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悪霊の国  作者: 田中
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体の傷と心の傷

オロは気を失ったルシアを連れてデレアへ戻って来ていた。

助けられた子供達はロミオとその友人のトミーの他数名で、全員を助けられた訳では無かった。

彼らはギルの外科手術によって植え付けられた幼虫を摘出されてはいたが、内蔵を栄養として食われた事で激しく衰弱していた。


ルシアは意識を取り戻した後、ふらつきながらも彼らを癒した。

しかし、彼女の力では幼虫に食われた臓器を完全に回復する事は出来ない。

青ざめた顔のルシアにギルは再生薬の使用を提案した。


「このままでは遅かれ早かれこの子達は死ぬ。治験は終わっていないが使うべきだ」

「でも、副作用が……」

「ルシアさん、日は浅いですがあれからもギルはずっと研究を続けていました。彼を信じてあげてもらえませんか?」


アニスは両手を組み祈る様にルシアを見つめた。


「ねぇ、その治験っての、要は前に言ってた人体実験って奴だろ?」


子供達と同じ病室で寝ていたジョナがルシア達に声を掛ける。


「そうだが……?」

「じゃあ、アタシにその薬使って試しなよ」

「ジョナ、分かってるの?副作用があるかもしれないのよ?」

「ロミオが攫われたのはアタシが守り切れなかったからだ。その責任は取らないとね」


ジョナは他の子供達と並んで眠るロミオを見ながら辛そうに言った。


「……ルシア、確かに薬は完全とは言えん。だが今出来うる限りの調整はしてある。やらせてもらえないか?」

「……分かりました。ジョナ、本当にいいのね?」

「ああ、気が変わらないうちにさっさとやっとくれ」


ぶっきらぼうに言い放ったジョナの言葉で、ルシアはギルに頷いた。

ギルもルシアに頷きを返し、ジョナに再生薬を使う為の準備に取り掛かった。


準備と言っても小瓶に入った再生薬を注射器で静脈に打つだけ。

あとは薬が予想通りの効果を示すかどうか。


ジョナは打たれた直後は平然としていたが、暫くすると体中の熱さを訴えた。


「先生、大丈夫なんですか?」

「心配するな。細胞が持つ設計図を頼りに薬が体を再生させているだけだ」

「そう……なのかい?……グッ……腕が……」


ジョナの断ち切られた右腕の切断面が盛り上がり、小さな腕が生えていた。

その腕は見る間に太く大きく育ち、僅かな時間で失った腕を再生させた。


「ふむ、指の数も五本。経過の観察は必須だが外見上は問題点は見つからんな。ジョナ、気分はどうだ?」

「すごく……疲れたよ……あと……お腹が空いた……」

「再生の為に体中の栄養を失ったのだ。アニー、栄養液を入れておいてくれ」

「分かりました」


ギルはジョナの体を診察しながら、アニスに指示を出した。


「ほぼ、予想通りの結果だ。古傷も完治している」


ギルの言葉通り、ジョナの体に残っていた傷は消え滑らかな肌が覗いていた。

自分の腕を持ち上げ、傷一つ無いのを確認したジョナの目に大粒の涙が浮かぶ。


「アタシの体……傷だらけの体が……こんな事……うぅ、先生、ありがとう……」

「礼を言うのはまだ早い。半日ほど経過観察する。細胞の増殖は止まっているようだが、薬の効能には個人差があるかもしれん」

「感動してんのに、怖い事言わないでよぉ」


ジョナは泣き笑いの顔でギルの腕を軽く叩いた。




半日後には子供達にも再生薬が投与された。

青ざめていた顔色に赤みが差し、眠ったままの彼らの腹が盛大に鳴った。


「ふむ、子供らも少し痩せた以外は特に問題なさそうだ」

「では栄養液を打っておきますね」

「ああ、頼む」

「再生薬は完成ですか?」


ルシアの問いにギルは首を振った。


「完成と呼ぶには人数が足りん。もっと多くの人間で試し副作用の有無を確認せねば」

「そうですか……」

「そうだ、カレンを連れて来い。ジョナの古傷が消え腕が再生したのなら、あの娘の翼も取り戻せる可能性が高い」

「分かりました。副作用の件も含めて伝えておきます」


ルシアの返事にギルは満足気に頷いた。


「うむ、人間以外の種にも試して効果を確かめねば……。ルシア、住民に触れを出して協力者を募ってくれ」

