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16、ケネスとの遭遇


「行くな!頼む!」


ケネスの声だな、多分夢と一緒。少し変わった低く良い声だった。


「おい!」


ケネスを見た途端に逃げなくちゃいけない気がして今も必死に走っているけどこのままでは追いつかれるのも時間の問題だ!


「待て。」


やはりすぐに捕まった…後ろから抱きしめられて動けない。ハアハアと息切れして二人とも喋る事ができない。


「ハア…シャーロット?」


ケネスが息を整えて言う。私は答える事ができない。もう彼の愛したシャーロットではないし、彼にかける言葉も見つからない。


「お願いだから顔を見せてほしい。」


声が震え体も小刻みに震えている。こんなに悲痛に訴えているのに顔を見せない私は冷酷な女だ。それにひきかえケネスは顔をひん捕まえてこっち向けってしない所をみると優しい人なんだろうなぁ。


「おい!貴様!彼女を離せ!さもなくば…。お前は…。」


「ケネス?様?」


デイビッドさんとお兄ちゃんの声だ。追いかけてきてくれたのか。ケネスが私を離して振り返った。


「デイビッド、それにお前、ルーク!だったらやはり彼女は!」


ケネスが勢いよく振り返り私を見た。今度こそ真っ直ぐに目が合った。グレーアッシュの前髪の間から少し濡れたグレーの瞳が覗いている。そしてそのまま地面に膝を着き私の方を見ながら泣き始めてしまった。美しく涙を流している。こんな状況じゃなければ見惚れてしまうと思う。


「どうして…僕は…僕がどんな思いで。」


人目もはばからずに涙を流す彼に憐憫を覚えて彼の隣で膝を着き優しく抱きしめた。


「ごめんなさい。ごめんね。」


そのまま少しの間、彼は私の腕の中で泣き続けていた。



「ここに私とルークの二人で住んでいるの。」


「ああ。」


ケネスは何も言わずにただ後ろをついてきた。変装用?なのか少し汚れているローブを脱いで手に持ち中にはさっぱりとした白いワイシャツにセンターラインがきちっとある細身の黒のスラックスを履いていた。荷物は大きめの袋だけで旅人風だけど服装は明らかに旅人では無い事を物語っている。偏見100%だけど教授とか教育系の人に見える。

何度か話しかけてはみたがあまり何も考えられない様子で返事は適当に相槌を打つだけだった。とにかく家に戻ってきたので食堂に通す。

デイビッドさんは聞きたい事は色々あるが今日は帰ると言い家に送ってくれた後教会に戻ってしまった。


「ケネス様、お茶をどうぞ。」


「ありがとう。」


私から視線を外さずお兄ちゃんから紅茶を受け取る。


「えっとここではシャロン、兄のルークだから。」


「ああ。」


私とずっと目は合っているがなんというか…全てを見透かそうとしているような、どんな情報も漏らさずに得ようとしているような視線にいたたまれない。あの適当な返事もずっと考え事をしていたのかと仮定するとなんだか恐ろしくなってきた。


「えっと。」


三人共じっと沈黙する。気まずい。しかもケネスは私を無言で凝視しているので尚更気まずい。


「シャーロット、少し質問をしていいかな?」


良かったやっと話す気になってくれた。考えがまとまったのかしら?


「ええ。」


「あの処刑の日、何があったんだ?」


「ケネス様それは私から、あの日処刑は行われましたが、とある人物の協力のもとお嬢様を助け出しました。」


「ルークそのとある人物とはデイビッドか?」


「いいえ違います。デイビッドさんは既に王都を離れていたので。」


「あの甲冑の…やはり。分かった。じゃあ次だ。どうして僕には教えてくれなかったんだ?」


「処刑が決まった時からお嬢様と何度も話し合い幼馴染の二人には何も伝えずに実行すると決めました。デイビッドさんとここで会ったのは偶然です。」


それは私も初耳ですね。だからシャーロットは全てを捨てる決心をしたのかな。


「じゃあ彼女が答えられないのは何故?君は主人よりでしゃばって話すようなタイプではなかったと記憶している。」


「それは…ケネス様不愉快な気持ちにさせてしまって申し訳ございません。」


「僕はそんな事は言っていないよ。」


圧!綺麗な顔からの圧!怖!


