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悪霊の国  作者: 田中
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地下の七人

王城の地下、時たま轟音が鳴り響きパラパラと石の欠片が天井から降っていた。


「陽動とはいえ暴れすぎだろあの女」

「急がないと建物ごと潰されそうですね」

「とにかく急ぐとしようぞ」

「ねぇ、皆、僕は戦えないからね。そこんとこ分かってるよねぇ……」

「分かってるさオロ、守ってやるから泣き言言うなよ」


嗣光とガッドを先頭にアルダーの案内で地下を走る。

地下の廊下はアーチ状になっており、横幅はかなり広く天井も高い。

ひんやりとしている事から、この地下空間は食糧庫も兼ねているのではとガッドは想像を巡らせた。


地下はコリンが人払いを命じていた事と、ルシアの陽動により衛兵の姿は見えなかった。

入り組み迷路の様な地下の廊下を進み、目的の場所の近くに出ると扉の前に赤いドレスの女が立っていた。


「……貴方の方から来てくれるなんて、口では嫌いって言ってたけど本当は私の事が気になるのねぇ?」


女の八つの目が先頭の嗣光に向けられる。

嗣光はそれを無視して刀を抜いた。

元の世界から持ち込んだ愛刀は刃こぼれが酷く、手にしているのは土小人が作った物だ。


「時を掛ける訳にはゆかぬ。多対一なれどご容赦召されよ」

「フフッ、気にしないで私も一人じゃ無いから」


バレラの背後の扉が開き、赤いドレスの少女がワラワラと這い出して来た。

数はおおよそ二十体程、壁や天井に張り付きながら牙を剥いてこちらを威嚇している。


「うぅ、所々人間っぽいのが余計に不気味ですねぇ……」

「アーズ達は後衛の三人を守るのじゃ」

「分かりました師匠」


「アルダー殿とロアは娘たちを落として欲しい」

「がっ、頑張ります!」

「任せろ、多分嬢ちゃんの出番はねぇよ」


「オロ殿は危険を感じたら仲間を連れて退避するのじゃ」

「うん、任せて!」


「某とガッドが斬り込む。では参る!」

「やるか……」


嗣光は早口で指示を出すと、刀を構え一気に踏み込む。

ガッドも刀を抜いてそれに続いた。


口火はロアの弓が切った。

長距離射撃に使う風の術を纏った矢が、異形の少女の目の一つを抉り頭部を弾けさせる。

続いて放たれたアルダーの水撃も複数体を巻き込み、異形の体を断ち切った。


しかし異形の少女達は怯む事無く、傷付いた仲間を乗り越え後衛に迫った。

その襲い掛かった一体を赤熱した槍と稲妻を纏った剣が焼く。


「お前達は私達が命に代えても守ってやる。安心して化け物を駆逐してくれ」

「命に代えてもって……言う事が大げさだぜっと」

「ありがとうございます!」


ロアは茶化しながら矢を放ち、アルダーは礼を言いつつ術を放った。

アーズとカシムは二人が討ち漏らした異形の放つ糸を槍と剣で絡めとり焼く。


「あら、結構強いわねぇ」


バレラの恐らく影武者は感心しつつ腕を振るい、嗣光とガッドに鋼糸の様な糸を見舞った。

嗣光はそれを刀で弾き、ガッドはフェイントを掛け躱す。

バレラは接近戦を嫌ったのか糸を手繰り、二人に近づく隙を与えない。


「二度も首を落とされるのは御免だわ」

「クッ、近寄れぬ」

「子供の方より手数が多いな……」


バレラは糸を操りながら牙の生えた口を大きく開けた。

口の端に切れ込みが入り、人の顔に見えていた部分が昆虫に似た物に変わる。


「うぇ……完全に虫じゃあ……」

「擬態ってやつか……」


嗣光が顔を青ざめさせガッドが額に汗を浮かべいると、周囲の少女も擬態を解いて虫に似た物に変化していた。

そのバレラを含めたすべての異形が一斉に赤い霧を吹き出す。


周囲が一瞬で赤く染まった。


「なんじゃこれは!?」

「目が……」

「いかん、一旦霧の外へ……ゴホッ……」


霧から逃れ引いた嗣光達の後を鋼糸の刃が次々と抉る。


「クッ……目と喉を……」

「毒か……」


赤い霧はそれ程範囲は広く無いが滞留しバレラ達を取り巻いていた。


「任せろ!」


声と共に風を纏った矢が地下を駆け抜けた。

強風を纏った矢は赤い霧の一部を払ったが、直ぐに穴は塞がり霧は徐々に範囲を広げ始めた。

その間も糸の刃での攻撃は続いている。


「チッ、気休めにしかなんねぇ」

「……近づかなければ斬るに斬れん」


目を眇め歯噛みする嗣光にオロが声を掛ける。


「あの霧が無ければどうにか出来るかい?」

「霧さえなければ必ず斬ってみせる!」

「分かった……じゃあ僕を守ってね」


オロはそう言うと無防備に駆け出した。

慌てて嗣光はオロに追従し、襲い掛かる刃を間一髪で弾く。


「何をするつもりじゃ!?」

「オロ殿!?」


嗣光の問い掛けもアルダーの悲痛な叫びも無視し、オロは霧に飛び込んだ。

その瞬間赤い霧は一瞬で消えた。


「何故消える!?」


突然、霧が消えた事でバレラも周囲の異形も驚き一瞬動きを止めていた。


「後は任せた」

「見事じゃ」


バレラの虚を突き懐に飛び込んだ嗣光は納めた刀を抜き放つ。

刃は咄嗟に防ごうと張られた鋼糸ごと、バレラの胴を真一文字に断ち切った。

バレラはそのまま上半身と下半身に分かれ石畳の上に倒れた。


「ギギッ……ガッ!!」


身を起こそうとするバレラの頭に刀を突きさし嗣光は叫ぶ。


「首魁は倒した!!畳みかけるのじゃ!!」

「おっ、おう!!」


嗣光の声で呆然としていたガッド達も一斉に動き始める。

主軸を失った異形達は徐々に狩られていき、程なく一掃された。


「ふぅ、上手くいってよかったね」

「いきなり飛び出すなど、少々肝が冷えたぞ」

「本当ですよ!!貴方がいないと我々は逃げ出す事も出来ないのですよ!!」


アルダーがオロに駆け寄りポカポカと胸を殴る。


「アルダー君、地味に痛いんだが……」

「うるさいです!」

「しかし、超能力者さんよぉ、一体どうやったんだ?俺の風でも払えなかったのに……」


ロアが納得できない様子でオロに問い掛けた。


「霧を纏めて上に送った」

「上ぇ?」

「星の世界だよ」

「そんな事が出来るなら、化け物共も送ってくれればいいのに」


多少非難を含んだ声音でカシムがオロに言う。

それに肩を竦めながらオロは苦笑した。


「転移はある程度近くにいないと使えない。僕は彼女達に近づいただけで輪切りにされる自信があったからね」

「それは自信と言えるのか?」


ガッドは少し呆れながらも笑みを浮かべた。


「まぁとにかく一山超えた。子供達を助けよう」

「そうじゃな……」


アーズの言葉で嗣光は転がった異形の死体に目をやり、その数に不安を感じながら少女達が出て来た扉をくぐった。

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