「……変な副作用が出たらすぐ報告してくださいよ」

「分かっている」


「先生、幼虫の駆除装置もお願いしますね」

「そっちはカービンがやっている。心配するな」

「了解です。じゃあ今日はこれで」


頭を下げ部屋を立ち去ろうとするルシアにギルが目を向ける。


「顔色が良くない。霊体を治す事が出来んのは口惜しいが……とにかくゆっくり休め」

「はい、ありがとうございます」


ルシアは再び子供達の様子を真剣な目で観察し始めたギルを残し、病室を後にした。

非常事態だったとはいえ、ほぼ誘拐の様な形で連れて来てしまった子供達は、回復を確認したら速やかに親の元へ返さなくてはならない。


ただ、今の王都に戻すのは少しためらわれた。

バレラを倒したと言っても完全に倒しきれたのか確認はしていない。

ルシアが倒したのは、嗣光が斬ったという影武者の様な存在だった可能性もある。


また徐々に軽くなってはいるものの、赤い霧の影響は未だ抜けてはいない。

気を抜けば意識が拡散しバラバラになってしまいそうだ。

それが原因で今現在、ルシアは分身を作る事が出来なくなっていた。


「もう一度、王都に行かないといけないのに……」


現状は霧の影響が抜けるのを待って、王都に潜伏しているアルダー達と合流するのが最優先事項だろう。

そんな事を思いつつ力の消費を抑える為、歩いて領主屋敷に向かっているとエルオニアとデッドがこちらに気付き、キュラキュラと音をたてて向かってきた。


「よぉルシア。バレラをやったんだって?」

「完全に倒せたか確証はないわ」

「だろうな。俺があいつを警戒したのも力を出し切った後、ご本人登場ってのを考えたからだ」


「あの人はそんなに強い影武者をバンバン作れるの?」

「詳しくは分からん。だがあいつはコリンに強い武人を要求していた」

「強い?術の力が強いって事?」


ルシアの問いにデッドは首を振った。


「術ってのはこの世界の奴らが使う超能力的な奴だろう?そうじゃ無くて、バレラが求めたのは肉体的な強さだ」

「……だから彼女は伊藤さんにこだわったのね」

「イトウ?強いのか?」


「彼は剣術だけでバレラの影武者を斬ったそうよ」

「……人間……だよな?」

「ええ、私と同じ世界から、厳密にはちょっと違うけど、彼は術なんて使えない普通の人よ」


デッドは少し考えこむとルシアを見上げた。


「そいつに会わせろ。手合わせがしたい」

「デッド……手合わせって……その手に付いたマシンガンとか、両肩の大砲を使うつもりじゃないでしょうね?」


デッドはエルオニアの手を借りて、両腕の前腕部にミニガン、両肩にレールガンを装備した人型タンクの様な姿になっていた。

そんな姿でウロウロしても住民達はルシアがまた変な人を連れて来たぐらいの反応なのだから、慣れとは恐ろしいものだ。


「そんな事はしない。エルオニア、人型の体を作ってくれ」

「確かに作り直すとは言ったが、作るのにも材料費が必要なのだ。金はあるのか?」


エルオニアの胸のディスプレイに積み上げられたコインが映し出される。


「金か……ルシア、俺に仕事を回せ」

「仕事ってどんな?その鉄砲を使う様な仕事はここにはないわよ?」

「……」

「仕方が無い。小麦収穫用のアタッチメントを作ろう」


黙り込んだデッドにエルオニアが助け船を出した。

彼の胸には所謂、コンバイン的な物が映し出されている。


「俺に農機具になれってのか?」

「別に強要はしないが、他に当てがあるのか?」

「グッ……しょうがねぇ、よろしく頼む」

「フフッ、任せておけ。収穫、脱穀、製粉までを行える完璧な物を作ろう」


胸のディスプレイが作業工程を図解で表示する。


「……せめて色は迷彩色にしてくれ」

「迷彩色?何のためのカモフラージュだ?それに白い方が人に与える影響を考えると良いと思うが?」

「頼むよぉ、そこはうんと言ってくれよぉ」


「やはり元生体だけあって理解出来ない事を言うな……まあ、いいだろう」

「恩に着るぜ」

「なんだか仲良しね」


そう声を掛けた二人がシンクロした様に同時にルシアを見たので、彼女は思わず笑ってしまった。

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