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悪霊の国  作者: 田中
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暗殺者と侍

嗣光が助けた少年ロミオを抱え庭に飛び出したガッドだったが、木々の茂る森の前には赤いドレスの少女達が彼を待ち受けていた。

彼を追って飛び出したジョナも少女の姿を確認し足を止める。


「逃がさないよ」

「逃げれないよ」

「逃げられる訳がないよ」


赤、金、黒と髪色の違う少女は同じ顔、同じ声で三人に逃れる事は出来ないと告げる。

森からはカサカサと枝葉を揺らす音が聞こえて来る。

恐らく同じ顔をした異形の娘が何人も潜んでいるのだろう。


「おっ、俺を襲った奴と同じ顔だ……」

「こりゃあ、確かにツグミツが斬ったのも分かるわ」

「同感だ……やれるかジョナ?」

「やらないと死ぬ。ならやる以外ないじゃない」


「よし。俺が護衛に回る。お前はロミオを守って地下を目指せ」

「はぁ?アタシの方が多対一には向いてるだろ?」

「いざという時、俺では恐らくこの子を守り切れん。頼む」

「……アンタ、そんなに子供好きだったっけ?……分かったよ」


やれやれと顔を顰めたジョナに頷き、ガッドは怯えた様子のロミオをジョナに預けると腰の刀を抜いた。

鉱山から救い出した土小人の手による業物だ。

嗣光は斬り伏せたらしいが、剣士としての力量は彼に及ばない。

やれるかという不安が浮かぶが、ジョナのやる以外ないという言葉を思い出し笑みを浮かべる。


「行け!!」

「逃がさないってば!」


掛け声と共にガッドの体が見えなくなった。

それを合図にジョナはロミオを抱き上げ周囲に刃を展開した。


「髯のおじさんが!?」

「黙ってな!喋ると舌噛むよ!」


森を避け屋敷の壁沿いを疾走する。

背後からは少女達が発するチッチッという音と少女の悲鳴、そして自身の刃が何かを弾く硬質な音が響いていた。


地下への入り口。屋敷の裏にある枯れ井戸に辿り着き、木で出来た蓋を刃で切り刻む。


「逃げれないって言っただろう?」


蓋を覗き込んだジョナに、枯れ井戸の壁に張り付いた少女が笑みを浮かべながら言う。

ジョナはそれを無視して、刃の竜巻を纏ったまま井戸の中に飛び込んだ。


「何を!?ギャアアア!!」


井戸の壁に張り付いていた数体の少女を切り刻みながら、ジョナは地下の抜け道の底に着地する。

底には少女が待ち伏せしている様子は無かった。

あくまで逃げ道を塞ぐ為、最小限の数を配置していたようだ。


ここは下水も兼ねて造られた避難路だ。

道はアルダーの話では王都を流れる川の一つに繋がっているらしい。


「ふぅ、後は下水の流れに沿って進めば外に出られる筈だよ……」

「……ねぇ、おっちゃん達は……?」

「アンタは気にする必要はないよ。……子供の為に命を張るのが大人の役目なんだからさ」


ジョナは自分の言葉で心に苦い物が広がるのを感じたが、それを振り切る様に笑みを浮かべロミオを床に降ろした。


「歩けるかい?」

「う、うん」

「いい子だ」


ロミオの手を引いてジョナは地下道を歩き始めた。




屋敷の庭ではガッドが枯れ井戸の前で戦っていた。

もはや姿隠しは使っていない。

術を使って虚を突けたのは最初の二体までで、その後は的確にこちらの場所を狙って来る。

こうなるともはや剣術、体術で対処するしかない。


少女が腕を振ると庭の木が輪切りになり、屋敷の壁が抉れる。


「クッ……八つ目は伊達じゃないという訳か……」

「そうだよ!見えるよ!お前の恐怖と戸惑いまで!」


攻撃を弾き少女の声を聞きながら、嫌な相手だとガッドは唇を噛んだ。

その後、フッと息を吐き正面の娘を見据える。


心が見えるなら、相手はそれに頼っている部分は大きい筈だ。

ならば……。


ガッドは二度と戻らないと決めていたあの頃の様に心をカラッポにした。


「ん……?」


少女の瞳が戸惑った様にキョロキョロと動く。

更にガッドは術を使って姿を消した。


「消えたって無駄だよ!」


少女は腕を振るいガッドがいる筈の場所を抉る。

だがその攻撃は微妙にずれた場所に放たれていた。


「やはりか……」


攻撃を掻い潜り少女に近づくと、走り抜けながら首を落とした。


「なっ!?何で……?」


少女達はガッドの心の動き、次の動作を瞳を使い捉えていた。

それを逆手に取り、一瞬、心に強く思い少女達の動きを乱す。

相手の虚を突くのは武術において当然の技術だ。


云わばガッドは自分の心を使って少女達にフェイントを掛けたのだ。

姿を消したのは相手がより深く心を読む事を期待してだったが上手く嵌ったようだ。


「クソッ……コイツ気持ち悪い」

「お前達には言われたくないな……」


木の上で牙を剥く少女の一人にガッドは無機質に返した。




館の中でバレラと相対していて嗣光は自身の死について考えていた。

何とか攻撃を弾いていたが、体力、刀ともに限界が近い。


「凄いわぁ、ここまで耐えるなんて……正直、あの坊やより貴方の方がずっと魅力的だわぁ」

「ではロミオは見逃せ」

「嫌よぉ、大好きな物は全部手に入れたいじゃない」


「御伽噺では欲張り者は大概酷い目に遇うと相場が決まっておる」

「フフッ、私は欲張りじゃないわ。だってこの世の全ては元から全部私の物だもの」

「愚かな……世にあるモノは全て偶々同じ時代に存在しただけじゃというのに……」


嗣光はそう言うと刀を鞘に納め腰を落とした。

右手がその納められた刀の柄に添えられる。


「何それ?諦めたの?じゃあ遠慮なく頂こうかしら……」


赤い唇を歪め舌なめずりしながら、バレラは無造作に嗣光に近づく。

バレラが一歩踏み込んだ瞬間、閃光が煌めき、一瞬遅れてバレラの首が床に転がった。

振り抜かれたボロボロの刃が壁の穴から差し込む夕陽を浴びて煌めく。


「ふぅ……死ぬかと思ったわい……」


嗣光は鞘に刀を納め安堵の息を漏らした。

先程の技は師匠に教わった奥の手だった。奥の手だけに二の太刀は無い。

一撃で首を取れねば、がら空きになった正面から命を刈られるが必定の諸刃の太刀だ。

バレラが油断して近づいてくれなければ、恐らく死んでいたのは自分だったろう。


「フフッ、流石ねぇ……」

「何じゃと!?」


見れば落とされたバレラの首が長い舌を覗かせながら笑みを浮かべていた。


「貴方……絶対……私の物に……して……みせるわぁ……」


語り終えるとバレラの目は光を失い、体は糸を失った操り人形の様に崩れ落ちた。

同時に嗣光も緊張が解かれ膝を突く。


「……えらい娘に見込まれたものじゃ……やはり女子は怖いのう……」


弟子のラニの優しい笑顔を思い浮かべ、嗣光は無性に彼女に会いたいと強く思った。

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