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悪霊の国  作者: 田中
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集まった仲間は

嗣光が重い体を引きずる様に庭へ出ると、そこには首を落とされた異形の死体が二つ転がっていた。

戦いの後を辿り屋敷の裏へ向かう。

抜け道の存在は嗣光も聞いていたので、恐らくガッド達はそこへ向かったのだろうと足を速めた。


井戸の前には十体程の死体と井戸を背にして座り込んだガッドがいた。


「ガッド、無事か!?」


嗣光が駆け寄り声を掛けると、ガッドはおもむろに顔を上げた。

体には無数の傷を負っている様だが、取り敢えず命に係わる様な物はないようだ。


「何とか……な。だが体が痺れて……動けん……ジョナは……井戸に…降りた……追ってくれ」

「承知。ジョナとロミオを見つけたらすぐ戻る」

「了解…だ」


嗣光は井戸の脇に用意されていたロープを投げ落とすとそれを伝い井戸を降りた。

底にはバラバラにされた異形の破片が散らばっている。

ジョナがやったのだと嗣光は横を流れる水の流れを追い先へと進んだ。


地下道は暗かったが出口が近いのか道の先からは明りが見える。

細い流れの先、主流に交わっている部分を流れに沿って左へ折れると、鉄格子に遮られた先から夕刻の陽光が差し込んでいた。

その鉄格子の左端、扉の近くに人影が壁に寄り掛かっている。


刀に手を掛け陽の光で目を焼かれないよう嗣光はその人影に近寄った。

扉は開いており差し込む光で人影はシルエットしか判別出来ない。


「ごめんよ……やられちまった……」


掛けられた声でジョナだと気付き、嗣光は急ぎ駆け寄った。

ジョナの右手は上腕部で断ち切られ、止血の為に撒いたであろう布から血が滴り落ちていた。


「これは……」

「どういう事か分かんないんだけど……バレラが出て来てね……ロミオは連れ去られちまった……」

「色々聞きたい事はあるが、まずはお主の治療が先じゃ……一旦屋敷に戻るぞ」


嗣光はジョナを抱え上げると、目の前の扉を抜け川に面した道に出た。

川沿いの石畳の道を抜け階段を駆け上がり屋敷を目指す。

この時ばかりは貴族の塀に囲まれた広い庭付きの屋敷を恨めしく思った。


運んでいる間もジョナはしきりに謝罪の言葉を口にした。

守れなくてごめん、それは嗣光に向けての物では無く連れ去られたロミオに対しての物のようだった。


「ごめん……ごめんねぇ」

「謝らずとも良い、五体無事で取り戻せば良いのじゃ。その為に今は黙っておれ」

「……うん……分かったよ……あんた、優しいね」


「けっ、怪我人に優しくするのは、あっ、当たり前のことじゃ!」

「シャイ……なんだ……」

「揶揄うでない……ジョナ?」


気付けばジョナは意識を失っていた。

嗣光は無言で足に力を込めた。


屋敷に戻った嗣光は、ジョナと体がマヒしたガッドを屋敷のベッドに寝かせアルダーの屋敷に向かった。

それというのも拠点にしていた屋敷はアルダーの所有物だが、現在使われておらず使用人達もごくたまに庭の整備に来るだけといったほぼ放置された建物だったからだ。

ガッドが関わる人数を増やす事を嫌った為、使用人も存在しない。


ジョナは止血していたものの血は止まっていない。

ガッドも喋れてはいたが、毒だとすればそちらも処置は早い方がいい筈だ。

焦る気持ちは自然と足を速め、嗣光は道行く人の注目を集めながら街を風の様に駆け抜けた。


辿り着いたアルダーの屋敷で対応の遅い門衛達を振り切り屋敷に踏み込む。


「アルダー殿!!オロ殿!!おられるか!?」


