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14、負け


ヘルトの村から軍隊が戻ってきた。皆怯えた様子だが傷1つなければ返り血も浴びていない、そもそも戦闘した様子もない。王が微かに怒りをにじませながら話す。


「貴様ら我が誓約を破り戦う事もせず、むざむざ逃げ帰ってきたと言うのか?我は村を制圧せよと伝えたはず。我を謀るというのか?」


「違います!謀るなど!ただ!戦えなかったのです!本当なのです!」

「そうです。人数差もありこちらが勝つ事は目に見えておりました!既に制圧の手筈も整っておりました!」

「ええ!誰1人怯えている者はおりませんでした!」


兵士達は口々に王に訴える。王もあまりに必死に言い訳をするので仕方なく城に人を集め1人1人から聴き取りを行う事にした。1日かけて兵士の話を纏めた結果は何処からか声が聞こえてきてその後、体が動かなくなって何もされていないのに武器も使えなくなったと。


「なんだと?集団で幻覚を見たというのか?ケネスどう考える?」


「うーん、幻覚?何か薬をばらまかれたのでしょうか?」


「我が直接話を聞いた軍を率いた信頼する将軍までもが同じ様な事を言っている。3度言葉が聞こえたと。最初はリア、矢が吸収されたと次はマー、体が石のように硬く動かなくなってしまって最後はヤピー、一切武器が使えなくなっただ。」


「リア、マー、ヤピー。聞いた事ありませんね。」


「此度の村はそちが選んだ村、こんな事が起こるとは余程重要な村なのか?」


「いえ、近いからという事と田舎で過疎が進む村なので簡単に制圧できると思い選びました。」


「そうか。」


王が珍しく嘲笑う様に返事をした。どうやら僕の言葉が嘘も混じっていると直感的に見破ったらしい。流石、成り上がりの王とは違う、僕は今以上に言葉を慎重に選ばなくてはと襟を正した。


「ともかく私が行きます。旅人のフリをしてあの村へ。そしてその女の声を探ります。1ヶ月ください。」


「あい、分かった。好きにするが良い。だが宣戦布告した手前長くは待てぬ。この村が無理でも他の場所を制圧して王都に圧力をかけなければ。」


「でしたらこの海沿いの村が良いと思われます。養蚕の工場と絹織物の加工工場の両方存在しています。ですが王都から遠く兵士も少ないです。」


「ほう、何故そちらの話を先にしなかったのか、それはそちが帰ってきた時に聞くことにしよう。」


「………はい、かしこまりました。」


「では気を付けてな。」


「はい。」




「………。」


遠くでボソボソと声がする。うーんと伸びをして周りを見るとデイビッドさんの隊長室だった。

私が起きた事に気が付きデイビッドさんとお兄ちゃんが傍に駆け寄る。


「起きたか、急に眠ったので心配したぞ。」


「すみません。」


「シャロン!あれだけ無茶したら駄目だって言ったのに!隊員さんが呼びに来てくれたんだ。」


「違うよ、デイビッドさんにも言ったけど結局、怖くなって逃げてきたんだって村まで。」


「バリア、タンマ、ヤンピ。」


デイビッドさんが真っ直ぐに私を見て言う。


「う。」


「デイビッドさんなんですかそれ?」


デイビッドさんは真剣に話す。言葉の幼稚さとアンバランス過ぎて笑いそうになる。


「君の妹が言った言葉さ。バリアで矢を吸収する壁が現れてタンマで体の言う事がきかなくなって、ヤンピで傍に居た者全員の武器が封じられた。君の声だった。」


説明を聞く限りこの世界にこの言葉はないみたいだ。


「私には何がなんだか?」


「君の声だった。」


威圧感のある視線に耐えられずデイビッドさんから目を逸らしお兄ちゃん方を見る。助けてくれ!


「ふむ、そういう事か。妹が分からないと言っているのですからそうなのでしょう。一般市民を脅さないでください。」


よかった、何かを理解して助け舟を出してくれた。この嵐を抜けられるか微妙だが。


「俺が彼女の声だと言っているのだが。」


デイビッドさんはグッと歯を食いしばっている。お兄ちゃんの態度にストレスを感じているんだろうな。この威圧感の中、目を逸らさずに飄々とした態度をとれるのはすごい。やはり身長が同じ位だから?それかデイビッドさんが年下だから?…もしや私の為だから?それだったら本当に有難い。心から感謝しかない。


「その彼女が違うと言っているのですから、デイビッドさんの聞き間違えなのでしょうね。」


全てを受け流すように言葉を発するので取り付く島もない。私だったら口喧嘩は大負けしてるな。


「貴様、俺を馬鹿にしているのか?お前よりもずっと幼い頃から彼女と一緒に居るのだぞ、間違える筈がない。」


デイビッドさんはそろそろ手が出るかと思う程にイライラし始めた。でも隊長なのにこんな事でイライラするなんて敵の挑発にすぐにのってしまうのではないか?


「あなたも分からない人ですね。その彼女を信じる事が出来ないなんて。」


デイビッドさんは少しだけハッとして私を見てまたイライラした表情に戻った。


「さっきから貴様の態度が癪に障る。自分だけが彼女の全てを知っているかのようなその態度。」


「男の嫉妬は見苦しいですよ。」


「貴様!」


もう駄目だ。これは埒が明かない。私の負けだ。


「ストップ!降参です。お兄ちゃん、話します。」


「シャロンが決めたならそうしなさい。俺は構わないよ。」


デイビッドさんはやれやれと浅く椅子に座りなおした。私は観念してデイビッドさんの前に座る。そして最初に起こった庭での出来事から話し始めた。

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