013
(クロウ視点)
マリーナ姉さんに救われて、1ヵ月が経った。
初めて会った時、空腹のあまり無銭飲食した俺を蔑まずに、見返りなしに助けてくれた。
孤児院でもスラムでもそんなことしてもらったことがなかったので、役に立ちたいから一緒に行きたいと強く食い下がり、何とか雑用として雇ってもらうことができた。
実際に何か雑用をしようとしたが、マリーナ姉さんが何でも魔法で片付けてしまうので、実はあまり出る幕がない。
スラムで生き残るために、身につけたスリとか万引きについては、二度としないように強く言い聞かされた。
他にもいろいろな考え方を聞かされ、その考え方全てがとても大人びていて、今では憧れを通り越して崇拝に近い気持ちを抱いている。
美しい容姿も相まって、まるで女神様のような存在である。
あまり崇めすぎるのも気持ち悪いと思われたくないので、尊敬を込めてマリーナ姉さんと毎日呼び続ける。
いつか本当に彼女の役に立てる存在になれたら、弟ではなく、1人の異性として一緒にいたい。
そのためにも、今は全力で強くなろう。
心の中でそう誓って、ダンジョンに入っていった。
◆◆◆◆◆
その頃あの子爵家では
「ミリアム、魔法学園の成績があまり奮わないようね。私の見込み違いだったかしら?」
「お義母様、お言葉ですが、私はこの家の動力のための魔石に、毎日魔力を注ぎ続けています。このように多量の魔力を毎日搾取されていれば、学園で勉強する分が残るわけがございません。
「お黙り!マリーナはそのぐらい簡単にこなしていたわ」
「ではそのマリーナ様に帰ってきていただければよろしいのでは?私はいつでも実家に帰る準備はできていましてよ。」
伯爵家の3女だったミリアムは、いつでも実家に帰れる条件付きであの子爵家に養女として来ている。
苦虫を噛み潰したような顔をした女主人は、密かにマリーナ捜索の依頼を冒険者ギルドに出したのであった。