不審超能力者
コリンの部屋を辞したアルダーは彼の見せた笑みに狂気を感じていた。
それは以前のコリンからは感じられなかったモノだった。
宰相は異種族だけでなく平民、つまり人間も消せと命じた。
彼は人間の中にも今現在ある以上の序列を作るつもりのようだ。
平民の中にも貴族を超える力の持ち主は実はそれなりにいた。
そしてその事は貴族に対してのブレーキ役になっていた。
圧政を行えば、民衆は力を持つ者を中心に反乱を起こす。
過去の歴史がそれを証明していた。
その存在を消す。
それは国を完全に一部の人間だけの為に動く物にするという事に他ならない。
止めなければ……。
アルダーは焦燥感を胸に自室の扉を押し開けた。
待っていた緑の髪の青年に駆け寄り、自分の感じた事をぶちまける。
「アルダー君、落ち着き給え」
「落ち着いて等いられません!このままでは民が全て奴隷にされてしまいます!そんな物は国とは呼べない!」
「彼らの計画を纏めよう。土小人君の探る力、確か力の強さと能力が分かるんだったね?」
「……はい、そう聞いています」
「で、その土小人君の力で国内の力の持ち主を貴族を除いて虱潰しにすると」
「そうですが……」
オロは小さく頷き、笑みを浮かべた。
「だったら阻止は簡単じゃないか」
「簡単……ですか?」
「うん、その土小人君を連れ出せばいい。どこにいるんだいその子?」
「地下に軟禁されていた筈ですが……」
オロはアルダーの瞳を見つめ微笑んだ。
突然見つめられ微笑みかけられたアルダーの頬が赤く染まる。
「フフッ、最近の君の心はいつ覗いても心地いいね」
「うぅ……裸を見られているようで、喜んでいいのか判断に困ります」
「胸を張り給え。他者を慮れるのは美徳だよ……じゃあ行って来るよ。アルダー君は異界人の説得を進めておいて」
それだけ言い残しオロは微かな光を残し消えた。
王城の地下、見てくれだけはいい一室で道化の姿をした少年がベッドに寝っ転がっていた。
茶髪茶目のその少年は両手を枕に天井を見つめながら、その日、何度目になるのか分からないため息を吐いた。
「はぁ……リラに会いてぇなぁ」
「君、リラ君の知り合いなのかい?」
「知り合いっていうか女房だよ。……誰?」
いつの間にかベッドの横に見知らぬ男が立っている。
「やぁ、初めまして、僕はオロ。人智を超えた力の持ち主、超能力者だよ」
頭を下げたオロを首だけ動かし確認しながら少年が口を開く。
「……いや、人の部屋に無断で入り込む奴は超能力者とかの前に不審者だろ?」
「さすがリラ君の旦那さん、目の付け所が違うね」
少年は苦笑したオロを見て、体を起こすとベッドの上に胡坐をかいた。
「んで、リラはどうしてる?」
「何、僕がリラ君の知り合いだって信じてくれるの?」
「信じるも何も、俺を騙してアンタに何の得があるんだよ?」
「……えっと、そうだな……君を連れ去って宝石を磨かせるとか!」
「そんなの俺で無くていいじゃん。鉱山に行きゃ俺より腕のいい職人は大勢いるんだし」
「……駄目か。手強いね」
肩を落としたオロに少し呆れて少年は問いかける。
「アンタ、ホントに何しに来たの?」
「いや、君を連れ出しに来たんだけどね」
「連れ出すねぇ……有難い話だけど無理だな」
「どうしてだい?」
「奴隷印って奴?あれを無理やり飲まされた。ご丁寧に効果を色々説明してくれたよ」
諦めきった様子の少年にオロは指を一つ鳴らして手を差し出した。
「それってこれかな?」
差し出した手の上に青く光る結晶が乗っている。
少年はハッとした様子で自分の胸を押さえた。
「胸の違和感が消えてる……それって俺が飲んだ石か?」
「その通り。どうかな?不審者から超能力者に格上げしてくれるかな?」
「あ、ああ。アンタは立派な不審超能力者だ!」
「不審は取ってくれないんだね……」
「まだ、リラの話を聞いてないからな」
少年がそう答えた時、部屋の扉がカチャリと鳴った。
兵士が開けた扉をコリンの側近がくぐった時、部屋にはもう誰もいなかった。
王城で側近が血相を変えて土小人の少年を探していた頃、デレアの西、ダイア鉱山ではリラが大粒の涙を流していた。
「ポルぅ……生きてたんだねぇ」
「おう、俺はそう簡単に死なねぇよ」
ポルと呼ばれた少年は抱き着いて泣きじゃくるリラの頭を照れ臭そうに撫でていた。
「うん、感動の再会だなぁ……」
「オロさん、夫婦の再会は喜ばしい事ですがね。毎回、予告なしに突然現れるのは止めてもらえませんか?心臓に悪い」
「いや、すまないブラック君、余裕があればそうしたんだけど急にドアが開いてねぇ」
「……あんまり反省していないでしょう?」
「……バレたか。空間転移に使う力は距離より回数なんだ。流石に星の裏側とかだと変わってくるけど……大目に見てくれたまえ」
「はぁ、しょうがない人ですねぇ……いつか賊と間違って斬られないといいですけど」
「……気を付けるよ」
多少反省した様子のオロにポルが声を掛ける。
「あんがとな。超能力者の兄ちゃん」
照れ臭そうに言ったポルの言葉から不審の二文字は消えていた。
その事でオロはニンマリと笑みを浮かべる。
「オロ……グスっ……ありがとうねぇ、まさか生きてこの人に会えるとは思って無かったよぉ……」
「フフッ、どうだいリラ君。僕は偉大な超能力者だろう?」
「うん、これからは手品師とは呼ばない様にするよぉ」
泣き笑いの顔でそう答えたリラにオロは満足気に頷いた。




