女好きの苦悩
体が限界を迎え一旦スリープ状態に陥ったデッドが目覚めたのは襲撃から数日後の事だった。
休眠中のデータを確認しあの後どうなったのか、あらましを探る。
それによると自分は森の奥の平原、ルシアの拠点である街に運ばれたようだ。
ここはその街にある建物の一室らしい。
フローリングの床、木造の壁、窓からは陽光が差し込み鳥の声が聞こえていた。
スリープ状態の説明は事前に受けていたものの、ここまで無防備になるとはとデッドは苦笑した。
彼はこれまで苦戦らしい苦戦はした事が無く、限界を超えた事は無かったので体験するのは初めてだった。
「全く、軍部の馬鹿どもが……最低限動けるぐらいにはしておけよ」
「目を覚ましたのか?気分はどうだ?」
視線を巡らせるとキャタピラの下半身を持ったロボットが二つ並んだ頭部のカメラアイをこちらに向けていた。
箱型の胴体の上に箱型の頭部、胸にはディスプレイが埋め込まれ、胴体からは球体関節の筒型の腕が二本伸びていた。
「お前がルシアが言っていた機械な人か?」
「ルシアが何と言ったのかは知らないが、確かに私は機械生命体だ。名前はエルオニア。それで気分はどうだ?体は動かせるか?」
デッドは右手を持ち上げ顔の前に翳した。
「なんだこりゃ?」
配線がむき出しの金属で出来た手が自分の意思を反映して動いている。
「君の体は深刻なダメージを負っていた。使える部分は流用したが大部分は置き換えさせてもらったぞ」
「しゃあねぇか……元々、思いっきり戦えればいいと思っていたし……」
「ショックを受けると思っていたが、大丈夫そうだな?」
「ああ?こちとらサイボーグになる時、生身を捨ててんだ。今更、体乗り換えたぐらいでショックなんか受けるかよ」
「そうか、それは安心した。まあ、気に入らない所があれば言ってくれ、作り直す」
「へっ、ありがとよ」
そう言うと、デッドは体に掛けられていたシーツを外して下半身を見た。
「よぉ、エルオニアさんよぉ。こりゃねぇんじゃねぇか?」
「むっ、早速、気に入らない点があったか?」
「ああ、気に入らねぇなぁ。何でキャタピラレッグなんだよ!?」
「しかたあるまい。君の下半身は爆散していたのだ。それにキャタピラレッグを馬鹿にするな。悪路走破性、攻撃時の安定性、共に高い性能を示す人気の高い脚部だぞ」
「こんな足じゃ女が抱けねぇだろうが!?」
エルオニアは不思議そうに首を捻った。
「君は機械化された時点で生殖機能を失っているだろう。もうセックスをする必要は無い筈だが……?」
「俺は女と肌を触れ合わせる事で精神的な充足を得ていたんだよ!子作りの為じゃねぇ!」
「……なるほど。元が生身だとそういう問題が起きるのだな。大変興味深い……」
「感心してねぇで何とかしてくれよ」
「ふむ、足を二足歩行型に変える事は比較的容易いだろう。問題は生殖器だが……」
「何が問題なんだよ?」
エルオニアはキュラキュラと音を立てて部屋を移動しながら、問題点をデッドに説明した。
「第一に我々の一族は一般的な生物における生殖行為で増殖しない。子供は自身で製造し作り出すのだ」
「……つまり」
「つまり、私にはそもそも生き物の生殖行為がどういったメカニズムで成されているかデータが無い」
「だから?」
「だから、君がどのような感覚を得ていたのか分からない。分からない事を再現する事は非常に難しい」
「うぉ、マジかよ!?これからずっと女無しで生きていくのかよ!?」
頭を抱えたデッドの肩にエルオニアはポンと金属の手を乗せた。
「大丈夫だ。セックスをしなくても生き物が死んだという例は無い」
「うるせぇ!女も抱いた事の無い奴が言うな!」
「ハッハッハッ、それもそうだな」
笑い声と同時にエルオニアの胸のディスプレイに、ニコニコと笑う抽象化された絵が表示される。
ディスプレイは動かない表情を補う為使われている様だ。
デッドはエルオニアの肩を掴み、箱型の頭部に二つ並んでいる目を覗き込んだ。
レンズの奥のピント調整機能が微かな音を立てる。
「ホントにどうにもならねぇのか?」
「手はない事もないが……非常に困難だ」
「どんな手だよ?」
エルオニアはキャタピラを鳴らしベッドの正面に回ると、両腕を掲げ前腕部を展開した。
其処から無数のコードがウネウネと顔を見せる。
「これは対象の生体反応をモニターするセンサーだ。これを使い生殖行為時における男性の体の変化を調べれば、君の生殖器も再現できるかもしれない」
「それって……」
「そうだ、生殖行為の一部始終を私が見て聞いて知る必要がある」
エルオニアが非常に困難と言った理由が分かった。
商売女に頼めば恐らく行為を見るぐらいは出来るだろう。
だが、この機械生命体のセンサーであちこち調べられながらやれる奴がいるだろうか。
自分だったらコイツにあれこれ質問されながら真横で観察されたら確実に萎える。
「こいつは今までの人生の中で一番ハードなミッションだぜ……」
「そう気を落とすな。生きていればきっといい事もあるさ」
そう言ったエルオニアの胸には笑みを浮かべ親指立てた絵が表示されていた。




