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15、礼拝


「…という事なんです。それからこの力を使うのはこれで二度目でこの事を知っているのは兄だけです。」


「そうか、昔ケネスが…ああ、君がどこまで聞いているのか分からないがケネスというのは君の幼馴染みだ。」


「はい、兄から少しだけ。」


「そうか、それでそのケネスが学園に入ったばかりの頃大怪我をしたんだ。出血が酷くて一時は意識がない状態だった。その時、君はケネスから離れず一緒に病院まで行ったんだ。あの時ケネスは死にかけていたそんな状態で君が力を使わない事はないと思う。だからあの時はそんな力なかったのではないだろうか。」


「ええ、なんとなくですが一度死にかけた事が原因ではないかと。」


「ああ…その君の処刑の事か。」


俯きながら言う。確かに気まずい。


「はい。」


「その、私はシャーロット様の護衛として…。」


いつもより固い表情で話し始めるので話を遮る。


「やめてください。私はもうその名は捨てました。」


また俯いてしまった。白髪も相まって少し疲れて見える。


「……はい。」


弱々しい返事。


「とにかくデイビッドさん、この事は誰にも他言しないでください。この事が誰かに知られたら俺達はまた誰にも告げぬまま引っ越す事になります。」


お兄ちゃんが冷静に釘をさしている。幼馴染みだし言いふらしはしないだろうけど…何故だろう誠実な人だと思う反面手放しに信じるという事ができない。まあ信じるしかないけど。


「分かった。約束は守ろう。」


「では今日はこれで。」


「ああ、騎士隊もまた訓練に戻る。」


「では失礼します。」


「ええ、さようなら。」


「ああ、2人共気を付けてな。」


それからお兄ちゃんが騎士隊宿舎を出た時に少し気になる言い方をした。


「シャロン、デイビッドさんは信用できると思う。でも俺はまだ半信半疑なんだ。彼はあの時、シャーロット様を置いてすぐに屋敷を出て行った。王の辞令だから仕方がないが俺は信用出来ない。でもこれは俺の気持ちだからシャロンが同じ様に考える必要はないよ。」


「分かった。」


同じ気持ちだったのだと少し安心する。嘘をついているとは思わないんだけど何処か嘘っぽいのだ。だから口説かれてもそこまでドキドキしないというか…。

それから数日経っても噂になる事はなかったが魔女の話は瞬く間に広がった。一応、私は村に戻っていたと隊員の人達には信じてもらえたので私が魔女だという話にはならずに済んだ。

それでも戦争中には変わりないのでいつもの日常に戻る事はできなかったが数日経っても村に敵が乗り込んでくる様子はなかった。それから一日中家で過ごし最低限だけ外に出る。私とお兄ちゃんは家の庭で野菜が収穫できたので外に出ることはほぼなかった。

そんな日が続き1ヶ月ほどしてヘルトの村が日常を取り戻しつつあった頃、近くでは無いが遠くでもない土地が数箇所、制圧されたという話が入ってきて周辺から逃げてきた人達が少しずつ増え見知らぬ人が多くなった。私も教会の学校が始まりお兄ちゃんもお店が再開してまた働き始めた。


「宿は毎日満室で大変だよ。」

「うちも家を貸してるがじいさんが昔建てた小さな山小屋まで埋まってる。」

「可哀想に着の身着のまま逃げてきたらしい。」

「うちの村は魔女のおかげで無事で済んだからなぁ。」

「魔女って?」

「おお、他の村から来た人は知らないかうちには魔女が居て敵を退却させたんだよ。」

「本当ですか?」

「ああ。」



兵士達が言っていた話は本当だったのか。戦火から逃げてきた人間を装い村に入ったがあまりにも危機感がないのは守ってもらえるだろうというおごりからか。

ジェイムス王の言った通り僕が故意にこの村を選んだのはデイビッドがいるからだ。あいつを苦しめてやりたかった。シャーロットを見捨てたあいつを。あいつが護る村を、人々を蹂躙して大切な物全てをぶち壊してやりたかった。

メイドから聞いた話だとあいつシャーロットの傍に居たのに処刑が決まった後、王の言うままに何もせずにここへ来たらしい。王の事だシャーロットが邪魔になってそのシャーロットを護るデイビッドも邪魔になったんだろう。だからシャーロットは処刑、デイビッドは左遷。だがどうしてそんな素直にシャーロットの処刑を受け入れられるんだ。あいつだってシャーロットを愛していたじゃないか。それなのに何故?


