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悪霊の国  作者: 田中
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太古の神

祠のある洞窟は木の生い茂る山中の山肌にぽっかりと穴を開けていた。

大きさは馬車でも進める程広く、天井からは牙の様な鍾乳石が無数に生えている。

入り口付近は自然洞の様だったが、床は均され壁には灯りとして松明が灯されていた。


恐らく先程の兵士が灯したのであろう松明は、金属の壁掛けに据えられており洞窟に人の手が入っている事が窺えた。

奥からはアルダーが話していた通り、何やら不穏な空気が漂って来ていた。


「太古の神って奴かしら……」


もしかしたら邪神の様な存在がいるのかも知れない。

それはそれで腕慣らしには丁度いいかも。

ルシアは二、三度右手を開閉させると洞窟の奥に向かって歩を進めた。


洞窟はグネグネと曲がっていたが、基本均された道を進めば迷う事は無かった。

暫く道なりに進むと唐突に開けた場所に辿り着いた。


壁には雄牛の角と鳥の翼を持った巨大な人の像が掘り出されている。

像の足元には何やら紋様が刻まれていた。

そしてその像の前に、見覚えのある奇妙な文様が刻まれた石造りの床が広がっている。

床の周囲には無造作に無数の骨と氷の刃が散らばっていた。


多分壁の像が太古の神で床と紋様はコリン達が後から作ったのだろう。

ルシアが気になったのは、かつて祠で感じた怨嗟が充満してる感じでは無く一点に集まっている事だった。


その一点、松明に照らし出された目の前の像に彼女は目を向けた。

像の目がこちらを見ている気がする。


「こんにちは、少しお話いいかしら?」


像の目はルシアを凝視している様に感じたが、特に反応はしなかった。

足元の紋様に目をやる。

石造りの床の紋様とは少し似ているがかなり古い物のようだ。

よく分からないが、これが像に集まった力を縛っているのではないだろうか。


力を試す意味も兼ねてルシアは右手を紋様に向けて掲げた。

その右手を無造作に握り込む。

ルシアの力は紋様の刻まれた床ごとそれの一部を抉り取った。


「うん。加減が難しいけど暴れる分には問題無いわね」


ルシアが満足気に頷いていると、正面の像から同様の形をした赤黒い塊が姿を見せた。


“楔を断ち切ってくれた事、感謝するぞ娘。これで自由に力を行使できるわ”


その塊の声なのだろう意識に直接呼びかける男とも女とも判別の付かない声がルシアの中に響く。


「アナタは大昔の神様……って感じでも無さそうねぇ」

“無礼な精霊の娘よ……我が名はヴァルディオ。太古より存在せし神の一柱なり。……解放してくれた礼にお前も我が力の一部に加えてやろうぞ”


言うが早いかヴァルディオと名乗った力の塊は翼を広げルシアに襲い掛かった。

ルシアは拳を握るとヴァルディオの顔面に力を放った。


“グガッ!?”

「話をする気が無いのなら、肉体言語で語らいましょうか?」

“たかが精霊風情が生意気な……”


洞窟の上空でオロとアルダーは山の様子を見守っていた。

先程から山が揺れ、土煙が上がっている。


「山が……ルシアさん大丈夫でしょうか?」

「多分ね。僕はルシア君の中を一回覗いてしまった事がある。……彼女の中には彼女以外の無数の意識と記憶が渦巻いていた」

「今更ですけどルシアさんは何者なんですか?ただの異界人ではないのですか?」


「彼女はこの世界で言う所の精霊って奴らしい。それも他の人の魂を大量に取り込んだ」

「ルシアさんが精霊……精霊なんて初めて見ました」

「僕もあんな風に自我をしっかり保っている人は、この世界に来てから初めて会ったよ。前の世界で見た時は一つの事に囚われてる人が多かったから……」


オロの言葉に興味を引かれアルダーが彼の世界の事を聞こうとした時、一際大きく山が唸った。

洞窟の先、山の上部が吹き飛ぶと赤黒い何かが飛び出して来る。


「おっと」

「あっ!?」


オロは飛来する瓦礫を避ける為、アルダーを抱き寄せると洞窟から更に離れた場所に転移した。

遠く赤黒い翼を持った巨人と黒い服の少女が対峙しているのが見えた。


巨人はルシアに語り掛ける。


“神である我に歯向かう気か!?”

