苦情と提案
アルダーが重い足を引きずる様にしてコリンの執務室へ辿り着いた時、部屋の中の空気は騒然としていた。
コリンの表情は怒りで歪み部屋にいた側近達の顔も強張っていた。
「コリン様……何かあったのですか?」
「各地の祠が何者かにより破壊されている」
「祠が……」
「現在確認されているだけでも五つだ。今、早急に全ての祠を調べるよう指示を出した所だ」
「……五つに西の辺境の物は含まれておりますか?」
「西?……そこもか?」
コリンの頬が不愉快気に引きつる。
アルダーは喉を鳴らすと、ゆっくりと頷いた。
「オロ殿の報告では祠は無く、山肌に雪が積もっているだけだったそうです」
「あんな辺境の祠まで……」
「ハーグの様子も報告にはありますが……」
「今は外に目を向けている暇は無い!……アルダー、オロに犯人を捜すよう命令を出せ」
「それが……」
「どうした?」
口ごもるアルダーにコリンは訝し気な視線を向けた。
最悪だ。このタイミングでオロは逃亡しました等と言えば怒りの矛先は自分に向くだろう。
「何だ?問題でもあるのか?」
「……実は……」
「アルダー君、また仕事の依頼かい?」
突然、執務室に現れたオロに側近達が身がまえた。
「オロ殿……何故?」
「困ったら呼び給えと書いてあっただろう?」
「……貴様がオロか?何となく覚えがあるな……たしか超能力とかいう術紛いの力を使えるのだったか?」
「君ねぇ、自分で呼び出しておいて顔と名前もうろ覚えとか、酷くないかい?」
「宰相閣下に向かって何という口の利き方だ!」
「よい、異界人に礼儀を求めても無駄だ。それより貴様も知っている祠が各地で破壊されている。超能力とやらで犯人を特定せよ」
オロは顎に手を当て少し考えた様子を見せた。
「何をしている?これは最重要案件だ。さっさと仕事に掛かれ」
「僕もプロなんでね。先に報酬を決めておきたい。最重要案件っていうなら報酬も弾んでもらえるんだろうね?」
「……いいだろう。犯人の居場所を見つけたなら欲しいだけくれてやろう」
オロは満足気に頷いた。
「了解しました宰相閣下。……そうだ、アルダー君借りていいかい?僕だけじゃ祠の場所が分からないからさぁ」
「好きにしろ。アルダー、異界人の世話を部下に引き継いでおけ」
「はっ、はい」
「それじゃあ、行こうかアルダー君」
「……では閣下、失礼いたします」
「うむ」
執務室から出たアルダーは暫く廊下を歩き、人目が無くなったのを確認してオロに詰め寄った。
「貴方、逃げ出したんじゃなかったんですか!?」
「声が大きい。いやね、君が困っているみたいだったからさぁ」
「ええ、困っておりましたとも!主に貴方の所為でねぇ!」
「まぁまぁ、落ち着き給え。……ここじゃ何だから場所を移そうか?」
そう言うとオロはアルダーの腕を掴んだ。
アルダーが何か言う前に目の前の景色が変わる。
そこは見慣れた自分の家の書斎だった。
「これが空間転移というやつですか……」
「うん、君もここなら落ち着くだろう?」
「それで、私が困っていたからという理由だけで戻って来たのですか?」
「それもあるけどねぇ……提案があるんだ」
「提案?」
「君、引っ越す気はないかい?」
アルダーはオロを訝し気に見返した。
「どういう事です?」
「君だってあの新しい二人はヤバいと思ってるんだろう?」
「……」
「実はあいつ等の中を覗いてみたんだ。あいつ等の中には歪んだ欲望が詰まっていた。どちらもこの世界を牛耳る気満々だよ」
「だから逃げろと?私はこの国を守る騎士ですよ?」
「うん、知ってる。でもあいつ等の近くにいると君、死んじゃいそうだしねぇ」
オロは苦笑しつつアルダーに言う。
「どうしてそこまで私を気に掛けるのです?」
「似てるからかな。昔の僕に……」
「……引っ越すって一体どこに連れていくつもりですか?」
「メモに書いた祠の近く、デレアっていう田舎町さ」
「デレア……リベットの西……荒れ地ばかりの土地だったと記憶してますが……」
「まぁそうだね。でも今、色々やってるから数年待たずに豊かになると思うよ」
色々?あんな荒れ地をどうやって?
かつてコリンに随従して祠に赴いた時を思い出しながらアルダーは首をひねった。
「見もせずに決めろって言っても無理か……そうだな、アルダー君。部下に引き継ぎをしてきたまえ。それが終わったら連れて行ってあげるよ」
「……勝手な人ですね」
「フフッ、自由気ままなのがフリーランスの良い所だよ」
「全く……分かりましたよ。このまま街にいてもコリン様に叱責されそうですしね」
それから数時間後、引継ぎを終えたアルダーを連れオロはデレアへ転移した。




