10、昼食
10分もしない内に神父さんがすぐに帰ってこられたので挨拶をして帰り支度をし騎士隊の宿舎の入口の所に立って待つ。すると息を切らしながら走ってくるデイビッドさんが見えた。慌てて出てきてくれたのかシャツのボタンをとめながら走っている。
「ふふふっ。そんなに急がなくても。」
「ああ…はあ…すまない…ふぅ…よし。君が下に居るのが見えて階段を駆け下りてきたから息が上がってしまった。」
黒のズボンに白のワイシャツを丁寧に入れている。いつもは黒の騎士服で隠れているので知らなかったが足が長い。少し暑いのか上まで閉めていたシャツのボタンを1つ開け少しパタパタとさせている。靴はシンプルな黒の革靴だ。
「さあ行こうか。市場の方へ行けば食事ができる所がある。」
「はい。」
10分程歩くと活気のある市場やお店が並ぶ地域に着いた。お兄ちゃんがこの辺りで働いている筈だ。結局、港の近くのレストランに入りウェイターのお兄さんに海が綺麗に見えるテラス席に案内された。
「軽く飲もうか?お酒は平気か?」
「少しなら多分。」
「ここは魚が美味しいから君さえ良ければ白ワインで構わないか?」
「はい、じゃあメインは魚にします。」
デイビッドさんがにっこり頷きながら笑いメニューを見ている。私もつられてメニューを見ているけどランチを食べる店にしては高めのお値段だ。私、財布に幾ら入っていたかな……。まあ自分の分位なら大丈夫かな。さっきのウェイターのお兄さんが水をグラスに入れてくれてその後、優雅に水の入ったボトルを置いて注文を聞いてくれる。
「ご注文はお決まりですか?」
「シャロン、君は決まったか?」
「パンがまだ…。」
「すまないがまだ決まってないから後に、」
デイビッドさんの言葉を遮って言う。ウェイターさんに何度も来てもらうのは悪いし。
「いえ、もう決めるので先にデイビッドさんどうぞ。もう決めます。」
「そうか、じゃあ俺は金目鯛のアクアパッツァと生ハムのサラダと白パンを。」
「えっと真鯛のカルパッチョとムール貝のスープと白パンをお願いします。」
「はい、かしこまりました。お飲み物は?」
「ああ、すまない。先に言うべきだったな。軽めの白ワインを。」
「いえいえ、かしこまりました。先に白ワインをお持ちしますね。」
「ああ、頼む。」
「失礼致します。」
「綺麗ですね。」
「ああここは海も山もあって豊かで生活がしやすい。」
「素敵な場所です。」
「ああ。そうだな。」
なんか気まずい…。話が続かない。
「白ワインをお持ちしました。」
「ああ、ありがとう。」
「ありがとうございます。」
白いテーブルクロスの上に乗っている食器も美しいけどワインがグラスに注がれていくのも美しい。海を見ながら食事なんて素敵。ウェイターさんが軽く会釈をしてまた店内に戻る。デイビッドさんがグラスを持ってウィンクするので少しあたふたしながら一口飲んだ。
「美味しい。」
「ああ、このワイン軽いが香りがいい。」
「ええ、とても美味しいです。」
「良かった。」
また私を見てニッコリ微笑む。こんな人だっけ?
「ここは初めてですか?」
「いや、何度か隊員達と。」
「そうですか…残念。」
「残念?」
「ええ、それならここのオススメを聞けば良かった。」
「オススメか。ふふ聞かれたとしても俺はきっと教えなかった。」
「どうしてですか?」
「君が何を選ぶのか、何が食べたいのか興味があった。君は昔、魚が好きだった。」
「昔?」
「ああ…ルーク、君の兄君に聞いた。」
おいおい。
「金目鯛のアクアパッツァとサラダです。こちらは真鯛のカルパッチョとムール貝のスープです。ごゆっくりどうぞ。」
ウェイターさんがまた優雅に全ての料理を置いてまた店内に戻る。素敵だ。そして料理!綺麗!素敵!
真鯛の上にピンクペッパーやスライスされた玉ねぎ、マイクロトマト、後なんだろう見た事ない葉っぱが乗っている。これはチコリー?多分?とにかく美味しそう!ムール貝のスープもムール貝は貝がもう取ってあってクラムチャウダー風のスープだ。デイビッドさんの金目鯛のアクアパッツァは金目鯛の切り身が2切れにトマト、マッシュルーム、ニンニク、アサリと具だくさんで美味しそう。サラダの生ハムも生ハムがたくさんのっていて美味しそう。
「さあ食べようか。」
「ええ、いただきます。」
まずはスープ、美味しい!やっぱりクラムチャウダー!美味しい!ムール貝とあう!カルパッチョも美味しい!お魚が甘い!うわぁぁぁ!
「ふふふ、気に入ってもらえたようで嬉しい。さあアクアパッツァも食べるといい。」
デイビッドさんが金目鯛を1切れよこそうとするので慌てて断る。
「悪いです!」
「いいんだ。食べて欲しいんだ。」
またニッコリ言うので素直に受け取る。取り皿にカルパッチョを入れて渡す。
「ありがとう……うん美味しい。」
そしてまたニッコリ。最初会った時は仏頂面だったのに。なんだか私も可笑しくなって笑いかえす。
そして食事もワインも全て残さず2人でたいらげた。
「会計を。」
このお店はテーブルでお支払いのようでサッとウェイターさんが現れた。デイビッドさんがスマートにお支払いを済ませようとしている。
「あ、私も自分の分は。」
「いや、今日は俺が誘ったから。」
「でも…。」
「今日は俺が。」
そしてまたウィンク。
「じゃあご馳走様です。」
「ああ、すまない会計を。」
「はい、かしこまりました。」
デイビッドさんってスマートな人なんだなぁ。
「帰ろうか、送ろう。」
「教会までで大丈夫です。まだお昼ですし。」
「俺が長く君の傍に居たいから送らせてほしいと言えば君を困らせてしまうかな?」
わお…。こま…。ぅわお…。絶句。
「ふふっすまない、そこまで考え込まなくていい。あしらえばいいんだ。誰かに言い寄られたらかわせばいい。俺は君に想いを寄せていると知っていて欲しかったんだ。こんな独りよがりな考えに君が寄り添う必要はないんだ。」
「ああ…すみません。私、あんまり男性とはその…。お付き合いもした事ないし…男性の友達も居た事がないんです。だから…あの…その…こういう時どうすれば良いのか…。」
「笑えばいい。子供たちと遊んでいる時の様に太陽みたいに笑えばいいんだ。そして笑顔で、送るのが当然でしょう。と言えばいい。」
「ふふっ分かりました。じゃあお言葉に甘えて。」
「ああ行こう。兄君が待っているよ。」
「ええ。」
そして結局、家まで送ってくれてお土産にとさっきのワインを渡された。勿論、中身も入った新しいボトルだ。いつの間に買ってくれたのか…美味しかったし思い出に貰っておこう。
「ありがとうございました。さようなら、また教会で。」
「ああ、また食事に行こう。」
私はニッコリと微笑み手をふる。彼が好きなのはシャーロット、違い過ぎるのが分かれば諦めるだろう。そう信じて彼の背中を見送った。