと少量のビスケットやクッキーが入っているのでなんとか明日の昼前までには村へ辿り着くだろう。
「覚えたけど、貴方はどうするの?」
ネアは私がしていたように下着にお金を隠している。
「それは考えるから!早く行って!他の馬鹿が来る前に。」
「分かった、ありがとう。」
あああーバカバカバカバカ。私のバカ。ネアが娘を抱きかかえ門の方向に走っていく。もう後悔しても遅い。どうにかしないと。
「うわぁーめっちゃ凄い場面見てもうた。」
背後から声がして飛び上がるほどびっくりして振り返ると男が立っていた。その男が目に入った瞬間、私は全身鳥肌になって震えた。
黒髪で無造作なパーマ、第三ボタンまで開けている高級そうなシルクのワイシャツを細身のスラックスにインしているが内臓がないのかと思う程、脚が長く足元は黒のシンプルな革靴。胸元には細い銀色のチェーンネックレス、右手の親指と中指、左手の人差し指と小指にシンプルな金や銀の細い指輪、右耳に2つ、左耳に3つのピアス、黒いサングラスをしているが顔も整っていて格好いい部類に入るお洒落でいい男なのに怖くて仕方ない。
「姉ちゃんアンタ街の人間逃したな。」
「ああ、ううん。ワタシ言葉ワカリマセン。ソーリー。」
走って逃げようとしたけすぐに手首を掴まれた。
「姉ちゃんなめてんの?」
笑っているけど笑っていない。
「いいえ、ごめんなさい。逃げられるかなって。」
「あはははー姉ちゃんどうやって落とし前つけるん?こいつのバックは怖いでー。」
「ううん。」
よしこの男も眠らせよう。
「ねーむれーねむれーん。」
こいつ私の歌を遮る為にキスしやがった。この野郎。
「俺さ、後ろで見ててん。もしかして言葉が魔法のトリックかなって。ビンゴやな。ドタマぶち抜かれたくなかったら口を開かんことやな。」
と頭に銃を突き付けられた。
「銃?」
男はびっくりして目を見開いた後、
「おい、なんでこの小型の最新式が銃って分かんねん。銃といえば大きいのしか出回ってないやろ。お前なにもんや?」
「………。」
「ふっあははは。ええやないか。行こか姉ちゃん。」
目隠しをされた瞬間、ドスッとお腹を殴られて気を失った。気を失う前にああいう顔をニヒルな顔って言うんだなぁって思った。
ヘルトの村 教会
「ごめんください!神父さん!居ませんか!」
朝8時、朝食の準備をしていたところに声が聞こえてきて扉を開ける。そこには綺麗な服を着ているが顔や足が痣だらけの女性とブカブカのシャツを着た少し汚れている女の子が立っていた。ただならない雰囲気に声をかける。
「どうしましたか?」
「助けてください!お願いします!シャロンに言われて!これを!」
「シャロンさん?それにこの大金は?」
「お願いします!受け取ってください!助けてください!お願いします!お願いします…お願いします…お願いします。」
彼女…受け取るまで何も話してくれなさそうだ。混乱しているのかあまり私を見てくれない。
「分かりました!とにかく入りなさい!お風呂に入って傷の手当をして食事をしながら話を聞きます。」
「ありがとうございます!」
私に大金を全て渡し女の子の手をひいて女性が入ってきた。シャロンさん大丈夫でしょうか?とにかくこの二人のお世話をしなくては。