年下の俺
あの人はいつも同じ時間、同じ場所にいる。
俺は満員電車の中で何故かあの人を見つけ
毎日見ていた。
あの人は大人っぽくて俺が子供に感じた。
大人になったら声を掛けようと思っていた。
でも、今日のあの人の顔は何故かいつもと違った。
俺はいつも見ていたから分かる。
あの人の後ろの男があの人に痴漢行為をしていた。
「おっさん何してんの?」
俺はあの人を傷付ける男を殴りたい気持ちを押さえ言った。
あの人は後ろを振り向こうとはせず、ただ一人で恐怖にたえていた。
次の駅で男は駅員に連れていかれた。
あの人はまだ下をずっと見たまま、少し震えていた。
「ありがとうございます」
あの人はそう言って電車に乗ろうとした。
このまま電車に乗せたらこの人はどうなる?
俺は心配になり彼女の腕を掴んで動きを止めた。
「今日は乗るのやめたら?」
俺の言葉で彼女は自分の状況に気付いたみたいだった。
彼女と一緒に椅子に座った。
彼女が俺から離れるのが嫌で彼女の腕を離せないでいた。
彼女ともっと一緒にいたくて彼女の彼氏にしてほしいと言えば
彼女は俺が子供だからダメだって。
何それ?
年上とか年下とか関係なく彼女の気持ちが知りたいのに。
「俺、後一年で卒業だから。
一年後、俺を彼氏にしてくれる?」
彼女は本気にしていないのか簡単に承諾してくれた。
次の日から彼女を見ることはなくなった。
彼女は電車での出勤をやめたのか
電車の乗る時間を変えたのか
違う電車に変えたのか
分からないが彼女に会うことはなかった。
それでも毎日、あのホームの椅子を確認していた。
彼女が座っていないか。
毎日俺は彼女がいることを期待していた。
友達によく言われることがあった。
「いつ会えるか分からない人よりお前はモテるんだからいつでも会える近くの女の子を彼女にしろよ」
「約束したんだよ。彼女は俺を彼氏にしてくれるんだ」
そう俺はいつも友達に言う。
俺は彼女を忘れない。
彼女は俺のことを忘れているかもしれない。
でも、約束の日まで俺は諦めない。
俺はあの時決めたんだ。
彼女が震えているとき。
こんな思い彼女にはもうさせない。
俺が彼女を守ると。
俺は今日、学校を卒業した。
すぐ、あのホームの椅子に向かった。
彼女に会えるなんて分からない。
でも椅子に座って彼女を待った。
明るかったはずの空はどんどん暗くなり
夜になった。
彼女は現れない。
やっぱり忘れられたか。
俺は諦めかけていた。
『バタバタバタバタ』
足音がして俺の目の前で止まった。
俺が顔を上げると俺の会いたかった人は
息を切らして俺の目の前に立っていた。
「やっと会えた」
俺は彼女が好きと言っていた笑顔を向けて言った。
彼女と久しぶりに話していると
彼女は俺が話す度に眼に涙が溜まっていき
最後には泣きながら“卒業おめでとう”
と言ってくれた。
泣いている彼女は俺よりも年下じゃないのかと思うくらい可愛いくて手放したくなくなった。
俺のものにしたくなった。
彼女が逃げないように抱き締めた。
彼女は俺より小さくて
彼女は俺より柔らかくて
彼女は俺よりいい香りで
彼女の全てを俺は守りたくなった。
「俺と結婚して」
俺は抱き締めている彼女の耳元で言った。
「あなたが二十歳になったらね」
彼女は顔を上げ俺を見上げて嬉しそうな顔で言った。
君の言葉の意味を俺は知っている。
君は年上。
俺は年下。
君は俺の年齢が気になっている。
それなら俺は君が年齢のことを気にしなくなるまで
ずっとそばにいるよ。
もう君を離さない。
それが年下である俺の特権。