祭壇と初恋
アルダーはルシアに協力する事を伝えるとオロと二人、各地の祠に調査に向かうと告げた。
「あの……別に調査に行かなくても目ぼしい祠はもう無いと思うわよ」
「……祠を壊したのは貴女ですか」
アルダーは呆れた様子でルシアを見た。
「はい、そうです……」
「はぁ、地図はありますか?」
「えっと、ちょっと待ってね……確かここに……」
ルシアは執務室の机を探りトアラの地図を取り出した。
アルダーは机に広げられた地図に祠の場所を書き込んでいく。
「……私が知る限りでですが、これが国内の祠の場所です。壊していないのはどれですか?」
ルシアは記憶を辿り、地図と自分が破壊した祠を符合させていく。
「えっと……ここでしょ。それからここ」
祠は三か所を除き、殆どがルシアによって吹き飛ばされていた。
「……たった一人でよくこれだけ」
「ホント、働き者だなぁ……」
「ほら、私、分身出来るから」
「分身……羨ましいですね。……とにかく残りの三か所も破壊をお願いします」
地図を見てルシアは眉をひそめた。
「二つは二人に協力して貰えば大丈夫だと思う。問題は王都ね」
三つの内、二つは北東、南東の国境近くに有るようだった。
問題は王都。祠で集めた力で多分結界は破壊出来る筈だ。
また、結界を破壊しなくてもコッソリ忍び込んで壊す事は可能だろう。
だが、それをすれば恐らくあの異界人の二人も動くはずだ。
オロの話から考えれば、あの二人が周りを気遣うとは思えない。
戦闘になれば王都の住民に被害が出る事は避けられないだろう。
アルダーもルシアの懸念を察したのか唇を歪めた。
「……仕方ありません。二つだけでも破壊しましょう。これ以上デッドやバレラのような危険な存在を呼び込む事は、出来るだけ避けたいので」
「分かったわ。でこの二つはどんな場所にあるの?分身が見落とすって事は隠されてるのかしら?」
「ええ、この二つは両方とも洞窟の奥にあります。元々古い祭壇のあった場所と聞いています」
「祭壇?神様か何か?」
「はい、宰相の話では太古の昔、神へ生贄を捧げていた場所だとか……」
「生贄……野蛮だなぁ」
オロは思わず顔を顰める。
「大量の血と魂が呼び水となって大地の力を集めると聞きました……各地の祠はそれを再現する為、造られたそうです」
「じゃあ、地下で亡くなっていたのは……」
「異界人もいた筈ですが、殆どは祠を作る際に殺された人々かと……」
「僕等を呼び込む為だけに人を大量に殺したのかい?」
「直接は知りませんが、恐らく……」
「そんな事の為に人を……完全に邪教の類じゃないか」
基本、笑みを絶やさないオロも、自分が呼び込まれた場所が血生臭い場所だったと聞き顔色を変えていた。
「とにかく、二つだけでも壊す。アルダーさん、オロ、力を貸して頂戴」
「了解です」
「喜んで」
ルシアは笑みを浮かべ頷くと、椅子から立ち上がった。
アルダーが少し驚き視線を移動させる。
「これが分身……」
「そう、残ってやらないといけない事があるから」
立ち上がったルシアは椅子に座ったままの分身に目をやる。
机の上には曲がったスプーンが未だ置かれていた。
「……ずっと気になっていたのですが、そのスプーンは一体?」
「ルシア君に頼まれてさぁ、屋敷中のスプーンを手当たり次第曲げたんだよ」
「何故そのような事を……意味が分かりません」
「それは、その……超能力といえばスプーン曲げって私の世界じゃ決まってたの……ほら、テレビでよく見てたから……」
「てれび……ですか?」
「動く絵で多くの人に情報を伝える機械の事だよ。いやぁ世界が違っても考える事は余り変わらないんだね」
アルダーは想像が出来ず首をひねっていた。
「子供の頃、そのテレビで見ていた物を目の前で見て興奮しちゃって……気が付いたら屋敷のスプーンの殆どを……」
「そしたらメイド長が激怒してさぁ……いやぁ、間に立った執事のロイドさんには悪い事しちゃったなぁ」
ルシア達とオロは苦笑しながら同時に頭を掻いた。
アルダーはそんな二人を見て少し呆れていた。
