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悪霊の国  作者: 田中
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抗う者と売り渡す者

トアラ王国の王都ガナッシュは混沌の最中にあった。


始めに騎士と国直属の兵士が西の魔女討伐という名目で郊外へ派兵された。

その後、宰相コリンは民の流出を抑えるという名目での城壁の門の封鎖を行った。

更には街を流れる運河も出入り口を塞がれた。

それをいち早く知った貴族達は窮屈な暮らしから逃れようと、早々と自らの持つ郊外の別荘へ移動していた。


残ったのは先の士官の話に釣られたならず者の他、王都に店舗を構える商人や工房を持つ職人等の移動のままならない者達ばかり。

そんな中、起きた食料倉庫への連続放火。

それでも城壁の門は閉ざされたまま、住民達は不安に駆られ王城前に自然と集まったが城の門は開く事は無く、王城は沈黙を保ったままだった。


それ程、日をおかず食料の買占めが始まり、やがて買い占めを行った比較的裕福な者の家が襲撃を受ける事になった。

襲撃され生き残った者は衛視に被害を訴えたようとしたが、街の各所にある衛視の詰め所も中心街にある衛視本部にも人の姿は無かった。


取り締まる者がおらず、投獄される心配の無い街は一瞬で無法地帯となった。

略奪が横行し街では純粋な強さによって地位が決まる世界に変化した。


無論、平和を訴え王に封鎖の解除を訴えようとする者も現れたが、そういった者達はいつの間にか消えていた。

また強者を中心に出来る筈の暴力的な集団も、ボスが消える事で大きく纏まる事は無く混乱が収束する事は無かった。

力の無い者達は、寄り添い合って暴力の嵐が収まるのを震えながら待つしかない状況に不安を抱えていた。


王都の貴族街、城下町の中でも高い塀に周囲を囲まれた屋敷が立ち並ぶその地域は静寂に包まれていた。

既に貴族達は逃げ出し、残った人々による略奪も終了していた。


そんな経緯もあり、現在の貴族街はほぼ無人となっている。

その静まり返った屋敷の一つ、数人の男女が王都の地図を広げた机の前で話し合いを続けていた。


「オロ殿、ルシア殿はなんと?」

「ルシア君は王都の民の受け入れ準備とかで奔走してるよ。先に城壁を崩すべきか迷ったみたいだけど、ギル先生を襲撃した奴らを警戒して先に準備を整える事にしたみたいだよ」


「どうして!?今も住民達は不安に駆られているのですよ!!」

「ルシア君は自分が敗北する事を恐れているのさ。ほら、彼女、今、分身出来ないから……僕等の仲間で城壁を崩せるのは恐らくルシア君だけだ。崩す前に自分が倒れたら……ってさ」


オロの答えにガッドが頷きを返す。


「自分が消えても確実に住民を助ける為か……」

「我々の術で城壁の門を破壊すれば……」

「街で集団のボスが尽く姿を消してる。誰かが暗躍してるんだ。門を破壊しようとすりゃそいつらが出てくんじゃねぇか?」


「ではその黒幕共を倒せばいい」

「待ってよ。ルシア君の話じゃ襲撃した連中は、君達の技を使える腕輪を着けた先生達を蹂躙したらしいんだ。先生達は不死身だけど僕等は違う……黒幕がそいつらだとしたら無駄に死ぬだけだよ」


オロの言葉で提案したアーズは顔を顰めた。

一同は各々黙り考え込んだ。

その後も民衆を説得し略奪者から身を守る為の自警団的な物を作るという案や、民衆の力を集め門を破るという案も出たが取り纏め役が消える事がネックとなり話し合いが先に進む事は無かった。


「……とにかく某達は戦う力のない民を少しでも西に逃がさぬか?」

「暗躍している誰かに見つからないようにか?骨が折れるな」

「多少の骨折りなぞ何するものぞ。民の暮らしを守るのが我ら武士の勤めであろう?」

「もののふねぇ……まぁ確かに民を守るのは騎士の勤めだな」


カシムはやれやれと肩を竦めたが、その顔は笑っていた。


「俺はもののふでも騎士でもねぇんだが……」

「ロア、腹をくくれ」

「はぁ……しゃあねぇなぁ……んで、手始めに何処から始める?」


腕を組み面倒そうに首を鳴らしたロアの言葉を受けて、アルダーが地図を指差す。


「南部の貧民街には戦えない人々が集まっているようです。まずは彼らを逃がす事を提案します」

「南部か……オロ、君は一回にどれぐらいの人を運べるんだ?」


アーズの問いにオロは顎を触りながら答える。


「そうだなぁ……やった事は無いけど多分五十人ぐらいなら……でもそれだけ運ぶとなると一日に何度もは飛べないよ」

「では逃がせても二、三百といった所か……」

「多分、それぐらいが限界だね」


王都にはまだ三十万人ぐらいは残っている筈だ。

王都に流入したならず者達、また住民であっても略奪者となった者は除くとしても半数以上は対象者となる。


「雀の涙だな……」

「じゃがやらんよりはマシじゃろう?」

「だね」


嗣光達六人は頷き合い行動を開始した。





王都ではそんな混乱が広がっていたが、その中心の王城は静かな物だった。

玉座に座った王は満足気に自らの右手を眺めていた。


「まるで甲冑だな……」

「陛下、ご気分はいかがでしょうか?」

「すこぶる良い。あの心身を覆っていた痛みや気怠さが嘘のようだ」

「それは重畳」


国王ルアベード三世はバレラの娘、レアーナの力によって脆弱な人の体を捨てていた。

その事は彼がこの世界の人間として子を成す事出来ない事を意味していたが、ルアベードはそんな事はどうでも良かった。

既に複数人いる妃との間に多くの子を成している。


その王子、王女達はルアベードと同じく病弱であったがそれさえも彼にはどうでも良かった。

血が潰え国が滅びようと自分が人並みの時間を得る事、それが彼の願いでありその為に国王という地位が持つ力を使ってきたのだ。

その願いが叶った今、彼はまるで光に包まれた様な気持ちだった。


「時に陛下、西の魔女についてですが……」

「よい。全てそちに任せる。余は暫く、得た時をどのように過ごすか考える。諸々の事はコリン、お前に一任する」

「……御意」


玉座の間から辞したコリンを白い髪に白いドレスの少女が出迎えた。


「王はなんと?」

「全て私に一任するそうだ……」


「そうですか。こちらはある程度、兵隊が集まってきました。東側の都市でもこの街と同様の事を起こそうと思いますが……よろしいですか?」


「好きにしろ……この国を贄に使って世界を蹂躙するがいい……ただし異種族は残すな」

「貴方方が獣人と呼ぶ者達は素体として優秀なのですが……まぁ良いでしょう。承知しました」


コリンに背を向け去って行く少女を彼は無言で眺めた。

自分の出自を抹消する事、それが彼の目的だった。

その為に奔走してきたが願いは望んだ形と違うとはいえ叶いつつある。


異界人に浸食されていくトアラ。

彼らはやがてこの世から異種族を消し、人という種の形を変えながら世界を我が物とするだろう。

願いが叶う喜びと破滅に向かう虚無感を同時に感じながら、コリンはレアーナに背を向けた。

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