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2、シャーロットの世界


ごめんね、転移した初日にまた怖い思いをさせたね。お詫びに1つ力をあげる。これから役立ててね。


何?何の事?


いずれ分かるから。大丈夫。




「…じょう様。お嬢様。目を開けてください。お願いします。」


揺さぶられて私は小さく瞬きをして重い瞼を開ける。私はどうなったんだろう。


「ここはどこ?」


目の前に馬車に居た執事さんが居た。心配そうに顔を覗き込みあたふたとしている。


「よかった、そろそろ目覚める時間だと言われていたので。ここは馬車の中です。王都を出る事は成功しました。何があったか覚えておられますか?」


「何が…私は…。車に…。」


駄目だ混乱しているしその上、頭ガンガン酷く痛む。夢を見た気がするけど何かくれるみたいな。違う車に轢かれたのはこの体になってからじゃない。あぁ頭がぐちゃぐちゃだ。


「車?馬車の事ですか?もしかして何も覚えておられないのですか?私の名前は?ご自身の事も?」


「名前…。」


そういやこの子の名前なんだっけ?忘れちゃった…。それにこの執事さんの名前も分からない。


「お嬢様…記憶が…。」


記憶というか最初から分からないけど。死ななかったのか。やっと頭が動いていきたようだ。深く深呼吸して…できないなんかコルセット?が肺を圧迫してる…。苦しい。


「分かりません。」


「あぁこの作戦はやはり失敗だったのか。でもシャーロット様をお救いするにはもうこうするしかなかった。」


「すみません、何も分からなくて。」


もういっそ何も分からないフリをしようかな。目の前の彼には悪いけど彼女のフリをするには情報がなさ過ぎる。ヘタにボロが出るよりいいかもしれない。


「お嬢様…。申し訳ございません、私の責任です。あんな作戦…あの男の言うままに…すがる思いで…受け入れてしまった。」


その時、ガタンと音がして馬車が止まると扉が開いてあの時の甲冑の男性が入ってきた。


「失礼致します。私はこちらで別れ王都に戻ります。」


「待ってください!お嬢様が記憶を失っているんです。あの薬に何かそういう作用が?」


「記憶が…そうですか…。あれは仮死状態にさせる強力な薬です。何かしらの副作用が出てしまうのも不思議では無い。シャーロット様には一度死んでいただく必要がありました。脈を一時的に止めるにはあの薬を使用するしかありませんでした。」


「そ、そんな!じゃあ記憶は戻らないかもしれないのですか!」


「分かりません。戻るかもしれませんし戻らないかもしれません。ですが…。」


一瞬、黙り私を真っ直ぐに見て話し続ける。


「己を形成する物は経験です。過去の記憶が消えてもシャーロット様なら大丈夫です。ここから逃げ果せ、生きてまた新しく経験積んでいけば、また自ずとシャーロット様を形成し貴方という人になります。きっとこの苦難も乗り越えられます。」


甲冑で顔は見えないが声からして若いのにとてもしっかりしていて考え方が私好みだ。確かに失ってもまた作ればいい。


「ありがとうございます。」


私はお辞儀をして礼を言う。あの状況から救い出してくれて勇気の出る言葉もくれた彼には頭が上がらない。


「…分かりました。私はどんな状況に陥ってもお嬢様に仕えます。だから逃げましょう。生きて彼の言う通りまたお嬢様が形成されるのを待ちましょう。」


「よろしくお願いします。」


あたふたするのをやめた執事の彼にも深くお辞儀をする。甲冑の彼に別れを告げて私は話を聞くために馬車の中ではなく馬を走らせる執事さんの隣に座る。


「申し訳ありませんがお名前を教えていただいてもよろしいですか?」


「はい、私の名前はルークです。10歳の頃、路地裏で行き倒れていた私をお嬢様が救ってください、それからお仕えしています。25歳です。前執事長から仕事を叩き込まれたので掃除や炊事等、大抵の事はできます。」


