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悪霊の国  作者: 田中
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西の魔女

コリンが祠を破壊した者の捜索を命じてから既に半年程が経過していた。

通常であればコリンは命じた側近に怒りを顕わにしていたのだろうが、そうはならなかった。


敵が何処にいるかは分かっていたからだ。

西の辺境。

魔獣の住む森が徐々に東へ広がり国土が浸食されつつある。


その森の奥にいつの間にか住み着いた黒衣の魔女。

それが祠を破壊した者であり、敵の首魁だと向かわせた兵の報告で判明している。


普通なら軍を動員し踏み潰せばいいだけの話だが、魔女は送った軍勢をことごとく打ち負かした。

その事が原因で貴族達は兵を出すのを渋り始めた。


一番近いリベットは既に森に飲み込まれている。

また国の北西と南西を治める領主達は、敵の豊かさに目の眩んだ者や怯えた者が大半で、コリンの要請に様々な理由を付けて出兵を拒んでいた。


つまり王国の西は殆どが魔女の傘下に下った状態だった。

魔女討伐を命じ送り込んだ異界人達も、誰一人帰って来る者はいなかった。


不気味に広がる西の森。それが徐々に自分の国を覆っていく。

デッドとバレラを使う事も考えたが、あの二人まで奪われれば完全に切り札を失ってしまう。

それ以上に彼らは何時裏切ってもおかしく無い者達だった。


アルダーに奴隷印を飲ませるよう指示をしたが、あの娘はそれに首を振った。

彼女は言う。


「もし縛ろうとすれば、彼らは躊躇無く王都を火の海に変えるでしょう。宥めすかし言う事を聞いてもらう他、道はありません」


その態度はあの二人を呼び込んだお前が悪いのだと暗に語っているようだった。

アルダーの態度には腹が立ったが彼女を叱責する気にはならなかった。

以前は何処か怯え媚びる様子だったアルダーは、ここ数ヶ月で見違える程変わっていたからだ。

彼女に見つめられるとコリンは自分が酷く小さく矮小な存在に思えた。


問題は他にもあった。民が西に流れている事だ。

触れを出して民に動く事を禁じているがそれでも流出は止められず、生活の苦しい小作人等は家を捨てて西へ向かう者が続出した。


原因はいつの頃からか平民達の間で流れ始めた噂。

西に広がる国を切り取った森の先、黄金の小麦が実り様々な種族が争う事無く暮らす場所がある。

辿り着ければ拒まれる事は無く、土地と仕事を与えてくれる。

噂は商人を介して伝わり、王国全土に流れつつあった。


流れを変える為には更なる力が必要だ。

しかし王都の祠に力は満ちたが、探る力を持った土小人は消えた。

力の大きさのみで呼び込めば、デッドたちより危険な存在をこの地に召喚してしまうだろう。


「そういえばあの人もどきは危険だと何度も言っておったな……」


ポルは奴隷印で無理矢理デッド達を探らされた後、コリンに何度も止めるよう忠告していた。

それを印で縛ればいいと無視して呼び込んだのだ。


西の魔女……広大な森の何処から攻めても現れ軍を壊滅させる。

しかも、魔女は一か所では無く、複数個所同時に現れたとの報告も入っていた。


漸く世界から異種族を消せると思っていたのに……。


「よぉ、うかねぇ顔だな」


見れば執務室の入り口に金属の彫像が立っていた。


「デッドか……バレラはどうした?」

「アイツは好みのガキを探しに街に下りてるよ」


「またか……で、何の用だ?」

「西の方が景気が良さそうなんで、手に入れて来ようかと思ってな」

「行ってくれるのか?」


顔を上げたコリンにデッドは金属の彫像の様な顔で歪んだ笑みを返した。


「いい加減、食う事にも女を抱くのにも飽きた。そろそろ始めようかと思ってなぁ」

「始める?何を?」

「決まってるだろ。この星を俺の物にする事をだよぉ」


「……そうか……一つ頼みがある」

「チッ、つまんねぇなぁ、少しは慌てろよ。で頼みってなんだ?」

「異種族を人間以外をこの世界から消してくれ」


デッドは一瞬呆気にとられ、次の瞬間にはゲラゲラと笑い始めた。


「ギャハハハ!お前、そんなくだらねぇ事考えてたのか!?」

「くだらないだと!?」

「ああ、くだらないねぇ。んな事したらお楽しみが減るだろうが?」


「お楽しみ?」

「俺が求めてるのは戦士だ。元の世界と基準が違うこの世界なら俺を殺せる戦士がいるかも知れねぇ」

「自分を殺せる者を求めるのか……どうかしている……」


デッドは牙を剥く様な笑みを見せた。


「刺激が欲しいんだよ俺は。退屈な世界はもう真っ平御免だぜ。じゃあな」


理解出来ない思考に絶句したコリンを置いて、デッドは執務室を後にした。

その後、王城全体を揺らす振動と悲鳴が響いたが、闇に沈んだコリンにその音は届いていない様だった。





デッドは体内に格納されていたバーニアを展開し、凄まじい速度で西へ向かっていた。

彼はとある国家が作り出した人型決戦兵器、その試作品だ。


元々軍所属のサイボーグ兵だった彼は更なる力を求め自ら実験に志願した。

だが、実験がもたらしたのは虐殺を繰り返すだけの空虚な日々だった。

デッドを送り込んだ戦場で得た戦果に軍部は満足したようだったが、それに反比例するようにデッドの心は虚しさを増していった。


誰も自分を殺せない。

命の危機を感じる事無く、一方的に蹂躙し焼き払う。

自分は確かに力を求めたがそれは無敵になる事では無く、より強い力と戦う為だった。


敵の旗艦の主砲を弾き反し旗艦を一撃で粉砕した時、彼の中にこれは違うという強い思いが沸き上がった。

圧倒的過ぎる力は何の感情も彼に与えなかった。


ただひたすらつまらない。

そう思ったから国家に反逆し自分を殺せる者を求めたが、国家は戦う事無く彼に停止コードを送信し動きを止めた。

その後は収監された研究施設で研究材料として保管されていた。


つまらない、つまらない、つまらない。

心が躍る様な戦いを。

おかしな世界に呼び込まれたが、この世界なら自分にそれをくれる奴がいるかもしれない。

バレラはその候補の一人だが、アイツは戦いに意味を見出しているタイプでは無い。

自分を頂点とした王国を欲している奴だ。


戦士、命のやり取りが出来る戦士を!


西へ飛ぶうち森が見えた。

見渡す限り左右に広がる防壁の様な森の上、黒髪黒服の少女が浮いている。

少女の背後の森の向こう、黄金色に輝く豊かな土地が見える。


「久しぶり。えっと、デッドだっけ?」

「お前、見覚えがあるなぁ。……確か呼び出された頃に俺に喧嘩を売った女だったな」

「ええ、私はルシア。で、何の用?」


「羽振りがよさそうだからよ。寝床にしようかと思ってなぁ」

「国民になりたいなら受け入れるけど……どうもそうじゃ無さそうねぇ」

「あん時はバレラに譲ったが、元々あの喧嘩は俺に売ったんだろ?買ってやるよぉ」


ルシアは肩を竦め右手を上げた。


「あの時みたいにはいかないわ」

「上等だ!!」


金属の彫像と場違いなセーラー服の少女は大地に広がる森の上、太陽の下で激突した。

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