「自称でしょ?そんな事より暫く練習に付き合ってもらうわよ」

“小娘がぁ!!”


巨人の拳とルシアの力がぶつかり合いその余波がオロ達に風となって吹き付ける。


「あわわ……あの怪物、祠の像にそっくりです。もしかして大昔の神さまじゃあ……」

「アルダー君……神は人の心の中にしか存在しないって話したばかりだろう」

「だって……じゃあアレはなんですか!?」


「よく分からないけど、君が言ってた大地の力と人の意識の塊だと思うよ?」

「そんなのにルシアさん勝てるんですか!?」

「大丈夫じゃない……かなぁ?」

「不安になるから断言して下さいよ!!」


苦笑したオロを見てアルダーは叫びを上げつつ巨人とルシアに視線を戻した。


“ググ……この力、貴様、唯の精霊ではないな?”

「さぁ?私、元々この世界の住人じゃないから……それよりこの状態での感覚は大体つかめたわ。かかってらっしゃい」

“きっ、貴様ぁ!!”


クイクイと右手で手招きしたルシアにヴァルディオは激高した。

力を溜める様に上体を逸らすと力を解放するように顔を突き出す。

と同時にその瞳から赤い光が放たれルシアに伸びた。

だが光は軽く振ったルシアの手で弾かれ上空の雲に穴を開けた。


「うーん。あいつ等と比べるとアナタじゃ弱すぎて参考にならないわねぇ」

“弱いだと!?我は二千年以上この地に存在する神ぞ!!”

「だからそれ自称でしょ?……まぁいいわ。アナタ物騒だし私の中でお眠りなさいな」


笑みを浮かべたルシアにヴァルディアは怒りの形相を見せた。

邪神と呼ばれ時の支配者に封印されて千年、最近では異教徒共に溜まった力を掠め取られていたのだ。

ようやく自由になれたというのに、こんな小娘に取り込まれる等、冗談ではない。


“グオオオオ!!消し飛べぇ!!”


雄たけびを上げたヴァルディアを中心に球状の赤い霞を帯びた衝撃波が広がった。


「ヤバい!」

「キャッ!?」


オロは咄嗟にアルダーを庇い周囲に防壁を張った。

だが暫く待っても予想していた様な衝撃は訪れなかった。

振りむけば巨人の姿は無く、ルシアが一人小刻みに両手を動かしていた。


オロはアルダーと二人、彼女の近くへ転移した。


「ルシア君、巨人は?」

「おにぎりにした」

「おにぎり?」

「そっ、これよ」


そう言って差し出したルシアの手の中に三角の赤黒い塊が乗っている。


「……あの巨体をこのサイズまで握り潰したのかい?」

「ええ、あの人、話を聞いてくれそうにないし、乱暴だからギュッと握って食べちゃおうかと」

「たっ、食べるんですか!?それ!?」

「うん。お腹の中でみんなを分解して、ゆっくり一人づつ説得する事にするわ」

「お腹の中で……」


呆然とする二人の前で、梅干し程の大きさに更に圧縮した塊をルシアはポンと口に放り込んだ。


「あっ!?オロ殿、あんな物を食べてルシアさん大丈夫なんですか!?」

「僕に聞かれても……。大丈夫だと……いいね!」

「だから断言して下さい!!」


親指を立て妙に爽やかな笑みを浮かべたオロに、アルダーは眉根を寄せて叫び声を上げた。

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