玄関ホールで叫びを上げる嗣光を追って来た門衛が、彼を羽交い締めするのと時を同じくして目の前に黒髪の少女が現れた。

ルシアの存在は知っていても、力の詳細を知らない門衛達は目を丸くして驚いていた。


「伊藤さんどうしたの?」

「おお、ルシア殿!ジョナとガッドが負傷いたした!別宅にいる、手当を!」

「分かったわ!」


ルシアからもう一人のルシアが抜け出る様に現れると揺らめいて消えた。

それを茫然と見てた門衛は余りの事に嗣光への拘束を解いていた。


「アナタ達は持ち場に戻っていいわよ」

「はぁ、分かりました……イトウ様、アルダー様の客人とはいえ最低限ルールは守って下さい」

「すまぬ。怪我人が出たものでな。許せ」

「……次からは門でそう言って下さい」

「承知した」


門衛達は二人に頭を下げると玄関ホールを後にした。


「ルシア君、そんなにポンポン転移しないでくれたまえ。もしかして転移って簡単なんじゃ?とか思われてしまうだろう?」


二人が声のした方に目をやると、オロがホールの上の廊下の手すりに肘を突き頬杖をしながら二人を見下ろしていた。


「オロ、別宅へ飛んで頂戴。ガッドとジョナが負傷したらしいわ。マズそうだったらギル先生の所へ運んで」

「分かったよ……君も早く人や物と一緒に飛べる様になりたまえ」

「練習してはいるんだけど……」

「コツは自分と他のモノの繋がり、それと自分と他者をハッキリ意識する事だよ。まぁ、君は実体化してるといっても霊体だからなかなか難しいだろうけどね」


オロはそう言うと光を残し消えた。


「やはりアレは便利じゃのう」

「私も自分だけなら出来る様になったけど……失敗したら融合するとか言われるとねぇ……で、何があったの?」


「アルダー殿が話しておったバレラに襲われた。下町で子供を攫っておったバレラに似た者を斬った事が原因じゃと思うが……そうじゃ!その子供がバレラに連れ去られたのじゃ!」


「バレラに!?……伊藤さん、私が王都に来たのもバレラの事でよ。その事をアルダーさんと相談してたの」


二人が話していると、息を切らせたアルダーが先ほどオロがいた二階の廊下に現れた。

階下を覗き二人の姿を認めると足早に階段を駆け下りる。


「はぁはぁ、急に転移しないで……んぐ……下さい」

「ごめんごめん、伊藤さんの声が酷く切迫してたから」

「あい済まぬ、火急であったのじゃ」


「何が……ふぅ……あったんですか?」

「取り敢えず部屋で話しましょう。さっき話してた事と関係もあるし」

「……分かりました」


部屋に戻りルシアはデッドから聞いたバレラの事を、嗣光は下町の人攫いと別宅で起きたバレラ達の襲撃をそれぞれ話した。


「人の腹に卵を……では攫われた子供達は……」

「デッドの推測というか観測が正しいなら、その子供達は苗床に……」

「助けないと!だって栄養にされるって事は体を食べられるって事でしょう!?」


アルダーが拳を握って声を上げる。


「落ち着いてアルダーさん」

「ふぅ……すみません。慌ててしまって……」

「余り想像したくは無いが、幼虫という事は育つまでに多少時が掛かる筈じゃ。助けだし取り除けば……」

「そっ、そうですね」


嗣光の言葉でアルダーはほん少しだけ安心したようだ。


「ねぇ、アルダーさん、バレラがそういった子達を何処に置いてるか見当はつく?」


「そうですね……あまり彼女には近づかない様にしていたのですが、いつもニ、三人男の子を連れていました。ただ、イトウさんの言う攫われたという子供の数には全然足りませんね……そういえばコリンから王城の地下の一画には近づかないよう命令をうけました。そこでは無いでしょうか?」