「……お嬢様は処刑の際に用いた薬により一時的に仮死状態に陥りました。そして時間通り目を覚ましたお嬢様は記憶を失ってしまわれました。ご自身の名前すら覚えておられませんでした。」


「記憶を…。そうだったのか…。」


そしてまたじっと私を見ている。


「ケネス様今日は泊まられては如何ですか?話したい事も聞きたい事もありますでしょうし。」


「二人が良いならぜひ。」


「私は勿論。」


「でしたらゲストルームの用意をして参ります。お嬢様、それまで屋敷を案内されてはどうですか?」


「え、ええ分かったわ。じゃあケネス様行きましょうか?」


「ルークありがとう。シャーロット、僕はケネスで構わない。それと落ち着くまでシャーロット、ルークと呼ぶ事を許してほしい。」


「ああ、はい。」


それから庭に案内した。この家に案内する所なんてと思ったけど、果樹園と野菜畑は私のお気に入りだし見てもらおう。


「あの畑は最近自分で手入れしてるの。無駄な葉や根を切ったり肥料を与えたり毎日水もあげて私もお世話をしているわ。収穫もしてる。」


「そう、身体は大丈夫?」


「ええ、ここの庭の手入れもそうだけど教会で子供達の相手をしていると鍛えられるわ。後、ここの空気が私に合っているのだと思う。」


「それなら良かった。君はいつも季節の変わり目には必ず熱を出して1週間程寝込むんだ。そんな時いつも君は悲しそうに笑ってこんな体嫌いだわって。」


「そう…なの。あまり長くは走る事はできないし。体が弱い事は気付いていたけど、大変だったのね。でもここに来てから熱は出していないわ。」


「良かった、元気そうで。さっき少し話してくれたけどここでの生活はどう?」


「そうね、大袈裟な言い方だけど農作業をして新鮮な野菜で料理をして外で食事をするととても幸せだわ。ルークはどう思っているか分からないけど私はとても幸せ。教会に行って仕事を手伝うと小さな事でもみんなが感謝してくれる、みんなとてもいい人達なの。本当に戦争じゃなければもっと幸せなのに。」


「…シャーロット本当に記憶がない?さっきから何かと比べてここがいい所だと言っているし、極めつけは僕の顔を見て逃げた事、君は周りに嘘をついているのか?」


ぎくっ。シャーロットの記憶が無いのは確かだけど今まで生きてきた記憶はあるのよ。それに夢で見た記憶もある、あれが全て私の脳が作ったことだとは思えないしなぁ。

私があまりに悩んでいるからかケネスがまた圧をかけてくる。


「内容によってはルークに話すよ記憶がないふりをしているって。」


「ふむ、でも昔の話されても本当に分からないから傷付くのはルークで、貴方だと思う。その点では希望はもたせない方がいい。」


「という事は本当に記憶が無いと言いたいわけだね。じゃあ何故僕を知っていたの?」


「それは…その…なんて言えばいいのか。貴方に信じてもらえるか、私も未だに信じられないのに。」


「どういう事?」


「夢を見たの。いつも貴方の顔は出てこないけど、学生時代の記憶や貴方が旅に出る前の記憶だと思う。誰かに言って照らし合わせた事はないから本当にあった事かは分からないけど。」


「じゃあ教えてもらえるかな?」


「ええ。」


ケネスに夢の全てを話すとやはり本当に起こった事だと分かった。


「顔が出てこないのに僕だと分かったのはどうして?」


「あーー。うーーん。」


ちっ誤魔化されなかったか。


「君が本当の事を言ってくれるまで待つ。」


「うーーん。何となく分かったの。」


「何となく?」


「ええ、何となく貴方を見た時ケネスだと感じた。」


「それで信じるとでも?」


「私だって分からないんだからしょうがないでしょう。」


「君は適当な奴だなぁ。」


「ちょっと。」


軽くファイティングポーズをする。ケネスが初めて柔らかく笑った。


「君がそんな事をするの初めて見た。」


まあ私からしたら初対面ですし。


「はあ、そうですか。さあ戻りましょうルークが部屋の準備を終わらせてくれてるでしょう。」


「ああ、入ろう。君の体に障るとまずい。」


ケネスが手を出してくれるのでおずおずと私も手を出すとそっと手を引かれて支えるようにゆっくりと歩いてくれる。二人で中に戻るとケネスの表情が幾分か柔らかくなっていた。


「ケネス様お部屋の準備が出来ました。今日はお疲れでしょうしもう休まれますか?」


「ああ、すまない。ありがとう先に休むよ。」


「ええ、ゆっくり休んで。」


ケネスは柔らかく微笑むとゲストルームに入っていった。


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