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悪霊の国  作者: 田中
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見下ろす世界は……

部屋を出て廊下を歩き屋敷を出る。

高台から見下ろした町は周りを取り囲む壁との間に空白地が多い。

一部では建物の建設が為されているので、これからドンドン発展していくつもりなのだろう。


「アルダー君、どうする?帰るつもりなら送っていくけど?」

「オロ殿……私がこの町の事を上に報告するとは思わないのですか?」

「思わない。君は僕に奴隷印を飲ませる時も申し訳なく思っていたろう?」

「……そう言えば、奴隷印はどうしたんです?」


オロは真上を指差した。

アルダーは指し示された空を見上げ首を傾げる。


「空…に向かって放り投げた……という事ですか?」

「空というか……そうだな……君に分かる様に言うなら星の世界に行ってもらった」

「星の……天上……神の世界へ?」

「フフッ、あそこに神様はいないよ。技術が進めば誰だって行ける場所になる」

「では神は何処に……リエール教の教義は誰が……」


空を見上げたアルダーと一緒に空を見上げながらオロは答える。


「多分、神様って奴はそれぞれの心の中にいるのさ。それと教義を作ったのは多分人間だよ」

「神は存在しないと?」

「僕は会った事は無いなぁ。君はあるの?」


「ありません。そもそもそれ程、熱心な信者ではありませんし……我々は何を根拠に異種族を下僕と思っていたのでしょうか……」


俯いたアルダーにオロは困った様に笑って口を開いた。


「行ってみようか?」

「行くって何処へ?」


オロは再度、空を指さした。

空を見上げ、まさかとアルダーは顔色を変える。


「オロ殿……嘘でしょう?」

「何かで読んだけど、自分達の世界を外から見ると世の中の見え方が変わるらしいよ」


ニッコリ笑うとオロはアルダーの腕を掴んだ。


「まっ、待って下さい!?天上には太陽神がいて、近づいた者を容赦なく焼くと言われていてですね……」

「アハハッ、そんな危ない所までは行かないし、行けないよ」


楽し気に笑ったオロの言葉が終わると同時に周囲の景色が変化する。

変化は数度に分けて起こり、その度に見える物は変わった。

一度目は町の上空、二度目は更に上ったのだろう、大地が丸みを帯びているのが分かった。

三度目は眼下に雲が見え空が暗くなっている様に感じた。


そして四度目、真っ暗な空と青く巨大な球体が視界を支配していた。


「どうだい。これが君達の住む世界だ」

「……丸くて……とても青いです……綺麗……」

「青いのは海だね。僕等がいたのは真下」


オロにしがみ付きながらアルダーは恐る恐る足元を覗いた。


「緑色と茶色です……白い大地は山脈ですか?」

「そうだね」


あの巨大な山脈が、此処から見下ろすと世界の一部でしかない事が分かる。

アルダーは頭の中の地図と照らし合わせた。

大国だと思っていたトアラは、手を翳せば隠れてしまうぐらいの大きさしか無かった。


知らず知らずの内にアルダーは泣いていた。

こぼれた涙が球体となって宙を舞う。

オロは泣き出したアルダーに慌てた様子で声を掛ける。


「あわわッ、強引すぎたね!ごめん、すぐ戻ろう!」

「いえ……馬鹿馬鹿しくなったんです。あんな小さな場所で私は必死に何をしていたんだろうって……」

「ここから見れば小さいけど、沢山の生き物が暮らしてるよ?」

「分かっています。私が感じたのは家と立場を守ろうとしていた自分の小ささです」


思えばコリンの不興を買うまいと、おかしいと感じつつ命令に従ってきた。

大きいと思っていた王都も王城もここからでは大地の模様としても判別出来ない。

自分はこの眼下に広がる世界のその片隅が全てだと思っていたのだ。


あんな小さな場所でのルールが自分の全てだった。

人間以外を下僕と見做すリエール教の教義。

それが唐突にちっぽけに思えた。


トアラ。

手を翳せば隠れてしまう国。

そんな小さな国の中でいがみ合ってどうする。

みんな等しく、この大地で生きる住人だというのに……。


「フフッ、フフフッ」

「アルダー君?」

「本当に……何に怯えていたんでしょうね私は……」

「あの……アルダー君?」


困惑気味に問いかけたオロにアルダーは涙を拭って笑みを見せた。


「協力します。その為にまずは各地の祠を調査しましょう」

「えっ?どういう事?」

「異界人達を説得してルシア殿の下へ導くにしても時間が掛かります。従う振りをしていた方がいいでしょう」


「取り敢えずコリンの仕事をするって事?」

「ええ。という訳なので、ルシア殿に説明したらすぐに出発しますよ」

「僕も行くのかい!?」


アルダーはオロの腕に抱き着き、上目遣いで彼を見上げた。


「当たり前じゃないですか?それとも、か弱い女性一人で国中回らせる気ですか?」

「……なんだか君、性格変わってないかい?」

「世界を見れば変わると言ったのは貴方じゃないですか?」


「……確かに言ったけど……僕としては狼狽えたり驚いたりしてる君の方が好ましかったんだけどねぇ」

「……やっぱり楽しんでいたのですね?」

「……悪かったよ。君の反応が可愛らしくてつい……」


視線を逸らして気まずそうに答えたオロを見てアルダーは微笑みを浮かべた。

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