白いドレスと青い髪
王城の橋が襲撃され落ちた事件は王都の住民を流出させる結果をもたらした。
特に利に聡い商人や子供の行方不明事件が続いていた下町ではそれが顕著だった。
子供を持ち、地方に実家及び親戚を持つ者などはそれを頼り早々と王都から姿を消した。
また、それらを持たない者は景気がいいという西へ向かっていった。
何しろ国王の城が襲撃を受け守備兵や騎士が尽く倒され、正門の橋が落ちたのだ。
国が亡ぶ事は無いとしても多少は安定感のある他領で、事態の収束を待つ方が安全と踏んだ人間が多かったのも仕方の無い事かも知れない。
その王城、謁見の間にてコリンとバレラの遺児は王と対面していた。
「コリン……ゴホッ……貴様、何をしていた……」
数ヶ月前までは怒り、声を荒げる事の出来ていた国王ルアベード三世だが今では更に痩せ、喋る事もままならない程疲弊していた。
「陛下……」
「予とて耳ぐらいは……配下におる……西に変事が……起きている事ぐらいは……知って……おる……ぞ…はぁはぁ」
「貴方が国王……」
ルベアードは声を発した異形の娘に目をやった。
「コリン……その…気味の悪い……娘は異界人…だな?」
「御意……」
「はぁはぁ……そこな娘……どの様な形でも……よい……予を…助けよ……」
王の言葉を聞いた少女は冷たく彼を見返した。
「では、王命として優秀な戦士をこの城に集めて下さい。術の強さでは無く、純粋に強靭な肉体を持つ戦士を」
「はぁはぁ……コリン、貴様に……任す……娘の言う通りに……せよ」
「……御意」
その日の内に王都に触れが出された。
それは武術に優れる者であれば、騎士待遇で城に迎え入れるという物だった。
優秀な術の使い手である事と家柄が重視されるこの国において、武術の存在価値はそれ程高い訳では無い。
勿論、騎士や兵士に武術は必要だが、敵が近づく前にそれを焼き払える者達が武に重きを置く事は今まで無かった。
この事は戦争の匂いを感じ取った住民の流出を加速させ、逆に腕自慢のならず者を王都に招き入れる事になった。
青髪の元警備兵、ダグもそんな触れに呼び寄せられた者の一人だった。
各地を放浪し王都の触れの噂を聞いたダグが城壁を潜ったのは、触れが出されて一週間程過ぎた頃だった。
「これが王都……こりゃ、いよいよこの国も終わりかもな……」
彼がそう呟いたのも無理はないだろう。
かつては多くの店で活気に溢れていた通りも、現在はもぬけの殻で空いた場所には流れの商人が勝手に店を出していた。
通りには食い詰めた傭兵や、明らかに賊と思われる腕一本で生きて来た連中がたむろしている。
王都の目抜き通りは僅かな時間で、海賊の寄港地の様な荒くれ者の巣になっていた。
「よぉ、兄ちゃん。お前もお触れを聞いて王都に来た口か?」
「触るな。殺すぞ」
「そう怒るなよ。お触れの詳しい内容は知っているのかい?」
「……強けりゃ術が使えなくても騎士になれるんだろ?」
「概ね間違っちゃいないが、見極めがあるのさ」
「見極め?」
ダグがそう尋ねると、声を掛けて来た薄汚れたフードを被った小男は彼に顔を寄せた。
異臭に顔を顰めつつ男の言葉に耳を傾ける。
「化け物と戦わされる」
「化け物だと?」
ダグが食い付いたのを見て取って、男は彼から距離を置いた。
「でだ、兄ちゃんがもし事前に対策を練りたいってんなら、見極めが見れる場所に案内してやってもいいぜ」
小男は薄ら笑いを浮かべダグにそう提案した。
この男は見極めと言う名の試験の内容を盗み見れる場所を知っているらしい。
ダグは少し考えると小男に尋ねた。
「いくらだ?」
「金、五枚」
「……」
ダグは値段を聞くと無言で男の横を通り抜けた。
「まっ、待てよ!見極めじゃ力がなきゃ問答無用で殺されるんだぜ!?命の値段としちゃ悪くないだろう!?」
「にしても五枚は高すぎる。せいぜい二枚までだな」
「そりゃねぇぜ。俺の場所は特等席だぜ」
小男はダグに追いすがり言葉を重ねた。
「……三枚、後払いだ。先に言っておくがカモろうってつもりなら、止めておいた方がいい」
金を払うと言ったダグに男が笑みを見せた時には、顎の下にナイフが突きつけられていた。
「わ……分かってるよ……今、この街にいるのは荒事で生きて来た奴ばっかりだ。妙な真似すりゃこっちが危ない」
両手を上げて小男は引きつった笑みを浮かべた。
男が案内した先は確かに特等席だった。
裏路地に案内された時は警戒したが、ならず者に囲まれる事も無く地下道を経由して見極めの場所、古い闘技場の客席の下に案内された。
崩れた壁の隙間から土がむき出しの闘技場で、白く巨大な虫と傭兵らしき男が戦っている。
決着はすぐについた。
虫が腕を振っただけで何も出来ずに男は輪切りにされた。
「次」
闘技場の奥、貴賓席の上から小さな子供の声がする。
遠目だが白いドレスを着た少女の姿が見えた。
「嘘だろ!?こんな化け物と戦うなんて聞いてねぇよ!?」
斧を持った禿頭の男が、兵士に槍で追い立てられ闘技場に入れられる。
「始め」
少女の無慈悲な声が響いたと同時に、先ほどの男同様、禿頭の男は輪切りにされた。
「どうだい兄ちゃん。特等席だろ?」
「ああ」
「それじゃあ、そろそろ金を……」
小男がダグに金を要求したのと同時に、覗いていた壁が音を立てて崩れた。
驚き視線を向けると白いドレスの少女がいつの間にか壁の先、三メートル程の空中に立っていた。
「今日の観客は中々強そうですね」
八つの赤い目がダグと小男を観察している。
「バレてたのか……」
「覗いていたという事は貴方も参加したいのでしょう?」
「……話によるぜ」
「勝てば騎士待遇というのでは不満ですか?」
「平の騎士じゃ話にならねぇ……俺はあの女をブチ殺せる力が欲しいんだ」
ギラギラと目を輝かせダグは少女を見上げ答える。
「……いいでしょう。あの者と戦い勝てば、貴方に将軍としての地位とそれに見合う力を差し上げます。ただし、普通に勝つのではなく圧倒的な勝利が条件です」
「……上等だ」
歯を噛みしめ笑うとダグは瓦礫を乗り越え闘技場に足を踏み入れた。




