限界を超えて
南北に広がる森の上、閃光が弾け森と大地に降り注ぐ。
だが降り注いだ光は森に落ちる前に拡散し消えていった。
虹色の髪の美女が森を超えた西の平原で、左手と右手を縦に並べたポーズを取りながら眺めていた。
「ルシアめ……妾を顎で使うとは……」
「リゼリア様、まぁそう言わず守って下さいよ。後で警備隊全員でおもてなししますから」
「お主らの宴席は兎族の物と違って健全すぎてつまらぬ。もっとこう本能のままに笑い騒ぐとかはないのかえ?」
「俺はそれでも全然いいんですけど隊長が……」
テリーがチラチラとブラッドに視線を送りながら囁く。
「ブラッドは固すぎるのじゃ。少し羽目を外したぐらいであんなに怒らなくても良かろうに」
「二人とも聞こえているぞ。リゼリア、お前、反省していないようだな」
「はっ、反省はしているのじゃ!……じゃが妾は豊穣と繁栄の女神じゃから……こう本能的に……のう?」
「俺を巻き込まないで下さいよ!」
そんな話をしている間にもルシアが弾き損ねた光の弾が森を超え平原に迫った。
「むっ!二人とも、妾を崇め祈るのじゃ!!」
「はいはい」
「真面目にやらんか!信仰心が強いほど守る力は増すのじゃぞ!」
「分かってますよ。大地母神リゼリア様、俺達の国を守って下さいませ」
「ふう、普段の様子を見ていると素直に祈りにくいな……」
「隊長、そこは切り替えて下さいよ」
テリーとブラッドがリゼリアに跪き手を組んで祈りを捧げる。
過去、六ヶ月の間にリゼリアの力は西に暮らす者達に浸透していた。
幾度も異世界人の襲撃や軍の攻撃をはじき返した事で、民は異変が起きればリゼリアに願う様、習慣づいている。
恐らく光を見た者は今もリゼリアに祈りを捧げているだろう。
草原に落ちると思われた光の弾は領土を覆う様に張り巡らされた、不可視の網目状の力に柔らかく受け止められ天高く打ち上げられた。
「ふう、全く、酔狂な事じゃ。さっさと全力で叩き潰せばよいものを」
「ルシアはあの異界人も取り込みたいらしい。思いっきり暴れれば奴の気もすむ筈だと言っていた」
「取り込みたいなら力でねじ伏せればよかろう。今のルシアなら一捻りじゃろうが。妾は早うギンたちとバカ騒ぎがしたいわい」
「ルシアは最初から人の意思を大事にしてましたからね。ほんの少し辛抱して下さいよ」
森の上、金属の彫像は戦いの喜びに打ち震えていた。
繰り出す内蔵武器の数々は今の所全て弾かれ躱されている。
この体になってからこれほど長く戦った事は初めてだ。
「いいぞ嬢ちゃん。お前なら俺の機能をフルで使っても問題無さそうだ」
「フル?全力じゃ無かったの?」
「当たり前だ。一瞬で終わったらつまらんだろうが」
「ちなみに今何割ぐらい?」
「三割ちょっとだな」
「そっ」
デッドの目に一瞬、ルシアの体がブレた様に見えた。
視界に表示された敵戦力を示す値が爆発的に伸びる。
「……てめぇも全力じゃ無かったって事か?」
「まあね」
「チッ、舐められたもんだぜ。出し惜しみせずにフルパワーで来いよ!」
「いいけど……アナタ、スッキリしないわよ?」
「ゴチャゴチャ抜かさずやりゃいいんだよ!!」
デッドが両手を突き出すと同時に背中からフィンが数枚突き出した。
間髪入れず突き出した両腕が展開し閃光を放つ。
白い光の奔流がルシアを飲み込み空に光の軌跡を描いた。
「どうよ。やる気になったか?こいつを街のど真ん中にぶち込んでもいいんだぜ?」
背中のフィンから陽炎を立ち昇らせながら、デッドは左手を掲げたルシアに問い掛けた。
「それは困るわねぇ」
「何ッ!?」
声はデッドの左の耳元から聞こえた。
「これは私とアナタの喧嘩。でしょう?」
次は右。
「そういう事を言うんだったら、本気でやろうかしら?」
その次は声は真下から聞こえて来る。
敵を示す表示が視界を埋め、気付けばデッドの周りには数百人のルシアが空を漂っていた。
「これは……」
周囲に浮かぶ一人一人が正面の少女と同程度の力を有している。
センサーはそう認識していた。
「分身体?数で押すつもりかよ!」
「降参する?」
「ハッ!俺を舐めるなよ!!」
デッドは両手両足を広げると、全ての内蔵武器を展開した。
その姿はもはや人の形を止めておらず、砲身で出来た針鼠の様だった。
その砲身の全てが全方位に向けて同時に攻撃を放つ。
まるで星が地表に現れた様だった。
光は遠く王都からでも見る事が出来た。
その光の中心でデッドの電子頭脳は悲鳴を上げていた。
放熱が間に合わず内部に熱が蓄積していく。
視覚の隅に表示された限界を示す数値は瞬く間にゼロを表示した。
だが限界を超えてもデッドは攻撃を止めなかった。
敵の表示は消えていない。
攻撃と共に徐々に敵を示す表示は消えていく。
まだだ。限界を超えたギリギリ。体が壊れる直前まで全てを絞り出せ!!
極限状態の中、周囲の敵反応は消え残りは正面の一つだけ。
「うぉおおおおおお!!!」
雄叫びを上げ砲門を前面に集中させる。
先程とは比べ物にならない光が一点に集中し、そして弾けた。
全てを出し切ったデッドの視界。
敵を示す表示は浮かんだまま、そして戦力を示す表示はエラーサインを返していた。
「チッ……やり…損ねたか……」
「スッキリした?」
目の前の少女が問いかける。
問い掛けられたデッドは全身から煙を上げていた。
銀色だった体は熱により赤銅色に変色している。
その変色し変形した顔が、異音を立てて周囲を見回す。
眼下の森もその先の平原もそして背後に伸びる街道も。
見渡す限り目に見えた全ては無傷だった。
「俺の…全力を……押さえ……込んだのかよ?」
「まあね。だって二人の喧嘩に他人を巻き込んだら迷惑でしょ?」
「へへッ、違いねぇ……てめぇの……言う通りだ……」
そう言い終えた時、デッドを支えていた両足のバーニアが限界を超えて爆ぜた。
脚部の爆発により上半身が弾かれ飛ぶ、やがてデッドの体は重力に引かれ森へ落下を始めた。
スッキリした?か……確かにスッキリしたぜ……。
吹き飛び、煙を吹きながら墜落した体を不可視の力が優しく抱き留めた。
そのまま彼の体はルシアに引き寄せられる。
「どういう……つもりだ?……俺は……敵だぜ?」
「喧嘩は終わり。引き入れた異界人には機械な人もいるわ。その人に頼んで治してあげるから、アナタ仲間におなりなさいな」
「……お前、イカれてるのか?」
「かもね。……どうせアナタ暇でしょ?」
「……へへッ……違いねぇ……」
パチパチと火花を散らし、ぎこちない笑みを浮かべたデッドはそのまま機体冷却の為、強制的にシャットダウンした。




