森の墓標
黒く虹色の光沢が動くと同時に、至る所で血飛沫が舞った。
しかし血塗れの兵士はその度起き上がり、時に彼らを凌駕する動きで討伐隊を狩っていく。
赤熱の槍、雷撃の剣、水撃の矢、爆炎の拳。
兵士達は様々な技を使い討伐隊に血を吐きながら食らい付く。
「チッ、完全に想定外だ」
青髪の男を始め約半数は無傷で彼らが動く度、兵士達の首が複数飛んだ。
「大将、新入りの奴ら全員やられたぜ。俺たちゃ負ける気はしねぇが……」
「やっぱ、もうちょい厳選すんだったな……しゃあねぇ一旦帰るか。お前ら、兵士を俺に近づけるなよ」
青髪の男はそう言うと一瞬で結界の東の端に歩を詰めた。
男が右手を高く掲げると、彼を中心に空気が渦を巻き吸い込まれ始めた。
「大将を守るぞ。行動を阻害しろ」
「了解」
巨漢の男を中心に兵士が何かしようとするのを討伐隊は尽く潰した。
「クソッ……加速さえ使えれば……」
青ざめた顔で兵士の一人が呟く。
その兵士はやせ細り剣を振る手にももはや力は無かったが、歯を食いしばり雷光を放つ。
「ちょっとぉ、痺れちゃったじゃない」
雷光が翳めた銀髪の女が、髪をなびかせながら兵士の首をすれ違いざまにもぎ取った。
そうこうしている間に、青髪の掲げた腕が青白い光を帯びる。
男はその光を帯びた腕を結界に叩き付ける様に振り下ろした。
光の刃が結界に直撃し、力を吸収しきれず限界を超えて綻びる。
「よっしゃ、撤収だ!今日は取り敢えず挨拶だ。近い内にまた来るからよぉ」
青髪はそう言うと、光の残った腕を兵士達に向けた。
「ヤバっ」
「もう、少しはチームプレイしてよぉ」
「まったく困った大将だ」
「……」
残った討伐隊の面々は慌てて彼の背後、結界に開いた穴から東へ逃れる。
「じゃあな」
青髪の男は兵士を薙ぎ払う様に腕を振り結界の外へ逃れた。
結界内に青白い光が充満し内部の全てを焼いて行く。
それを退避して見ていた討伐隊に青髪の男が少し遅れて合流した。
「出し惜しみしないで最初に使ってよね!」
銀髪の女が青髪の男に頬を膨らませ苦情を言う。
「仕方ねぇだろ。あれは隙だらけになるから好きじゃねぇんだ」
「とにかく一度戻ろう。素体を選ぶ基準を見直さないと」
巨漢の男が首を鳴らしながら話した。
「だね。やっぱりさぁ、元が強くないと。僕みたいに」
小柄なそばかすの少年が巨漢の肩に乗って愉快そうに笑う。
それを聞いた黒い長髪の痩身の男が無言で頷く。
「しかし、あのアマ。あんな兵士まで作りやがって……まったく何から何までムカつくぜ……」
「何、ダグ、もしかしてその女に振られたの?」
銀髪の女はニヤニヤと楽しそうに笑いながら問いかけた。
「ちげぇよ!……まぁいい。出直しだ」
青髪の男、ダグの言葉で討伐隊はその場を後にした。
ルシアが連絡を受けて駆け付けた時、既に結界は解け辺りには焼けた大地と倒れ伏しガリガリに痩せたギル達がいるだけだった。
その中の一人に駆け寄り抱き起す。
「先生!!大丈夫ですか!?」
「ルシアか……敵は……退却したが……力の腕輪は……改良の……余地……ありだな」
「そんな事より体は!?」
「負傷は……回復……したが……腹が……減って……動けん……」
ルシアが周囲を見回すと他のギル達も同様の状態の様だ。
ただ、二十名いた筈のギル達は約半数、十名程に数を減らしていた。
人の物と思われる白い骨がそこかしこ横たわっている。
「ごめんなさい……私が遅かったから」
「俺達の事は……気にするな……それより……ヴェルデ……ディアが……一頭……死んだ……亡骸が……残っているなら……埋葬して……」
そこまで言うとギルはゆっくり目を閉じた。
呼吸はしているので、動く力が尽きたのだろう。
ルシアはギルを地面に寝かせると辺りを見回し、焼かれ骨だけになったヴェルデ・ディアとギル達の骨を森の中に穴を掘って埋めた。
穴を掘る時、ルシアは力を使わなかった。
理由は彼女にも明確には言えなかった。ただそうするべきだと思ったのだ。
素手で穴を掘っていると、他の魔獣たちも現れ穴を掘るのを手伝ってくれた。
「……皆を守ってくれてありがとう」
そう言って運んだ骨を穴に埋め石を置くと、膝をついて彼らが安らかに眠れる事を祈った。
顔を上げて穴掘りを手伝ってくれた魔獣達を見回す。
「アナタ達も手伝ってくれてありがとう」
「グォ……」
魔獣達はルシアに鼻先でそっと触れると森に姿を消した。
それを見送り、ルシアはギル達を連れて国境の森を離れた。