「王城か……忍び込むには骨が折れそうね」

「そうですね、王城には悪魔除けの結界が張られています。多分ルシアさんなら問題無く壊せるとは思いますが、壊した時点で城は警戒態勢に入るでしょう」


悪魔除け……。

想像だが昔、自分と同じような霊体が城で悪さをしたのだろう。

ルシアがそんな事を考えていると、分身したルシアとオロがガッドを連れて部屋に転移して来た。


「ただいま。ジョナはギル先生の所で治療を受けてもらってる」


話ながら分身がルシアと重なる。


「オロ、ご苦労様」

「ジョナ君は君の力で止血したから死ぬ事は無いと思う。ただ右腕は……」

「再生薬、早く欲しいわね……」


オロ達は少し顔を伏せソファーに腰かけた。


「……それでガッドは大丈夫なの?」

「ああ……お前のお蔭で毒は抜けた。それより子供が攫われたんだろう?」

「ええ、アルダーさんは王城の地下が怪しいって言うんだけど、結界があるみたいで私が動くとバレちゃうみたいなの」


「悪魔除けの結界か……」

「僕が行って攫ってこようか?」

「駄目です!!オロ殿は超能力は有っても武術は全く駄目じゃないですか!!」


アルダーは両手の拳をブンブン振って声を上げた。


「まぁ、僕、芸人だからねぇ」

「某が斬ったバレラは影武者だったようじゃから、恐らく巣には同じ様な者が控えておるじゃろう」

「あんな化け物が何匹もいるのか!?」


「うむ、あやつは死の間際、某を自分の者にすると言うておった。ジョナもバレラにやられた様じゃし本体以外にもいるとみて間違いないじゃろ」


嗣光は相手の油断もあり何とか首を落とせたが、まともに戦って勝てる自信は殆ど無かった。


「……オロ、地下には飛べるか?」

「ポロ君の事とか異界人の事で地下はある程度知ってるから出来るけど……」

「なら俺とツグミツ、あとアーズ達も一緒に運んでくれ。五人いれば子供をお前に渡すぐらいは出来る筈だ」


王都にはアーズ、カシム、ロアの三人も入っていた。


「バレラは危険です!貴方達も捕まって苗床にされるかもしれません!」

「心配してくれてありがとよ嬢ちゃん。だが俺は子供は見捨てないって決めてるんだ。他の奴が渋っても俺だけは運んでくれ」

「某も参るぞ。ロミオの友も助けると約束したしのう」


声を上げたアルダーにガッドと嗣光はそう答えた。

二人とも曲げるつもりは無さそうだ。


「うぅ、分かりました。じゃあ私も行きます」

「アルダー君、危険と言ったのは君だろう?」

「私だって術士です!戦えますよ!」


ルシアは話し合う仲間の姿を見て微笑みを浮かべた。

誰も子供を見捨てるという事は考えていない。

多分、ここにはいないアーズもカシムも見捨てる事はしないだろう。

ロアは恐らく文句を言いながらも付き合ってくれる筈だ。


「フフッ、皆いい子ね」

「……ルシア殿、お主が年上とは分かっておるが、いい子は止めてくだされ」

「そうだ。俺達は年下かもしれんが子供ではない」

「いいじゃない、褒めてるんだから。それじゃあアルダーさんを含めて七人が地下に行くのね」


ガッドがアルダーに目をやると、彼女は両手を握りガッドを見返している。

やる気十分といった感じで残れと言っても聞かないだろう。


「そのようだな」

「オッケー。じゃあ私はアナタ達が地下に飛ぶ前に正面から襲撃を掛けるわ」

「牽制という訳だね」


「なるほど、それは妙案かもしれぬ」

「ルシアさん、危ないと思ったらすぐ引いて下さいね」

「アルダーさんは心配症ねぇ……」


ここ半年の付き合いで彼女が優しく真面目だという事は分かっていた。

現在、彼女の両親は西のリベットで暮らしている。

その事についても彼女は自分の家族だけを避難させる事を随分悩んでいたようだった。


「……もう、誰にも死んでほしくないんです。こんな広い世界で巡り合ったんですから……」

「そうね。それじゃあ領主として命令しようかしら?誰も死ぬ事は許さない!」


「……急に領主ぶられてもねぇ」

「そうじゃな。それに襲撃を掛ければバレラの本体が出て来よう。一番危ないのはルシア殿ではなかろうか?」

「俺は一緒に喧嘩はするが部下になったつもりはないぞ」


「なによ皆、そこは『了解』とかでいいじゃない!」

「やっぱり普段の行いですかね」


アルダーの言葉で男達三人は深く頷きを返した。

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