「ありがとうございます。ではルークさん私の事を教えていただけますか?どうしてこのような状況に陥ったのかもお願い致します。」


「はい。お嬢様のお名前はシャーロット様です。第二王妃の娘として生まれた23歳のお姫様ですが…第二王妃のサマンサ様はお嬢様が5歳の時に亡くなられそれからあのお屋敷に執事やメイド数名と共に住んでいました。王宮には上がることが許されず城の中に入った事は2度しかありません。」


悲しいお話が続くからか私の様子を見ながら話すルーク。多分優しい男の子なのだろう。


「ふむ。続けてください。」


「今回、第一王妃の息子のアーサー様から書類が届き婚約者のリーサ様を毒殺しようとした罪で処刑になると知らされました。内容は摩訶不思議で馬鹿みたいな言葉が羅列されているものだったので私とメイド達は散々文句を言い抗議するべきだと訴えましたがシャーロット様は全てを諦めて受け入れると決めてしまいました。なので今日の作戦もお嬢様には知らせていませんでした。」


「お父様は?一応血は繋がってます?」


「ええ、王様です。あの方は国を強く大きくする事にしか興味がありません。この国は小さい国でしたが絹の貿易によって他の国と対等に渡り合うようになりました。国内各地に養蚕業をする機関がありそこから派生して絹織物を加工する工場も各地にあります。ですが私達が目指している土地にはそういったものがありませんのでそちらを選びました。王都からは5日はかかります。お嬢様は丸3日眠っていらしたので今日は4日目です。もう少ししたら旅人達が泊まる宿屋があるので今日はそこに泊まります。」


なんというか…凄い話だ。私の世界とはかけ離れていて正直、まだ受け入れられずとても客観的にこの話を聞いていた。冷静に考えると結局は私はそのアホの王子に疎まれて殺され王様は子供達のすることには我関せずという事か。


「そうですか。私はそんな身の上なのですか。」


「はい、私達がこれから住む村はヘルトの村です。そこにある古いお屋敷を買い取り修理をして不便なく住めるようにはしてあります。勝手ながらお嬢様の財産と呼べる全ての物を売り払い資金にしましたのでこれから一生お金には困る事はないと思います。そこからメイドとコックにも充分な給与を払いました。」


よし前を向いて考えよう。これから村でどのように振る舞い過ごすのか。


「分かりました。何から何までありがとうございました。では私達はこれから兄妹のフリをします。私はルークさんをお兄ちゃんと呼びます。シャーロットという名前はもう捨てましょう。処刑によってあの時に死んだのですから。」


「ちょっちょっと待ってください。私がシャーロット様の兄?無理があるのでは?それにそんな簡単に捨ててしまえるのですか。」


「よく考えてください。都会から来た流れ者です。失礼ながら田舎の方へ行くのであればどうしても目立ちます。お嬢様と執事より仲睦まじい兄妹の方がずっと心象も良いでしょうし、怪しさも薄まると思います。だからルークさんも敬語はやめてください。私の命を守りたいと思ってくださるなら本気で兄として振舞ってください。私は生きる為に何でもすると覚悟を決めました。」


強くルークさんに語りかける。生まれ変わってこんな状況になってしまったけど私も生きたい。


「…分かりました。」


「勿論、私も貴方の妹として振る舞います。もう今から私達は兄妹です。」


執事さんがふうと大きく深呼吸をして頷いた。覚悟を決めてくれたのだろう。この状況で1番合理的に考えたつもりだが上手くいくだろうか。まさかお姫様でこんな泥沼の権力争いと遺産争いに巻き込まれているとは。彼女も大変だったんだなぁ。まあ王都の人達はシャーロットは亡くなったと思っているのなら大丈夫だろう。


「じゃあお兄ちゃん私の名前は何にする?」


「…いきなりだな。俺は貴方のシャーロットという名前が好きだった。それ以外考えられないよ。」


「そうだね。私もまさか名前を失うなんてね。じゃあ少しもじってシャロンにするわ。これから間違わないでね。」


「ああ、分かったよ。シャロン。」


「お兄ちゃん私、少し疲れてしまったから馬車の中に入って休んでもいい?」


「勿論だよ。宿屋に着いたら声をかけるから。」


そして馬を止めてくれたので降りて馬車の中に戻る。一瞬、彼の頬に涙が流れるのが見えたけど何も言えず見ないふりをして私は馬車の中に入った。


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