「試すなら一本で十分でしょう?執事さんとメイド長に同情を禁じ得ません」
「アハハ……反省してます……」
「ルシア君が子供みたいにはしゃぐから、僕も嬉しくなっちゃって……」
「「「アハハハハ……はぁ……」」」
渇いた笑いを上げ、ため息を吐いたルシア達とオロ。
シンクロした三人を見て、アルダーはこの人達に協力すると決めたのは間違いだったかもと早くも少し後悔していた。
その後、気持ちを切り替えたルシア、アルダー、オロの三人はアルダーの記憶を頼りに北東の祠に転移した。
上空から見下ろした洞窟の周囲には調査の為か王国の兵士の姿があった。
「そう言えば、宰相が祠の状況を調べるよう指示を出していました。鳥を使ったのでしょうが動きが早いですね」
「最優先事項とか言ってたもんね。どうするルシア君?」
「祠はあの洞窟の奥なんでしょう?」
「はい。ですがお気を付けを。一度来ただけですが、他の祠と違い、ここと南東の祠は何やら禍々しい物を感じました」
「生贄の祭壇とか聞いてたからじゃないのかい?」
「そうとも言えないわ。近づいて気付いたけど他の場所とは違うみたい……二人はここで待っていてもらえる?」
ルシアの提案にオロは眉をひそめた。
「一人で大丈夫かい?一緒にいった方がいざという時、転移で逃げられるよ?」
「大丈夫。集めた力を試してみたいの……オロは兵士を遠くへ飛ばしてくれない?」
「……分かったよ。アルダー君をお願い」
「キャッ!?」
オロは浮かせていたアルダーをルシアに託すと目の前から消えた。
転移は何度か目にしたが、やはり便利だ。
ルシアは自分にも出来ないかオロにコツを聞こうと暢気に考えていた。
その横ではアルダーが不安そうに下の様子を見つめている。
「アルダーさんはオロの事が気になるの?」
「えっ!?きっ、気になるというのは、どっ、どういう意味でしょうか!?」
「いや、心配そうだなぁと思って」
「ゆっ、友人ですから、しっ、心配するのは当たり前じゃないですか!?」
「フフッ、そうね。……アナタ、本当に可愛いわね」
ルシアは赤面し慌てるアルダーを見ながらクスクスと笑った。
「うー、揶揄わないで下さい!」
アルダーは両手の拳をブンブン振りながらルシアに抗議の声を上げた。
彼女はこれまで男として王宮で生きて来た。
その地位や容姿に魅かれ、声を掛けて来る女性は数多いたがその全てを拒絶してきた。
そうなると今度は男性が近づいてきたが、正体を知られる訳にはいかないアルダーは当然それも拒絶した。
王宮ではアイツはおかしいと陰口が囁かれたがアルダーには好都合だった。
コリン等、一部の有力貴族はアルダーが女だという事に気付いていたが、従順な彼女を都合良く思っていたのか騒ぎ立てる事はしなかった。
結果、彼女は恋愛に関する事については、ほぼ経験の無いまま育ってしまったのだ。
仮に公表すれば他の貴族からの追及は避けられないだろう。
彼女は結婚をあきらめ、いずれ親戚から養子を貰う事になるのだろうと漠然と考えていた。
異界人、それも超能力者。
おかしな人だが、心を読める相手には自分を偽る必要は無く、オロはアルダーにとって初めて気兼ねなく話せる相手だった。
空を飛び、女である事も知られ、異種族と人が暮らす町を共に見て、自分達の暮らしている世界も一緒に見た。
気が付けばアルダーはオロの姿を探していた。
アルダーは気付いていなかったが、彼女にとってそれは初恋だったのだ。
「アルダー君、ルシア君に何か言われたのかい?」
突然、目の前に現れたオロに赤面していた顔が更に紅潮する。
「なっ、なんでもありません!突然現れないで下さい!」
こちらが揶揄っている時はいいが、揶揄われると脆いのはやはり経験が足りない所為だろう。
あたふたして声を荒げてしまう。
「女の子はやっぱり永遠の謎だなぁ……。ルシア君、全員飛ばしたよ」
そんなアルダーの様子に首をひねり、オロはルシアに兵の排除を告げる。
「ありがと。それじゃあ二人は離れていて頂戴」
ルシアは二人を見て微笑み、オロにアルダーを託すと洞窟に向かい身を躍らせた。