「そういえば教会の学校は一昨日から再開らしいぞ。」

「そうか、街の市場や店も殆どあいてるし。」

「まあこの村は自給自足に近いからな。売り物も村で取れる物ばかりだし。」

「そうだな。」


呑気なものだな。いつまた兵が乗り込んでくるか分からないのに。


「お兄ちゃん、怖い顔をしてるね。大丈夫?」


ピンクのヒラヒラしたワンピースを着た黒い髪の小学校上がる前くらいの少女が心配そうに僕の顔を覗き込む。


「お兄ちゃん、大丈夫?」


「ああ、なんともないよ。ありがとう。」


こんな小さな子供に心配されるとは笑顔を作って礼を言うと少し安心したように言う。後ろにいる母親らしき女性と目が会い会釈する。


「お腹空いてるなら教会でお姉ちゃんがご飯を作ってくれるよ!一緒に行こうよ!」


「いや、大丈夫だよ。お兄ちゃんはお腹は空いてないから。でも誘ってくれてありがとう。優しいね。」


「だって神父さんとお姉ちゃんが友達には優しくねって。」


「そっか、偉いね。」


「ねえ、お兄ちゃんも教会においでよ!お姉ちゃんがお腹いっぱい食べなさいっておやつをたくさんくれるよ!」


「いやいや、お兄ちゃんは。」


「行こ!」


すごい力、さすがに子供には負けないが。だけど強く引っ張っているのに立ち止まったままだとこの子の肩が抜けてしまうな。少し考えてそのまま抱き上げてしまう。


「誘ってくれてありがとう。でもお兄ちゃんやらなくちゃいけない事があってどうしても行けないんだ。ごめんね。」


後ろから来た母親にそのまま子供を抱かせる。


「サーシャ!わがまま言わないの。本当にすみません言い出したら聞かなくて…。」


「…ぶー…はーい、分かった。じゃあまたねお兄ちゃん!」


「バイバイ。」


「本当にすみません。失礼します。」


やっと開放された。さあ情報を集めよう。こんなに噂になっているのなら魔女の話もすぐにわかるだろう。



「お姉ちゃん!お兄ちゃん来ないって!」


「お?お兄ちゃん?」


サーシャちゃんに出会い頭に言われびっくりしているとサーシャちゃんは友達に呼ばれて庭に走って行ってしまった。呆然と立っているとサーシャちゃんのお母さんが現れて困り顔で話す。


「教会に来る途中、避難して来られたシャロンさんと同じ位の年齢の若い男性にお会いしたんです。サーシャが無理に教会に誘ってしまったんです。」


それだけ説明するとお母さんはサッと帰ってしまう。

神父さんがこの話を聞いていたようでにこやかに話す。


「そのような方こそ教会へ来ていただきたいですね。信仰を見失わないでほしいです。」


ここの国の神様は太古の昔に人々の為に自分を犠牲にして雨をふらせた女神様のオンリーワンなのでどこの教会に行っても同じ神様に話を聞いていただける。神父さんの言う通りここへ避難してきても教会に通ってもらう事は良い事かもしれない。避難してきたという不安な状況の心の支えになるかもしれない。


「今日は金曜日だから……神父さんそれなら避難された方向けに日曜日に何か催し物をしますか?日曜礼拝の後に。」


「ふむ、それはとても良いですね。私はお粥を作って配ります。温かい物を食べてもらいたい。」


そんな優しい神父さんは戦争になってから痩せてきている。飲食を後回しにして誰も傷つかないようにと頻繁に神様に平和を祈っているからだ。


「じゃあ私は兄にも協力してもらってお菓子を作ります。」


「ありがとうございます。教会から小麦粉とバター、砂糖をお渡しします。」


「いえ大丈夫ですよ。」


「持って帰ってください!」


「じゃあ、ありがとうございます。」


強めに袋を渡されたのでありがたく受け取る。物価は高くないので生活に困る事は無かったが、今の状況的に店は閉まっている事も多かったので食料品が減ってきているのは事実だった。



「礼拝が終わりましたので今から炊き出しを始めます!食器を持ってきている方はそのまま列に並んでください。食器を持ってきていない方は机に置いてあるのを使用して食事が終わったら洗ってまた机に戻してください。」


日曜礼拝の後、神父さんの掛け声で炊き出しが始まった。長い机に食器や大鍋を置きその並びに大量のクッキーを並べる。お兄ちゃんと二人で昨日朝から晩までずっと焼いたのでなんとか人数分足りそうだ。


「さあどうぞ。こちらです。」

「いただきます!」

「美味しかったぞ、礼を言う。」

「ありがとうございました。」

「クッキーもう一枚頂戴。」

「どうぞ。ブラウニーもあります。」


そうして昼前から始まった炊き出しは祭りか何かと勘違いしている村人がたくさん来たがチラホラと見知らぬ顔が増えて炊き出しでお粥を食べた後に礼拝堂へ向かう人も居た。神父さんが礼拝堂へ行きお話をして表情が少し和らいでいたのでその時、この炊き出しは成功だったのだと思った。

殆どの人が帰り、外で騎士隊の人が道案内をしてくれている。朝から警備という名の案内や力仕事、片付け等なんでも手伝ってくれている。


「遅かったな。すまない。」


「あらデイビッドさん謝らないでください。朝から皆さんが手伝ってくれて助かりました。」


「そうです、教会を代表して私からも礼を言います。ありがとうございます。」


「それなら良かった。俺も片付けを手伝おう。」


「よろしくお願いします。」


デイビッドさんとお兄ちゃんが長い机を片付け私は食器を片付け始めた。食器を持てるだけ持って教会の食堂に入り食器棚に戻す。その動作を何度か繰り返してまた庭の方に戻ってきた時だった。庭では神父さんがあまり見た事のない人と談笑していてデイビッドさんとお兄ちゃんは机を運んでいる。

風がビューッと吹いて髪が巻きあがったのを手でなおす。ふと教会の門の所に若い男性が立っている事に気が付いた。緩くウェーブした透けるようなグレーアッシュの髪に白い肌、そしてグレーの瞳と目が合った時、心臓が一度だけドクンと高鳴った。その瞬間、彼がケネスだと思った。何故か顔も思い出せないのにそう感じ彼も私に気が付いた様子だったので途端に私は逃げ出した。


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